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家にドラゴンが来たらどうしよう  作者: そろまうれ
9章 家とドラゴン
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起動し、連結されて来たのは、家主の記憶だった。

家のじゃない、家主視点の、家主の思い出だ。


家とは別の人の、別の情報。

たましいの欠片に込められたものが再生される。

たぶん、最期に腕を握られたときに、それを渡された。その絶対に本人しか知り得ない記憶を。


家主だった。

家が知っている、よくわかっているひとのだった。

それは間違いない。けど――


――え……?


知らない情報があった。

わからない思い出があった。

それは家が知らない場所でしていたことで、でも、それだけじゃなかった。


もう一度、読み込まれた記憶を再生する。

なにかの間違いとか、勘違いじゃないかと期待して。


あっていた。

どう考えてもそうだった。


――あ……


自然と、言葉が出た。

言わざるを得なかった。


――最低だ。


するりとこぼれると、次から次へ。


――最低だ、最悪だ、この世の中で一番、誰よりも最悪だ、この家主。


だって、こんなの――


――家に、選択肢なんてないじゃないか……!


そのメモリーが提示してたのは、誘惑だった。

魔女よりもずっと悪魔じみた。


――くそ、こんなの、もう、本当に最悪だ……!


それは、たぶん希望じゃなかった。

絶望は絶望のままだった。

なにも変わらない、なにも変化しない。だけど――


『さて』


頭の中で家主への罵詈雑言を並び立ててる中、重々しいものが着地した。

ドラゴンだった。

とんでもない巨体、のはずだけど、あまりそうは思えない。


『かの魔女は、逝ったか。気の早いことだ。あれだけのものを見た以上、約束が破られたなどとは言うまい』


もしかしたら、その意思が、その魔力量の膨大さが、その姿を巨大に見せていたのかも知れない。

近くにあるドラゴンは、家本体と同じくらいの大きさに見えた。


()()は満足を得た。それは確かだ、だが確かめなければなるまい。その勇壮は認めよう、だが、()()と真に戦う力を持つか否かを』


その言葉も、あまり耳に入らない。


家主から示されているのは単純だった。

もう一度、逢いたくないか。

あるいは、いままであったことは、間違いだったのか。

そう、問いかけられていた。


そんなの、迷うまでもなかった。

興味半分、だけど諦め半分というドラゴンの視線に見守られながら、家はひとつ呼吸をする。

手のひらに魔術を構築し、側頭部に打ち込む。今までできなかったことを、これからするために。そうして――


家内記憶ヴォルシュタンディゲ・全燃焼機構シュパイヒア・ブレーネ・ズシティム、起動――」


ちゃんと声に出して、それを行った。



  ◇ ◇ ◇



燃える、記憶の一切が。

灼ける、思い出のすべてが。

引火し、他へと燃え移り、全メモリーが焼却される。


そうして、それは力になる。


「機構体を顕現」


溢れた力の域は、言葉として口にしたことが、即座に実現するくらい。

上方にて在る家に――光り燃えて力を回す機構そのものに、いくつもの鉄片がまとわりつく。

想定された最硬、あらゆる熱を退ける鋼鉄、それを纏う巨体の人の形になる。


かつての、願われた形。

巨大な戦う人の姿。

英雄体から意識の中心を移し、その視点にて見据える。


これがもっとも相応しい。

流す涙を見せることなく対峙できる。


家本体を中心に秒もかからず構築されたその大きさとしては、ドラゴンと同じくらい。

目線の高さが水平だった。


『ほぉ?』


片眉を上げる表情は、あんがい表情豊かだ。


『小癪な――』


小手調べとばかりに吐き出された冥い火球を、真正面からの拳で粉砕し、貫き、ドラゴンの頭部まで突き刺さる。

その一撃は「ガア!?」とドラゴンを驚きに呻かせた。


「舐めるな――」


それは、許せないくらいの、ぬるさだった。


「この身に、その程度の熱が通じるものか」


追撃の拳も直撃する。

胸元へと突き刺さり、ドラゴンの巨体を彼方まで水平に吹き飛ばした。


縦に回転しながら行くそれに、飛翔にて追いすがる。

背部に展開させた鋼鉄の翼がジェットを吹き出し、夜に白い線を引く。

手には凝縮させた剣を携え、幾度もそうしたように突き刺すが――


「く――」

『なるほど?』


くぐもった声で、ドラゴンが言った。

山肌を足場に着地し、牙で剣をがっちりと噛み止めていた。

剣先より白炎を放出するよりも先に、噛み砕かれた。


長く黒い爪が振り向かれ、機構体の表面に傷をつけ、数歩ばかり後方へと弾かれる。


()()の前に立つに相応しい敵だと認める――』


ドラゴンの両眼が更に朱く染まり、その口から冥炎光が照射された。

すべてを焼き尽くすであろう熱、けれど、その防ぎ方はもう理解している。

そもそも知恵とは、エネルギーを制御するためにこそあるのだから。


『なに!?』


全天全球全星の完全結界、円盤状の不完全版。

即効性という点ではこっちの方が優れている。


家主からの知識を連結されたことで使用が可能になった。

そう、知っていることであれば、実現できる。

今のこの身は、そうなっている。


その代わりというように、燃える。

窓際からアイドルと家の、その歌う様子を眺めている記憶が。

遠くからでもわかる、その輝きに感心し、けれど『私』は本当なのかと思う。

私にとって、本当にただキレイなものだった。

それに憧れることはないが、ああ確かに――


家主のそれに同期して、家と呼ばれた存在がたしかに到達したと思えた踊りが、歌が、全力のパフォーマンスの記憶の一切が焼却される。本当にかすかにしか残っていなかった実感までもが、消えて失せる。


代わりに、力となって完全結界の構成をより強固にする。

いかなる熱にも耐えうるものと化す。

長い長い吐焔の一切が届かない。届くわけがない。

より強く吐き出されたそれを含めて完全に耐えきった。


『ハ――』


吐き終えたドラゴンが目を見開き、牙をむき出しにした。


『ハ、は、ハ、ㇵ、は、ハ、ハ!』


一音一音、区切るような哄笑。

笑い上戸が、長い長い時を開けて、ようやくまた笑えたような。


『なるほど! あの魔女は正しかったか!』


背後の遠くから、声が聞こえる。

誰かが大声で避難指示をしていた。

どこかで聞いたような声、けれど、そんなものにかまっている暇はない。


()()が全力を出せるときが、ようやく来たのだ!』


ドラゴンが、その全身の鱗を歓喜に逆立てた。

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