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家にドラゴンが来たらどうしよう  作者: そろまうれ
9章 家とドラゴン
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祭り――東洋のそれを模したものを見ていた。

家も、家主も。


家はただキレイだな、と思っていた。

色とりどりの、衣服や提灯が飾られる。


家主は、感動していた。

遠く彼方の文化がここまで来たことを、その情報の伝達の長さを思い、震えていた。


異なる視点で、異なる想いで、けれど確かに同じ景色を見つめていた。


燃える。

消える。

二人のその想いが、光景そのものが。

ただの力に変換されて、出力される。



繰り出された拳が、ドラゴンの鋭い鉤爪と真っ向から打ち付け合った。

黒い衝撃と白い振動が大地を揺らした。


幾度も、幾度も。

一撃で城壁を破壊する威力が伯仲し、轟き続ける。


『ハ、ハ、なるほど――!』


振り回された尻尾に、ハイキックをぶつける。

ましても互角。

いや、その鱗にヒビを入れた。

代わりにこちらの脛も破壊されたけど、こんなのすぐに回復できる。


『ごく微かではあるが、伝わるぞ、その力の源が!』


牙剥くこれ以上ないほどの笑顔だった。



『私』は言った。

魔女が来た際の出来事だった。

「私かコイツ、どっちを選ぶ?」

口にしたときの、その恐れを知る人間は、きっと誰もいない。


――え、家主。

ごく当たり前に、家は即答した。


けれど、その言葉に、心から震えた。

ああ――間違っていなかった……

おかしな話だった、この時ようやく実感を得た。

どうやら、大切にされている。その証明がされた。

それは本当に、思ってもみない贈り物だった。


ひどいなあ、と今の視点で思う。

家はそんなに薄情じゃない。


そんな感慨も、すべて燃える。消費される。

ただの力に変換される。



空にて剣の閃光とドラゴンの照射が交わる。

互いの全力が空間を軋ませる。


『お前は哀れだ!』


吠えながら、冥炎を吐きながら、嘲笑まじりに笑うという器用なことをしていた。

この身のジェット噴出とドラゴンの魔力飛行、長所は異なるが結果として拮抗していた。

最高速度はこちらが、旋回速度はあちらが上だ。


()()すら持ち得ている慰めを、お前は持たない!』


連続で吐き出される火球を踊るように回避する。

身体に染み付いたはずのそれは、きっともう二度と行えない。


全力で振り抜いた剣を、先ほどのようにまた牙で受け止められる。

相違があるのは、そこに込められた力と熱の量。


剣は極限まで白熱し、牙は自身を焼くほどに赤熱していた。

力の反応により、即座に爆発する。

ドラゴンの頭部が爆炎に包まれるが、効かぬというように即座に首を伸ばし、機構体の頭部へと噛み付いた。

超接近の密着状態。こっちの反撃は爪で受け止められた。

衝突したままの飛行は行えず、錐揉み状態で落下をする。噛みつかれたまま――喉奥から冥い炎が見える。

地面に叩きつけられると同時に、炎が直接顔へと吹きかけられた。



『私』は二日酔いだった。

正直、限界以上に飲んでしまった。

デルタのやつが来たからだった、さすがに美味い酒を知っている。

ついつい飲みすぎた。

こちらの出来事を伝え、いくらか話を続けた。

互いに、飲まなきゃやっていられなかった。


家としては深酒はやめて欲しいと思う。

どうしてあんなものを飲むのか、理解ができない。

午前の気持ちのいい朝日に照らされてるのに、鼻を摘みながら掃除をしなきゃいけなかった。

ぶつぶつとした文句くらいは、きっと許される。

これだから家主は、まったくもう。


家が掃除をしに来た。勝手に入って、勝手に掃除をする。

『私』は、それに気づいていたが、眠った振りをした。

わがまま極まりないが、そうされることに幸せを感じていた。くすぐったいような、妙な気分がある。

こっそり様子を伺っていたことに、果たして気づいていただろうか?


日常的なちょっとした出来事。

平々凡々な朝のできごと。

それですらも、燃料になる、燃えてしまう、エネルギーへと変換される。



機構体を構成する物質に並びを配置し、硬度を底上げする。

完全結界のさらなる応用だった。

内部に全天を模した星々を並べ、この身体が世界そのものであると擬態する。


冥炎――全てを焼く万色の炎は、世界まで焼き滅ぼすことはできない。

牙で保持されたまま、頭部にて炸裂した炎は、決して破壊を成し得ない。


『なにぃ!?』


機構体の背後の土を消し炭に変えたほどなのに、無傷で耐えた姿にドラゴンは驚愕した。


そんなものに付き合う義理はなかった。

効くと思われる方が心外だ。

この身は、『家』を燃やしながら稼働している。

家と家主、二人を薪としてべて動くものが、それより低い熱にやられるはずがない。


最硬の拳がドラゴンを打ち上げた。

その肺から炎混じりの息を吐き出させ、ゆるやかに落下するのを全力のストレートを撃ち抜いた。

最強の生物が地面を転がる。ボーリングよりももっと早い速度で回り、彼方の山肌へ衝突して崩した。



家は料理を作った。

いくらか練習はしたものの、結局あまり変わらなかった。

最低限のそれは、家があまり味見ができないためだ。

ものを食べる、という作業はできるけれど、その美味さ不味さがよくわからない。


長く長く何度もトライアンドエラーを繰り返すしかない。

どうやらこの刺激のことを旨いというらしい、ということをようやく知った。


「まあ、美味いな――」

家主が初めてそう言ったときの感動を、決して忘れることはない。

それだけで家はがんばれた。


そんな想いですらも、今は――



「ああああああああああッッ!!」


燃える、燃える、燃え続ける。

その痛みに、いや、空白の広がりに耐えきれない。

巡る力は刻々と巨大になる。

残る記憶は、本当にわずか、本当に少ししか憶えていない。

それでも、さらに加速する、さらに力を求めて機構を回す。


剣に力を込める。

ほとんど破れかぶれのような集積魔術。


山肌付近にてのっそりと体勢を立て直したドラゴンは、その鱗を溶かした。

その内部から、冥い冥い炎が見える。

鎧人が炎人になったように、その防護の一切を外す。

外して、さらなる高熱を得る。


羽毛のように外炎が踊る。

朱い両眼は蒼く、自身の肉体すら焼きながら猛る。


ほんの僅か、静寂が広がった。

様々な破壊が周囲を撫でて、ここにある二つの命以外を否定する。


『征くぞ』

「来い」


会話は、それで十分。


万色を更に煮詰めた、喪失そのものの光がドラゴンの内側にて発生し、極大の光線となって吐き出された。

広げた翼の、その体表からの放熱が間に合わないほど、全身を蒸発させながらの攻撃だった。


防御に回していた力すらも剣へ込める。

身体がボロボロと崩れていきながら、不格好な一撃を真上から真下へと振り下ろした。

そこに、家自身のメモリーを転用した熱の一切が込められている、すべてを白く焼却し、両断を行う。



最初の記憶を、憶えている――

何もない日々だった。

この身に備わった性質に従う月日だった。


それ以外のものがあるなどと思いもしなかった。

本当に、想像すらしたことがなかった。

人に使われる道具が、迷宮を徘徊するモンスターが、そんなものに直接触れる機会などなかったのだ。


家主の、あの熱を憶えている。

それに触れた感動を記憶している。

きっと、火を最初に発見した人類は、あのような気持ちだった。

純粋な驚きと発見――新しい未来への予感を得た。


家主のそれがどれほどの必死だったか、どれほどの想いか、今このときに至り、ようやく一端を知った。

記憶に意味があるのだとしたら、きっとこの輝かしい日々を保持するためにこそあった。


ああ、まったく本当に――

こんな風に燃やしていいものなどでは、なかったのだ――



接触は一瞬。

互角のせめぎあいも刹那で終わる。

さらなる力に後押しされた一閃が、その熱を切り裂き、突き進み――


ドラゴンを両断した。


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