表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/107

60

ヴィガーラが――巨大な猿のような格好をした悪魔が、地面に二つの痕跡を残し、その衝撃を殺しきり、


「てめえ……人間じゃねえな」


裂けた口を嫌悪に歪ませた。


「たかが幻が、俺のこの戦いに割り込むなボケがあああ!!!!」


モニターから飛び出したばかりの王子は、レイピアを眼前に掲げ、一瞬だけ目を閉じる。

他の画面から放たれた光が、その輪郭を照らしていた。


く――」


強く開眼し、細いレイピアに強い輝きが宿る。

振る動作すべてに残光を伴いながら、踊るように剣が通った。


「くっ、この……!」


剣は火花を散らして何度も叩きつけられる。

身体を幾度も翻し、シルクの髪を靡かせながら、円形闘技場中央で優美な剣闘士グラディエーターのように怪物と戦う。


「あ……」


それは、その姿は、ボクが思い描いていた通りだった。

どんな強大な敵にも立ち向かう、勇敢なあり方――


「あ、ああ……」


待ち望んでいた、たしかに切望していた。

それは違うんじゃないか、きっとボクが思ってる通りじゃないんじゃないか――そう囁き続けた理性を吹き飛ばして、目の前に現れる。


「ああ、あああああ――」


悪魔に対峙し、一歩も引かず、敵の巨大な拳を、牙を、魔術を、当たり前のように捌いて、的確な反撃を送り込む。

動作すべてに鮮烈な魔力が籠り、余波だけで密室内に強風を巻き起こす。


ボクが、欲し求めた通りの姿、それは――


「フッ!」


軽いステップを踏むように接近し、黒い暴風のような攻撃を避けきった。


「ガァアァぁああ!!!!!」


ヴィガーラは右腕全体を狼に変え、その口腔に黒い光を充填させ叩きつけようとする。

ほとんど自爆にも近い攻撃だ。

背丈として低い王子に、上から叩きつけるようにする。


だが、王子はひときわ強い輝きを振り抜いた。

レイピアからの光が、全てを焼却させた。


「クソズル野郎がアアァああァッッ!!」


昇る白柱となって悪魔を焼き尽くし、天井にヒビを入れ、即座にそのまま空へと突き抜けた。


コォん――


と奇妙な音を鳴らして、キレイにダンジョンそのものを吹き飛ばした。


空気が、外気が、頬に触れる。

沈みゆく夕日の赤が、舞う土煙の合間から差し込んだ。

密閉型の円形闘技場が、ごく普通の円形闘技場として山中に出現した。


白い光が細く収斂する左右で、黒毛の両腕だけがドサリと落ちる。


「ふぅ……」


一息ついてから、王子は眉を寄せて周りを見た。

円形闘技場の、ぼろぼろな生存者や、影法師の形が徐々に消えようとし、ガラスの封印が氷のように消えようとする様子まで。

その視線の中に、たしかにボクもいた。けれど――


「友は、もういないか。ぼくは、間に合ったのか……?」


悲しそうに、そう言った。



  ◇ ◇ ◇



半ば上げていた手が、徐々に下がった。


ああ、そっか――


それは、当たり前のことだった。

ごくごく自然なことだった。


ボクはもう、「願い」を叶えた。

もう彼から認識されることはない。


不意に、心に湧き上がるものがあった。

あるいはそれは、ボクが無視していたものだった。

ボクの心の有り様を、その形を、見て見ない振りをした。

それを直視するのは、あまりにつらいから、そうしていた。


馬鹿みたいな失恋祭りの騒ぎが聞こえた。

はあ、と一つ呼吸をしてから、俯き悲しむ彼の横をボクは通り越えて歩いた。

手には剣、鎧はもう脱ぎ捨てて無い、手甲と足防具はそのまま。

得た力は欠片も残っていなかった、あの白い力はすべて使い切った。

体力は、まだある。多少の傷があるため回復薬を使った。首筋の血が指に付いた。

ボクには魔力と呼ばれるものがさして無い、けど、その代わり別のものがあった。

ある種のキャパシティだ。

他の力を取り込み、無理なく発動させ、継続させる力だ。

かんなぎに近い特性を持っていると、あの家主からも太鼓判を押された。


「友よ、どうか無事で」


言って彼は戻ろうとした。

優麗な王子としての形を変えず、モニターを通り、元のあの祭り会場へ。



 その背後からボクは斬りかかった。



「!」


反射的に掲げた剣とボクの剣がぶつかり、火花を散らした。

彼の白い力と反発するように、ボクの剣には黒い力が蟠っていた。


「な――」

「つれないな、このまま帰るつもりか?」


無いはずのプレートメイルをなぞるように、黒い魔力が――ボクが取り込んだヴィガーラの残滓が形成された。

凶悪な力が暴れて廻る。

それを制御せず、だがその方向性だけは与える。

お前を滅ぼしたやつを滅ぼし返せと告げてやる。


そう、ボクはあのまま消滅するはずだった悪魔ヴィガーラを、白い極限光に焼かれて消えそうなそれを、取り込み口にしていた。


なんのために?

決まってる――


「王子、お前は、遅すぎたんだ」


思い知らせてやるためにだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ