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家にドラゴンが来たらどうしよう  作者: そろまうれ
9章 家とドラゴン
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声が渡る。

声が響く。

朗々としたそれは、まるで自然現象だった。

ただ在るだけで他を圧倒する上位の存在。そもそも倒されることを想定されていない、神話の中の物語――


それが、話しかけていた。

家に向けてじゃなかった。

ほとんど独り言のような、零すように発した声だった。


いま家がいるのは集中治療のための場所。かなり安全な地点のはずだった。

たいていの危険は跳ね除けられる、それこそあの魔女も声しか届けられなかった。


それなのに、大丈夫だなんて思えなかった。

その意に叩きつけられた、ひれ伏さなきゃいけないと思えた。嵐が来たら身をかがめて少しでも安全な場所に行くみたいに、この声が聞こえたら、そうしなきゃいけない――


『たしかに宝だ、だが、これは手に入らぬ宝だ。

束の間に現れた極幻だ。触れれば壊れる類のものだ。

なるほど、しかし、これを見れただけでも、起きた甲斐はあったというものだ』


何も言えない。

指の一本も動かせない。

怖い、ただただ、怖い。


だって、いま向けられてる感情は、敵意ですらない。

ただの感嘆であり、興味だ。

マイナスじゃなく、プラスの感情を示されてる。

なのに「絶対に勝てない」と確信した。


アリの巣を覗き込まれたアリは、きっとこういう気分だ。

その気になれば、相手は巣ごと破壊できる。


「宝――やべえ……」


家主が青ざめた顔で言った。

銃を手にした子が、どうしたのかとこちらを覗き込んでいた。

同じ蒼白の顔を見ると、他の人にも聞こえているらしい。


見れば、まだ残っていた観客たちも、一斉に身体を縮こまらせて、周囲を伺った。


恐慌状態や戸惑いすらも、静々と行う。

きっと全員がアリの気分を味わった。

誰に言われなくても「下手に動いてはならない」って確信をしていた。

ここで騒いで注目を引くのは、馬鹿を一周回って英雄だ。


『ヴィガーラの奴めがいればと惜しくはある、だが、約定だ。この宝を越えることを期待する――』


口が閉じられた。

呼吸音が聞こえなくなる。

だけどそれは――


「全員、警戒! やべえぞ、ここが、ドラゴンに狙われたッ!!」


戦闘開始の合図だった。



  ◇ ◇ ◇



ドラゴンが畏れられているのは、それが『魂を焼くもの』だからだ。


永久不滅の、死した後でも残り、次へと向かうものを損なうことができる。

それは、本当の意味での「敗北」だ。


どんな勇者でも怖気づく、次のない滅びを与えるからこそ、ドラゴンは怖いものである――家はそう思ってた。

とんでもなかった、あんなの、絶対に勝てっこない。

根本から実力が違いすぎる。


けど、その尖兵が、浮かび上がるように現れた。

いつの間にか、それは近くいた。


床に手足をつけた這いつくばった格好。顔や身体は金属製か、もっと未知の素材で覆われて、肌が一切見えなかった。

全体としては細身の人型。要所要所をプロテクターで補ってるけど軽装、武器すら手にしていない。


「ふっ!」


動き出すより先に、家主の蹴りがそれを吹き飛ばした。

地面から引っこ抜くような一撃、だけど、ダメージは与えられてない、敵はしっかり両腕でガードしていた。


「硬ってえ、なんだコイツ……」


それは吹き飛ばされながらも宙で回転し、姿勢を整え、着地と同時に突進した。

再びの激突、拳と拳は互角に停止する。


「くっ」

「――」


蹴りが、肘が、幾度もぶつかり廊下に響く。

互角の勝負ではあるけど、敵は装甲が厚い、有効打撃を与えられていない。


「こんの――」


敵のストレートを避けながら、軽い魔法で反撃。

ダメージを与えるためじゃなかった、敵の意識をそらすための行動だった。


「――やろうッ!」


敵に組み付き、両足を刈るようにしながら、倒した。

同時に伏せた敵の背に乗って腕を逆にねじり、家主は叫んだ。


「家!」

――な、なに?!

「どんだけの数が入り込んでる!」


聞きながら家主は敵の腕骨を折った。


気付き急いで探査した。

目の前のヘンテコ金属と同じ存在が、すでに多数出現していた。


――二十、いや、三十!? 関係ない人間の数が多すぎて、ちゃんとはわからない!


場所は無関係にランダム、人が多い中央地点にそこまでいないのは幸い。

だけど、とにかく数が多い、周囲の人間を無秩序に襲おうとしている。


「それは――はあ?!」


途中で驚いた声を上げたのは、敵が折ったはずの腕で家主を振りほどいたからだった。

技じゃなくて力任せに距離を取った。


家主は呆然と押し出される。

敵はやれやれというように立ち上がり、腕を回していた。

その様子からは、さっきの損傷は窺えない。


家主は厳しい顔でそれを睨む。


「硬い、回復力あり、強さはそれなり、だが、数が多い――奇襲だけじゃねえな、持久戦を仕掛けられていやがる。攻撃というよりも、攫うための行動か?」


それなりだけど、足止めになるくらいの強さはある。

今、他を助けに行けない。


ある程度は戦える人もいるだろうから、まだなんとかなるだろうけど。いつ被害が出てもおかしくない。


「まったく、厳しいことに――」


言い終えるより先に、銃声がした。

肩にかけていたそれを連射していた。

敵の装甲の厚さは、それを気にした様子もない。


「この付近に現在いるのは治療中か、あるいは願いを叶え終えた人ばかり、そして、銃弾は効かない――クソッタレがああッ!!!」


シスター服に銃を抱えた人が、銃撃を止め頭をガリガリと掻いて叫んだ。

ダンダンと足を踏み鳴らしたかと思うと、祈るような格好で天を仰いだ。

敵の前で無防備な姿を晒しながら、叫ぶ。


「銃よ、銃よ、申し訳ございません。ですが、今ここを失うわけにはいきません、望みは必ず次へと託します、ですから、どうか、どうかご寛恕のほどを……!」

「おい……?」

――えっと……?


家と家主が戸惑う中、その銃の子は言った。


「願う! 今から一時間、この家をドラゴンおよびその眷属から守る要塞とすることを!」


心からそう叫んだ。

それは、永続的な願いじゃなかった。

短期的で、倒す対象を明確にして、この家を舞台にした、防衛戦だった。


この状況で、値千金の「願い」だった。

自身の願いを蹴った上でも、それを選んだ。


――了解、記憶燃焼機構シュパイヒア・ブレーネ・ズシティム、起動!


ためらわず家はそう叫び返した。


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