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ボクとヴィガーラが戦い、影法師と人間との集団が戦うその最中、前団長が奥歯を噛みしめながら言った。
「すまない……儂が不甲斐ないばかりに……!」
「ああ、囀ってるそいつはコンラート・トリアー、馬鹿みたいに強かったしとんでもなく手強かった、たしか6日くらいは粘ったか? 俺を殺した回数は歴代四位。というか知り合いか、仲良くやれるな、これで寂しくないなあ!」
叫びながら悪魔は手首から先を飛ばした。
弩の速度で来たそれを剣で弾く。
当たり前みたいに大きな機動を描いて元へと戻っていた。
団長達は頑張ってるけど、普通の戦闘で勝っても、影法師たちは当たり前みたいに立ち上がっていた。
効いた様子がまるでない。
「そこでちょこまかしてんのはヘンリー・ウィルス、最速だって自慢してたが確かに速かった! 倒されんのも速かったけどな! それでも一回くらいは俺を倒せたか? 復活した俺を見たときの間抜けヅラは今でも忘れらんねえ!」
悪魔は指さして哄笑していた。
あからさまな隙にボクの剣が真っ二つに胴を切り裂く。
歯を食いしばった鬼相で、そのヘンリーが駆けた。
闘技場中央からここに来るまでの間に、津波のような影法師集団に呑まれる。
当たり前みたいにヴィガーラはその場で復活していた。
「その必死こいて逃げてんのはリヒャルト、名字はねえ。見ての通りの村人だあ。健気にも短剣一つ持って俺を退治しに来た、あんまりにも哀れで滑稽で薄ら馬鹿すぎて、衣食住完備の1か月間まるまるかけて殺してやった。それでも諦めねえでなんとか一回俺を殺せた栄誉をたたえ、こうしてコレクションに加えた。あー、けど別にこれいらないか?」
口をへの字にして、小首をかしげていた。
ボクが攻撃したことなど無かったかのように肩をすくめている。
その注目の先にいるのは男の子。割と好み。
いや、そうじゃない。
動きそのものは素人だけど、位置取りだけがやけに上手かった。
現在、ボクのバフは消えつつある。
力は少しずつ減っていく。
だから、それよりも前に――
「使え!」
そのリヒャルトという男の子に向けてナイフを投げた。
白い魔力はまだ残留してる。
「ありがとう!」
言って空中でキャッチ、そのまま影法師に斬りつける。
黒い部分を裂き、内部の人を覗かせた。
「お、なんだそりゃ?」
影の隙間から覗く目が見開かれたかと思えば力が入り、くぐもった声を響かせる。
「――!」
そのまま黒い裂け目に両手を突っ込み、無理やりに開いた。
血走った目で、雄叫びを明瞭にさせながら、脱出する。
わずか一人だけど、影法師の戦力が減った。
「おいおいおい、人のコレクションになにしてくれてんだ」
「だったら使わずしまえ!」
「たしかに。観賞用はそうしてるな。こっちの影は使うこと前提だ、お前は真っ当に戦ってるってのに俺の方が間違ってんな!」
カッカッカッ、と笑う合間に、ボクは残りのナイフを投げる。
ひとつは前団長に、もうひとつは集団からどうにか抜け出したヘンリーに、最後に今脱出したばかりの相手に。
「使え!」
「感謝する!」
「まったく、狭いんだよここ!」
「多謝!」
貸したナイフによる攻撃で影を切り裂く。
少しずつだけど、影法師の数が減っていく。
「おお、マレーネ、マイク、トーマス、ツバキ、フェリックス……おいおいおい! こいつらが負けたときの解説が追いつかないだろうがあ!」
自棄になったように黒い魔力を辺り一面にばら撒く。
ボクが知ったことではない。
団長たちの元に行かせないように立ちふさがる。
「どうしてくれんの、なにしてくれちゃってんの、こいつらまた閉じ込めんの大変なんだぞ、散らかしたおもちゃは片付けましょうって親から習わなかったのか!?」
「ボクにおもちゃなんて無かった!」
「Oh、それは申し訳ないことを言った。なんて可愛そうな子供時代だ!」
「悪魔に憐れまれるくらいか、ボクの子供時代は」
悪魔は気取ったように手を鳴らし、「無論!」と断じる。
「おもちゃのない生活は暗闇そのもの、おもちゃがあるからこそこの世はちょっとだけハッピーだ! それを一番楽しめる子供時代に手元にないのは地獄よりも最悪だ!」
口を限界まで裂き、どうにか笑いとわかる形を取って言う。
「俺にとっては、お前ら人間こそがおもちゃだ。何よりも楽しみがいがある、まったくもって飽きない玩具だ。そんな俺からおもちゃを取り上げようとしているお前は、俺にとっちゃ最悪の邪魔者だ、手足を引き裂き、生かしたままで、その眼前でおもちゃを遊んでやろうか?」
「なるほど」
「おお、なにを納得したあ?」
「お前はいい年こいておもちゃで遊んで、おもちゃに話しかけるクソ気持ち悪いやつなんだな、よくわかった」
す――と表情が消えた。
「そうか、お前、普通に殺すわ」
「こっちは最初からそのつもりだ」




