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閃光、轟音。
天井からはパラパラと石の欠片が降り注ぐ。
撃ち終わった体勢のまま、ボクは思わず膝をついた。
この先の生涯、二度とありえないほどの力を放出した。瞬間的に身体に無理をさせすぎた。
放った力は円形闘技場の壁面を粉砕し、ダンジョンの壁を露わにしていた。
破壊の中央には、ヴィガーラの痕跡だけが残る。
大の字に張り付けられた消し炭だ。
相手は、悪魔型のボスだ。
これでも倒し切れたとは言い切れない。
止めを刺すべく膝に力を入れる。
見れば闘技場の中央では、黒い影法師の何人かが徐々にその姿を消し、人間の姿を外気に晒そうとしていた。
やはり操られていたようだ。
ガラスケース内の人たちもきっと元に戻る。
初撃の奇襲で決着。ボクらしいやり方で、この最悪を終わらせた。
まだ完全決着とはいかないが、ここからの巻き返しなんて出来ないし、絶対させない。
影法師の一人がーー前騎士団団長が、頭部にまとわりつく影を抑え込んでいた男が、無念を滲ませながら叫んだ。
「逃げろッ!」
え、と思う間もなかった。
空気が変わった。
音もなくただ見守っていたものが激怒した。
怒り狂い、熱を帯び、糾弾する。
してはならぬことをした、やってはならぬことを行った、許しがたい罪人がここにいる――
全方向からボクへの異議と誹議を溢れさせる。
見えぬ怒りが荒れ狂っていた。
覚えがあった。
「ダンジョン制限の、違反……?!」
憤怒しているのは、ダンジョンそのものだ。
「カッカッカッカッ――!」
欠片も残さず消し去った痕跡、その中央から逆巻くように形貌が現れる。
元のようなスーツ、元のような帽子、手袋、靴、そして巨大な口。
何事も起きなかったかのように、出現する。
「ダメだろぉ?」
ヴィガーラだ。
帽子をパンと叩き、口をあからさまに馬鹿にする形に歪め。
「ここはソロダンジョンだあ、何人もつれて挑戦しちゃいけない、本当に悪い子だァ!」
ダンジョン違反によって起きることは、モンスターの強化と――
ボスモンスターの、即時復活だ。
それが、成された。
ソロダンジョン内に二人以上の人間がいることで。
「お前が、お前が開放しただけだろうがッ!」
「さて、知らんねえ、なんのことだ? クレームはダンジョンに向けてどうぞ?」
この悪魔の討伐が、不可能になった。
◇ ◇ ◇
闘技場中心の何人かが、人の姿を取り戻し、周囲の影法師と戦う。
誰もが心底から悔しそうな表情をした。
慚愧に堪えないそれは、彼ら自身こそが「討伐不可能」の礎になったからだ。
「お前は、『生きたまま』収集していたのか」
「当たり前だよなあ? 集めたものを最適な形で、劣化させずに保存するのはさあ」
コレクションを開放された瞬間、「ダンジョン内に二人以上いる」ことにされた。
生きたまま保存され、生きたまま開放された。
とんだ自作自演の詐欺だが、ダンジョンの判定は融通が効かない。「今ダンジョン内に二人以上の人間がいる」としか判断しない。
「さあて? どうやらバフをかけたみたいだが、お前のそれはどれだけ持つ? おお、好きなだけ俺を倒していいぞ、何回俺を滅ぼしても構わない。カッカッカ! 1か月間それを続けられるのなら見逃してやってもいい! ここには水も食い物も無いがなあ!」
きっとここに来るまでの無意味な距離の長さもそのためだ。
一本道で、追跡しやすいように作られている。
休む場所も、隠れる場所もここにはない。
「趣味が悪い――ッ!」
「おいおい悪魔に趣味の良さを求めるなんて正気か? カカカっ!」
浮かぶ手のひらが開き、そこから黒い閃光が放たれた。
◇ ◇ ◇
戦いは、絶望的だった。
能力では勝っている。
自力ではともかく、バフが乗っている状態であれば打倒できる。
このボス自身は、それほど強くはない。
「死ね!」
「やーらーれーるぅー!」
だが、どれだけ倒しても、それこそ芥子粒残さないほど消滅させても、ダンジョンそのものが、ボスを復活させる。
何事もなかったかのように、また現れる。
おどけて唇を突き出し、手を広げる。
「ナアナア、もう諦めてギブアップしねえ?」
「うるさい」
「悪いようにはしないヨ、ホントダヨ!」
甲高い声で気色の悪いことまで言い出す。
完全に調子に乗っていた。
「さあ、お前も俺のコレクションにならないか!」
「黙ってろ」
「おやおやぁ? 余裕がなくなってますねえ、だんだん弱ってますねえ、限界が近いようですねえ?」
白い魔力を操り、攻撃を繰り返す。
ボスを吹き飛ばし、影法師を覆っている影を消す。
ガラスケースに収められている方は、別系統の処理がされているのか壊せなかった。
「カッカッカッ、どういう気分だ、どういう気持だ。俺が何度も何度も立ち向かうことで負けようとしてる心境は。「こんなはずがない」とお前も思うか? 「こっちの方が強いはずなのに」ってなあ! そういう奴らが攻略される絶望の顔こそ俺の好物だッ!」
今のボクは、願いにより強化し、さらに上乗せする形でバフを加えている。
当然だけど、永続なんてしない。
刻一刻と力は失われていく。
「これ以上はなにがある? どうやって俺を楽しませる?」
「倒す」
「ああ残念、それは現在お取り扱いがされておりません。俺を倒すのは、このダンジョンそのものを破壊するみたいなものだ。ダンジョン解体土木事業計画を立ててからどうぞ?」
袋小路の中、一筋の勝機を探してボクはあがき続ける。




