68
子供たちには名前がなかった、仕方がないので家が命名することにした。
左からA、B、C、D、Eと名付けたが、かなり不評だった。
なぜだ。
人間の命名方式と違い、実に理にかなったやり方だと思うのだが。
「せめてもうちょっと捻れクズ」
――ならば、アルファと。
「んん? まあ、いいのか……?」
どうやら受け入れられたようだ。
残りも同様に、ベータ、ガンマ、デルタ、イプシロンとした。
ベータは「まあ、所詮、名前など記号ですし」と察したように言った。この子はなぜか家の後をよく付いてくる。
ガンマは「可愛くないぃ!」と不満たらたらだった。別の名を提案したが、なぜか拒否された。
デルタは「名前、怖い、名前、怖いぃ……」と恐怖した。この子が怖がらない対象は非常に少ない。
イプシロンは「うわ、みんなの名前、短すぎない? それ本当に名前? ねえねえどうなのそれ?」と煽った。いつものことだった。
ともあれ、あとは座学をし、戦闘訓練を行う。
食事はバランスを考えた、完全栄養食品を提供すれば事足りる――
と思っていたが、なぜかこの件だけは全面的なストライキにあった。
「クソみたいに贅沢なこと言ってるのはわかってる、わかってるんだが、これをずっとは最低最悪だ、そこらの動物狩って食った方が遥かにマシだろうがよぉ!」
食べやすいようにペースト状にしたものだが、たしかに味は考慮していなかった。
いくらかバージョンが必要だろうか。
「普通に、料理して、芋でも肉でも食わせてくれって、そこまでダメなことか、なあ! なんでいちいち全部粉々にしてんだよ!」
――普通……
「アルファ、ダメだ。この家に最も欠けているのは常識です」
――そうか、人間はいつまでも離乳食では、ダメだったのか。
「赤ちゃん扱いされてたの、あたしたち!?」
――その辺は、人間側にも問題がある。家にもわかりやすいよう形態変化をしてはくれないか?
「やだあ! 腕とか増やしたくないぃ!」
――そんなワガママを言うべきじゃない、きっと探索にも便利だ。
「……ドン引きなんですけど……」
人間とは難しいと、切に思う。
――いや、これもそれもあの家主が出ていったことが原因であり、家は悪くない。
――どうして元ダンジョンだけに育成をさせて、一人で逃亡したのか。
そう言うと、なぜか全員が微妙な顔をした。
「あー、そのな?」
口を開けば暴言だけしか飛び出さないことで有名なアルファが、なぜか言い淀みながら述べた。
「無理もないとは、思う。仕方なかったんじゃないか、たぶんだけどよ」
「あの高齢では、しかも変化の兆候も……」
「あ、あたしは可愛かったと、思うし!」
「怖いけど、怖くない……」
「あはは、あんな風にくたばもがっ!?」
イプシロンの口を全員が塞いでいた。
いろいろと問題はあるが、彼らの仲だけは良いようだ。
多少なりとも問題はあったが、一年も経つ頃には上手く回った。
比較対象がないので不明だが、それなりの強さを得ることはできたと思う。
今はオークを一対一で倒せる程度だが、集落を単独で撃破できる程度の力はつけて欲しい。
「要求レベル高すぎだろ! 俺等をどうするつもりだよ!」
――む? 狩猟を行う動物は、神話レベルの力を得たいと誰もが願うものなのでは?
「こいつら守りたいくらいは思うけどよ、神様にとやらにまではなりたくねえよ……」
「僕は、すべてを知りたいです。別にすべてを倒したくはないです」
――ああ、なるほど、記憶領域の拡張を……
「そういう話でもないです」
「最強に可愛く! 誰よりも美人に!」
――かわ、いい……?
「うん、ごめんね、家にはちょっと難しかったね」
「怖いから、怖いのぜんぶ、壊したい」
――おお!
「でも、わたしが怖いのになるも、怖い」
――おお……?
「なんかさー、みんな真面目じゃない? こーんなわけわかんないとこに連れて来られて勝手されて、その上、変なものにならされんの? ちょっと理解できないんですけど?」
――うん、家も理解できない。
「……そこで同意されんの、一番困るんだけど」
――わからないから、教えて欲しいのだ。
人間とは、一体なにか。
それは、あるいは家から初めて発生した「願い」だった。
あまりに遠く、あまりに違う。
わからないからこそ、知りたいと願った。
別に、今のこの暮らしも、家はそれほど悪いとは思っていないのだから。
代わりに、人間を家は守ろう。
この願いを達成するためにも、それは必要なのだから。
そのような所感を述べたところ、
彼らは天を仰いだり、肩をすくめたり、含み笑いをしたり、ぽかんとしたり、目を見開いたりした。
ただ、最後に顔を合わせてうなずき合っていた。
上手く言語化ができない。
だが、この時、ようやく何かが前進したと、そう思えた。
それはまるで人間の成長のようだった、明確でわかりやすい違いがどこにもない、進化による形態の変化など何もない。ただ、いつの間にか明らかに異なっている。
気づけば、見える景色が変わっていた。
◇ ◇ ◇
四年ほど時間が経った。
順調に彼らは成長した。
だがそれは、絶対の確証ではなかった。
家はいつしか忘れていたのだ、彼らは、人間だったことを。家は、家でしかないことを。
◇ ◇ ◇
「家、家ぇ!」
「ごめん、僕が、僕がミスったばっかりに!」
「……」
「へ、へへへ、別に――」
「なんでよ、なんでよ! なんでっ! ああ、もう喋らないで!」
――あ。
――え……?
いつもみたいに、訓練に行って、実戦経験のために、向かって……
なにも変わらないはず、なのに、なんで出力結果が違う……?
「家、家、頼む、お願いだ!」
アルファが、叫んでいた。
心からの叫びだった。
「デルタを、助けてくれッ!」
ひと目見てわかる。
致命傷だった。
全力を出す必要があった。
そう、そうだ、家は記憶し変移をさせるものだ、も、元のす、姿形は憶えている、問題ない。あとは、t,ただ、変更させれば――
……家の冷静な部分が、阿呆のように単純な事実を指摘した。
そのためのエネルギーが、燃料が足りないと。




