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家にドラゴンが来たらどうしよう  作者: そろまうれ
9章 家とドラゴン
92/107

92 エピローグ あるいは家の終わり

膝をつく、身体が――機構体のあちこちが剥がれて落ちる

魔力の一切を消費し尽くし、体躯を支えていられない。


意識は、空白だ。

何もない、ただのブランクが満ちている。

情報は入った端から燃えていく。


それでも、なんとか情報を残そうとする。

まだ、ここですべてを失うわけにはいかない。


外部には竜炎の余熱が満ち、内部には記憶燃焼の熱が残り続けた。

存在不可能とも思える火熱に満ちている。


遠く彼方では、気配が遠ざかる様子があった。

誰か、おそらくは人間種が退避をしていた。

遅々とした速度、混乱の様子が見られる。

魔力こそあるが、それらはタンパク質で構成されていた。

これで生き残れるはずがない、だが、この地点から彼らの場所まで、何枚か板状結界が張られていた。

簡易的なそれが、二種の熱から彼らを守ったようだ。


――ああ、そうだったか……


おそらく、この身が行ったことだろう。

事前にプログラムを組み、自身に打ち込んだのだ。そうして意識せずとも実行した。

それをしなければ、もっと楽に勝てただろう。だが、それでも彼らが無事で良かったと思う。

本当にわずかに、そのような感慨があった。


そうして――


『見事』


ドラゴンが言った。

その首から胸元にかけて切断の痕跡があるものの、気にした様子もなく歩行している。


その肉体に傷をつけることには成功したが、その命にまでは届かなかった。

否、そもそも、これは肉体を持つものではない。

生命体というより、自然現象に近い。


『そうだな、しかし、お前の勝ちだ。お前は()()を打ち倒した』


その本質は、炎と水だ。

竜炎と竜血こそがドラゴンの本質であり、肉体はこの二つをつなぐ媒介に過ぎない。

本当に倒すためには、最高度の炎を消し、無限に再生する水を蒸発させる必要があった。

記憶メモリーの全てを消費しても、それには届かなかった。


『望みを言え、可能ならば叶えよう』


返してくれ――


そんな言葉が、即座に思い浮かんだ。

だが、それが誰を対象にしたものなのか、わからない。

巨大に失われた感覚だけが残留していた。


望みを述べるのに、対象について言えぬのでは、話にならない。

自分でもわからない望みを叶えてくれと言っているようなものだ。

そんなものは、赤ん坊のわがままに等しい。


なら――


「もう、来るな」

『ふむ?』

「この身は――いや、家は、頼まれたんだ。ここを頼むと……」

『なるほど』


ドラゴンは目を閉じ、どこか悲しげに言った。


『承知した、百年はこの地を訪れぬことを約束しよう。この一撃には、その価値が在る。だが、その後にはまた訪れよう』

「うるさい」

『うん?』

「でていけ、もうくるな」


最後の最後まで、残していた記憶がある。

思い出じゃなかった。

暖かいものではなかった、必要だから残していたものだった。


ここを守る。

プロテクトを完全にする。


だって、願われたんだから。

この身は、家は、それを叶えるためにあるのだから。


『ぬお?!』


全天全球全星の完全結界。

簡易版じゃない球状結界。

ありとあらゆるものの侵入を防ぐ絶対の防御。

新たな世界の構築にも似た、境界域の構築。


ドラゴンを吹き飛ばし、余計な一切を弾き飛ばす。

いらない、すべていらない。

守るために、この場所の防衛のために、それ以外を弾き飛ばす。

何も入らせない、何も奪わせない、もう、絶対に。


最後の情報が燃える。

連結され、教えられた星の位置がわからなくなる。


ただ守るために、そのために、球状の結界は構築された。

入れず、出ることもできない、完全な別世界。


構築が完成し、風ですらも止まる

音が聞こえない。

それを発するものが無い。


情報の入力が、ひどく制限された空間。


ドラゴンは、いない。

結界の外だ。

それ以外のものもの、いない。

それらも結界の外にある。


意識をすり抜けた残骸だけが、結界内に残された。

生命活動を行うものは、二酸化炭素を吐き出す存在は、どこにもいない。


――ああ……そっか……


そうして、ひとりぼっちになった。


九章 了

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[良い点] 息もつかせぬ展開 [気になる点] 魔女の正体と何故そんな望みを持ったのか
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