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家にドラゴンが来たらどうしよう  作者: そろまうれ
9章 家とドラゴン
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87

全天全球全星の完全結界だった。

絶対の防御、なにがあっても砕けない世界壁。

だけど、これは不完全版。まだちゃんと発動させてない。

本来なら球状のはずなのに、円盤状に発動している。


それでも、その結界は冥い炎を遮った。

家からすればすぐ上の空間で、照射された破壊のそれ以上の侵入を阻止する。


蒼く輝く模倣星座の数々が、最も熱い炎を通さない。

そこに秘された物語が、破壊を受け付けることはないと叫ぶ。


けれど、それでも――


 「小癪」


もったのは一瞬だけだった。

ドラゴンの矜持に傷をつけた防御に、さらなる破壊が叩きつけられた。

噴射の量が増し、温度を更に上げ、両の羽を広げる。


反動でドラゴンの巨体を後退させながら吐き出された冥炎光は、ガラスのように脆く完全結界を破壊した。


――く……!


家は真上へと剣を振り抜く、白い魔力の一撃はいくらか破壊を減少させたけど、焼け石に水。

冥い破壊は、そのまま家へと直進し――


「クソが」


いつの間にか地面に降りていた、おそらくはさっきの魔術を発動させるためにそこにいた家主。

そこへと向けて、ねじ曲がり、引き寄せられた。


 ある程度は炎としての特性もある。

 火炎操作を受け付ける。

 まあ、好き放題に打ち返せるほどじゃなさそうだけどな――


言っていた言葉が蘇る。

打ち返すことはできない。

散らすこともきっと無理。

けど、炎を片手だけに集中させたみたいに、自分のところに引き寄せることは、できる――


家は、叫んだ。

言葉にならない叫びと共に、剣を投擲しようとする。

それよりも先に冥い炎が、一点へと向けて着弾した。



  ◇ ◇ ◇



燃える、燃える、燃やし尽くす――

家本体には被害が行っていない、けれど、『その手前にあるもの』は容赦なく燃やした。


――あ……


惚けていたのは、一瞬。

許しがたい一瞬の遅延。

家は振りかぶった剣を持ち直し、全力で駆ける。

無茶な動きに転びそうになる、その事実すら許せない。

魔力を背後から放射し、可能な限りの最短最速で。


――家主ッ!


燃える、炎に巻かれる、焼かれている。

地面は黒く焼き尽くされたガラス状のクレーター。

その中心点で、家主の掲げた左腕が――火炎制御の魔術を行使したばかりの手がボロリと崩れた。同時に、仰向けに倒れる。


その肌は炭化し、その崩壊に巻き込まれるように崩れ続ける。

あまりに一瞬で、あまりに高熱だったためか、あるいは火炎の収集制御がそれだけ上手く行ったのか、左半身だけが焼かれていた。

けど、無事でいるようにも見える右側にもその熱が、冥い炎の予熱が伝わっていた。徐々に焼ける範囲が広がっている。


家主のたましいを、どうしようもない広範囲で燃やしていた――


「悪い」


家主が、かろうじて聞こえる声で言う。


「やってくれ――」


家に行動を急がせたのは、けど、その声じゃなかった。

申し訳そうな、その残った右目の色合いが、いち早い決断を促した。


――了解ッ!


手にした剣、そこに可能な限りの白炎熱を集め、家主の心臓へ。

両手を使い、騎士の誓いのように、突き刺した。

素早く破壊は実行された。内部を魔術の炎で染め上げる。一切を燃やし尽くす。


黒を駆逐し、ただ燃やす。

冥炎が残らぬように、念入りに。

白い炎が仰向けの人を、ただの焼死体へと変えた。

魔術の炎が、それを成し遂げた。


――は、あ……っ


呼吸を再開するのに、十秒以上が必要だった。

地面を見る。

そこに横たわる人の死体が、目の端に映る。

家がやった。

家がやってしまった。

間違いなく、他でもなく、家が。


口元までせり上がった吐き気を飲み込む。

認めてたまるか。


問題ないんだ、そのはずだ。

だって、違う。

そうだ、だいじょうぶだ、いい、これでいい、事前に頼まれたこと、だからいい。

そのはず、へいき、いつもあったことの形が変わっただけ、たいした違いじゃない、放置した方が最悪だった、再開の目処をぜんぶ潰した、そして、まだ繋がりを感じ取れている、家と家主とのラインは繋がっている。転生が上手く行ったんだ。だから、喪われていない、なくなってない、成功した、これは、だから、違う、絶対にそうじゃない。


これは、殺人なんかじゃない。


手にした剣から、指が離れなかった。

焼かれた血のにおいで、気が狂いそうになる。

まだ終わってない、なにも解決してない、絶望してる暇なんて、ないはずだ。


そうだ、家主は、まだちゃんとこの世にいる、それは把握できている、ちゃんと――


 ――え


顔を上げた。

たしかに、家主がいた。

どこか遠くじゃなかった、薄くなったはずのつながりはさっきまでと変わらない強さで継続していた。

魂があった。すぐ近くに。すぐ横に。


――なんで。


それは、家主は、撃たれていた。

すり鉢状に、銃の射線が通りやすいようにわざと凹ませた塹壕、その底に居る敵の群れ、そのうちの一体に家主の魂がいた。


炎人だった。


内部から溢れる冥い炎に変わらず焼かれていた。

そこに家主の魂があった。

人間の放つ銃弾に撃たれながら。


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