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失恋祭りだワッショイワッショイ!
失恋祭りだワッショイワッショイ!
櫓の上では家の子が浮遊しながら発光していた。
半ば目を閉じ夢見るようなその様子は、今のボクには刺さりすぎて辛すぎる。
――最初の記憶から……
その言葉を合図に、こちらの広間が弾けた。
木組みの構造がバラバラに飛散し、円形闘技場のあちこちを破壊する。
同時に、モニターの一つが灯った。
分解前の位置と変わらずに、けど、他よりも強く発光している。
そこに、ボクがいた。
今よりも少し若い姿。画面に向かって、いや、「家に向けて」語っていた。
「うん、ボクの初恋なんだ」
手書きで自筆の、王子様の似顔絵を見せながらだった。
陶然としながら「彼」の素晴らしさについて熱弁してた。
昔のボクがマジで言ったことだった。
失恋祭りだワッショイワッショイ!
失恋祭りだワッショイワッショイ!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、ダメだって! 家ぇ! それ無いってえ!!?」
「カッカッカッカッ! やめろォ! 俺を戦いの最中に笑わせるなあ!」
「あー、儂もむかし似たようなことは――」
幸いと言っていいかわからないけど、元広間の木組みが嵐みたいに暴れ回って、ヴィガーラはその対処に追われている。
追われながらも爆笑もしてる、きっちり見てやがる。
「見るな、全員見るなああ!!!!」
ボクの叫びも虚しく、別のモニターが灯った。
ボクの姿はかなり遠い、たぶん家の子が自室からたまたま見たものだった。
屋根上に座りながら、胸前で手を組み、静かに息を吸い込んで。
「この恋は、どうして届かないの。
あなたのことを想い、
あなたの声を心で聞いて、
あなたの笑顔を幾度も思い浮かべて、
眠れない夜を過ごした、マイラヴ――」
「まってまってマジでまって、なんでこれ知られてるの!!?」
『あー、なんかたまにアイツやってたなあ』
家主までそんなことを言ってた。
え、聞こえないようこっそりやってたはずなのに!?
失恋祭りだワッショイワッショイ! の囃子に合わせるように、声が聞こえた。
よく通る張りのある、祭り会場も戦闘現場も貫通する透明な声。
そんな美声で――ポエムの続きが歌われた。
あの寮生出身のアイドルが、祭り囃子の上で歌い上げる。
「お前もか! お前もなのか!」
「ああ、どうして、過ぎていくの
時の中に取り残されたあなたは、離れていく
わたしの心は、なにも変わらないのに
このフィーリングだけが積み重なる
エターナルマイファーストラァヴ――」
情感たっぷりに歌い上げるな……!
『ちょいちょい外国語まぜてんのな』
「うるさい、いいだろ!」
画面の中のボクが、アイドルとなんか唱和していた風だったボクが、ごそごとと懐から紙を取り出した。
憶えてる、一番よく描けた似顔絵だった。
じっと見ていたかと思うと、ゆっくりと尖らせた唇を近づけ――
「死ねぇ!!!!」
「うぉ!? いいところなんだから邪魔するなよ!」
最後まで見ずにヴィガーラに斬り掛かった。
「うるさい! お前が滅びればアレは止まるはずだ! すぐに死ね、今すぐ、消滅しろッ!」
「掃討理由、黒歴史ごまかすためは、いくらなんでも俺が可哀想だろうが! おお、見ろ見ろ、ぶっちゅ行った、ぶっちゅした!」
「ああああああ黙れぇえええええ!!」
失恋祭りだワッショイワッショイ!
失恋祭りだワッショイワッショイ!
あちこちを飛散していた木が組み上がる。
シンプルながら豪勢なそれは、お神輿と呼ばれるものだった。
担ぎ手は透明な人、たぶん向こうでは実際に担いでいる。
ヴィガーラの攻撃に弾き飛ばされたボクは、その上に着地した。
というかクソ、この悪魔、あの映像から絶対に目を離してないし爆笑も続けてやがる……!
「行けぇえええええ!!!!」
向こうにまで伝われとばかりに叫んだ。
篠笛が高く鳴り、太鼓は景気よく叩かれて、暴れ馬のように上下する神輿は、ボクの意を汲んだように向かう。
「面白い、受けて立ってやるよ!」
なぜか別のお神輿に乗った悪魔がそう応じる。
神輿同士が激突し、ボクの剣と悪魔の拳も激突する。
失恋祭りだワッショイワッショイ!
失恋祭りだワッショイワッショイ!
「羨ましいなあ、応援されてるなあ!」
「なら今すぐ、今すぐボクと立場を変われ……! 喜んでそうしてやる――!」
「屋根上でくねくねしながら「や、ダメ♪」とか言ってるけど、お前あれなに?」
「見てんじゃねえええええ!!!」
地面に転がった、ボクがもの凄く憧れていた人にとてもよく似た子が口元の拘束を解いて、ぽつりと。
「んだよ、なんかよくわかんねーけど、画像のおまえもオ○ニーしてんじゃん、おれらオナ友だな!」
「いっそボクを殺せっっ!」
どうして、どうしてあの家はここまで精密に憶えてるんだ。
ああ、そうだね、家が寮生のこと好きだからだ。
なんかボクが汚れてるだけだ。
というか過去のボクはどうしてこうなるかもしれないって予測を少しも立てなかったんだ……!
いろんな意味で部屋の中なら大丈夫だったじゃないかっ!
幾度も神輿と神輿は激突する。
篠笛と太鼓と当り鉦がさらに忙しく囃し立てる。
「こーれは、ダメだなあ」
神輿の延屋根で、ヴィガーラが言った。
「もっと見たいのは山々だが、これは俺にとって居心地が悪すぎる。仮にも神を祝う場に悪魔が参加しちゃ座りが悪い。申し訳ないが、馬鹿騒ぎはここで幕引きだ」
手袋の指が鳴らされ――ダンジョンが暗転した。




