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家にドラゴンが来たらどうしよう  作者: そろまうれ
8章 家とアイドル
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会場が、動いた。

いろいろな場所に、いろいろな別の形として演じていた「家」たちが、思いついたように立ち上がり、観客たちを促しながら歩き始めた。


跳ねて踊って、旗振りのに導かれながら。

あるいは、短鞭を鳴らして客にパンツ一丁姿の行進を強制しながら。

あるいは、ガクガクと震えながら進むのを周囲からサポートしながら。

あるいは、黙って歩く「家」から離れて、伺うようについて行きながら。

あるいは、触手にとらわれて、無理矢理に引きつられながら。


二十人以上の「家」が、そうやって中央の、このステージへと集う。

上から俯瞰すれば、磁石に砂鉄が集まるみたいに引き寄せられた。

その様子が、家にはなんとなくわかった。

どれもこれも「家」の分体、あるいは出力した幻だからかもしれない。

まして、土台となってる場所全体も「家」なんだ。人の動きは把握できる。


けど、今の家の意識の大半は、そんなことに向かわなかった。

歌う、踊る、あるいは叫ぶ、跳ぶ。

その一瞬も止まらない、目の前で全力で行われるすべてを見つめ続けた。


どうしようもなく無益な、きっとなんの役にも立たない熱量、はるか昔の家なら無駄と断じてしまうような、けれど、間違いなくこの世でもっとも高い熱。その行く先は、すべて家に向けられた。

ただ家だけを撃ち抜いた。


会場に、人が集まる。到着する。

旗を振った「家」が、当たり前のように家へと滑り込む。

短鞭を持った「家」が、まるで躊躇せずに合流し、別のが「へへ……」と卑屈に笑いながらも合わさり、あるいは歩く姿をまるで変えぬままに重なり――


そのことに驚く人もいたみたいだけど、受け入れる人が大半だった。

自然と、どこかでわかっていたのかもしれない。ここにいるのも「家」だ。

これは、彼らが見た夢のような舞台の続きだ。


ステージと、その前で呆然とする「家」と、それを取り囲むような観客たち。

そのバランスは、けれど、だんだん崩壊していく、沢山の「家」が合流し、引き連れられた観客たちもここに集まる。


それでも、アイドルはただ家だけを見つめる。

家だけを相手にそのパフォーマンスを行う。その熱そのままに、周囲に人なんていないみたいに――


「さあ!」


手を伸ばした。

こちらに来いと、その動作が言っていた。

遥か上のステージの上から。


身体が、震える。

それに抵抗する術なんて、家にはなかった。

熱に浮かされたように、進む。

なにもないはずの地面を踏みしめ、歩き、そして、登った。


透明な、目に見ないガラスのような階段があった。

はじめからあったわけじゃない、なのに、ごく自然と家はそれを踏んで上がっていた。


星へと向けて、らせん状の透明を登る。

一段ごとに、進むほどに、家の姿が変わった。

衣服が、どこかで見たかわいさに、靴が、どこかで見たような鋭いピンヒールに、手には、どこかで見たような剣を模したマイクが、そして、この世の静謐をすべて込めたような長髪がくろぐろと伸びる。


魔力が充填される、アイドルとして必要な要素のすべてを詰め込まれる。それでも、足りない、まるで不足してる。

遠く登ったその先にいるあの子の輝きには、きっとまだ届かない。


また合流する、ひとりひとり違う「家」が重なり、さらに強く、さらに深く充足する。

憧れたそれに届くように、どこまでもどこまでも。


今はもう下にある観客たち、彼らがざわめきはじめた。

「家」の合流って異常現象に対してじゃなかった。


家とアイドルの子を、たどり着くその先とを比べて、悲鳴に似た声を上げる。


無茶だ――

無理だ――

敵いっこない――

あんなの、人間じゃどうしようもない――


そんな声が聞こえた。

家は、ただ登るほどに動きが最適化された。

どうすればいいのかが、わかってくる。

どうやれば観客の心をつかむのかを、体験した。実際にそれを味わい、行っていた。そのフィードバックがもたらされる。


憧れに至るために必要な情報が、わかる。

今の家はきっと、観客たちから見て、彼らが心を奪われた相手そのものに見えている。

違和感なんてありはしない。

数十もの異なる魅力を統合し、同時に、それぞれのままであり続ける、そう「願われた」のだから。


たどり着く、ようやく頂点へ。

アイドルの子と同じ高さにまで。


思ったよりも高いし、想像よりもずっと広いステージ、その中央に立つ人の、伸ばされた手を、家は取る。


相手の顔は青ざめ、けれど目には熱を灯していた。

見えないけれど、ステージ上には他にも人がいる。

祈るような切実な思いが存在していた。


「やっと来た」


震える唇を隠そうともせず、けれどハッキリそう口にした。


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