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家にドラゴンが来たらどうしよう  作者: そろまうれ
9章 家とドラゴン
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家主が、人間に撃たれている。

違う、撃っている人たちはそうだと認識してない。

だけど、でも、間違いなく、家主がそこにいる。


理性はこれはさっきまでの炎人だと言うけど、本能の部分があれは家主だと断言していた。


ふふ、ふふふふ――


おかしくてたまらない、楽しくてたまらない、そんな魔女の声が空気に溶けるように聞こえた。


「かの家主と呼ばれるモノは転生者です。他者の身体を乗っ取るモノです。まったくもって許してはおけません、すべての道理が許容しません、ですから、用意してあげたのですよ――」


滴るような悪意を込めて。


「生半では死なない、とても頑丈な転生先を、すぐ近くに」


家は、駆けた。

やめろ、とか叫んでいた気がする。

やめさせなきゃいけなかった。


人が、家主を殺すのなんて、だめだ。


「以前に、わたくしめはあなたの家に訪れましたね、その際に検見したのですよ、かの家主の、以前の転生姿について。そして、可能な限りそれを模倣した肉体を作成いたしました――ふふふふ、現世の偶然に適合する身体などよりも、過去に住処とした容れ物にこそ魂は引かれる、渡る先としてこれほど相応しいものはない」


戸惑ったように止まる銃弾を潜り、伸ばされる手を弾きながら、そこへと行く。

混乱したように、全身からの苦痛に身を捩る人に、家主に向けて剣を突き刺す。全力での魔力行使、白炎でその全身を焼き尽くす。黒焦げの、炭化した人の形だけが残り、すぐさま倒れる。


「死になさい、死になさい、幾度も幾度も繰り返し、果てることなく飽きることなく、転生という罪深さに在るべき姿で――」


別の、違う炎人が、抑えようとしても漏れる苦痛を口にした。


――あ、あああ……っ……!


だめだ、だめだ。

間に合わない。


「! 火炎魔術を行使できる人は――」

「ああ、邪魔はさせませんよ?」


叫ぶデルタに、魔女が短剣で襲撃した。

偽物でもかつては英雄と呼ばれた人だった、予想よりもずっと卓越した剣技でデルタの動きを抑える。


「家と家主に対して積極的に攻撃はしないと誓いました。けれどあなたは、その対象外です。まったく、余計な妨害はしないでいただけますか?」


でも、結局は変わらない。

他の人の協力に、あんまり意味がない。

家くらい接近して、ちゃんと内部から全部を燃やさないといけない。

そうしないと、こ、殺しきれない……


――う゛……っ


身体が勝手に折れて、胃液を吐き出した。

まだ、三人目なのに、数えきれないくらいの『転生先』があるのに。

口元を拭い、剣を手に行く。

対象を全力で突き刺し、魔法を発動させる。


四人目……

五人目……

六人……


――! ご、ごめん!


力が足りていない。燃やしきれなかった。

半端な苦しみを与えてしまう。

その目がなにかを伝えようとするよりも先に、剣先からの炎で、その身体を消し炭に変える。

たしかに、そこに家主の魂が在ると認識した上で。


すぐに、別の地点に繋がりが移る。


――あ、あ……


間に合わない、間に合わない、どうしたって時間が足りない。

たましいが、徐々にすり減っていた。

氷の塊を、炎の中に放置したように。

もともと、今まで保っていたのが不思議なくらいだ。


あと、どれだけ殺せばいい――


炎人の群れ。

慎重に、けれど、徹底的に銃弾で蜂の巣に変える様子。

その絶望的な景色。


数が多いって事実が、気が狂うくらいの焦燥になる。


――誰か……


思わず、思ってしまう。


――誰か、「願って」……っ!


家が、ちゃんと家主をぜんぶ殺せるように。


――お願いだ、お願いだ、誰か、誰か……ッ!


そうじゃないと届かない。

そうしないと失われる、なくなってしまう。

家が、家である理由が。


「あ――っ」

「だから、それは許しません」


デルタと魔女は、変わらず戦いを続けてる。

余人が入り込める隙間がない。

ああ、いや、家が、加勢に行けば、いいのか……?


でもそれをすると、間に合わない。

次の家主を殺すことができない――


遠くにあるドラゴン、さっきまで馬鹿みたいに吐いていた炎のことなんて知らないように、ただ見下ろしている。

炎人たちは変わらず、プログラムされた動作のまま攻撃を仕掛ける。

家からは見えない人たちが、必至に戦っている、声を上げている、生き残ろうとしている。


そんな最中――


家主となった炎人にレイピアを突き刺す。

また燃やしきれない。

魔力がもう底をつきかけている。

無用な苦痛を与えてしまう。

そのことの申し訳なく思うけれど、どこかもう摩耗している。


残る魔力を振り絞る。

目が勝手にボロボロと液体を垂れ流す。

炭化した手が家の手首をつかんだ。

家主の、その口が開く。


「家」


いつもと変わらないイントネーション。

まるで、日常会話みたいに。


「ここを、頼んだ」


言葉を最期に、その全身が黒檀の炭と化した。

家の炎がすべてを燃やし尽くしていた、さっきまでずっと繰り返しそうしていたように。


けれど、無かった。

次が、現れなかった。


ふつ、っと家主との繋がりが断たれた。

あっという間に、あっけなく。


数種類の炎に炙られた風が戦いの底を浚った。

どれだけ探しても、そのどこにも、家主の魂はなかった――


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