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ボクがいる位置は円形闘技場の入り口。
正対する位置にヴィガーラが座り、睥睨している。
中央では二人の黒い影帽子のような人型が争い合っている。
静かで無機質で、けれど豪華。
まったくダンジョンらしくないダンジョンの中で。
「ふぅむ」
腕を組み、ヴィガーラは不満そうに口をへの字にしていた。
「容姿は68点、高得点だとは言えない。実力は見たところ41点、確定ではないがそれほど強くはないだろう。俺のコレクションとするには物足りない……いや、おまえ、どうしてここに来た? 無謀な挑戦だとは思わなかったのか? 嫌な上司にでも命令されたか?」
「黙れ」
「うん?」
「ボクは今、感動の対面を果たしているんだ、もう少し黙っていてくれ」
「ふむ、ふむ? ああ、なるほどなるほど、目当ての相手が俺のコレクション内にいるのか。これはこれは失礼した、存分に観賞してくれ」
彼の姿形は変わらない。
あの絵を描いた人は、よっぽどの写実主義者だったらしい。
いや、それでも敵わない部分もあった、ごくごくかすかに呼吸を繰り返す様子。夢見るようにまぶたを閉じている。肌はこの薄暗がりを弾くようにほのかに輝き、髪の毛はさらさらとシルクのように流れる。
「同好の士であるとは思わなかった。たしかにこれは久しぶりだ。しかも強盗のように襲わず、観賞より始めるのは更に珍しいことだ。君はマナーがなっている」
「ボクは――」
暴れる心臓をなだめながら、なんとか言う。
「ヴィガーラ、ボクはお前に感謝すべきなのかもしれない」
「どういうことだ?」
「ボクと彼を出会わせてくれた、本来なら直接顔を会わせることもなく終わっていたはずだ、そのことだけは、感謝する」
抜いた剣を下に向け、柄に額を押し当て礼を示す。
恩人に、その意を示すための動作だ。
「だが――」
剣を半回転させて、構える。
戦いを誓う姿勢で言う。
「それでもなおボクはお前を倒そう」
「騎士だからか、くだらねえ」
「違うとも、お前の宝をすべてぶんどるためにだ」
「は?」
大きな口がOの字に広がった。
すぐにニヤリとした笑いになる。
「いいねえ、嫌いじゃないねえ、我欲ごまかして綺麗事並べる奴らよりかは、よっぽどいい」
「甘く見てくれるな、ボクは騎士であり、盗賊だ。大切なものを守る、欲しいものは手に入れる! 恥ずべきことなどなにもない!」
「気に入った! お前を俺のコレクションにしてやろう! 俺の自慢話に付き合ってもらうぞ!」
走る。
同時に、ヴィガーラの背後から何人もの影法師が飛び出した。
中央にいる二人もボクへと向かう。
次々と、後から後から、あふれるように人が増える。
さながら軍勢だ。
横陣を組む黒い軍隊に、ボクは一人で突入している。
その構成人員は、きっといままでの挑戦者たちだ。
どのような手段かは知らないが、全員が操られている。
ボクがこの悪魔を打倒するには、彼らをすべて倒さなければならない。
さほど強いとは呼べない、ボクの実力で。
そんなことは、到底不可能だ。
「ボクは願う!」
ボク単体の力では、無理だ。
「この悪魔を倒す力を!」
胸元の、木片に意識を集中しながら「願い」を叫ぶ。
一瞬、意識が遠のいた。
考える間も無く木片が弾ける、拡散された魔力がボクの意識圏内に捕らえられて指向性を持つ。
「おおおおぉおおおおッ!!」
力があふれる、循環する。
枕投げのときの無茶な強化、爆弾を食らったパワーアップなどとは比べ物にならない力が、白く巡る。
たまらず振った剣先が衝撃波となり、円形闘技場を割った。
「なにィ!?」
驚く悪魔の様子はどうでもいい。
一歩進むごとに加速する、足跡間の距離は倍々に伸びる。
すべてがスローモーションになる。
全員の動きがあまりに鈍い。
ボクの初撃により混乱した様子の影法師たちを抜け、跳躍した。
「お前、その力はなんだ――」
跳躍しきった真下にはヴィガーラ、唖然とするその巨大な口に向け。
「喰らえ!」
剣をまっすぐ振り下ろした。
咄嗟にスーツの腕が十字にガードし――
巨大な閃光が奔った。
防がれた。
だが、ギリギリと魔力を削っている。
巨大な口が歯を噛みしめている。
「実力41点が粋がるなァッ!」
ほとんどノーモーションで蹴りが振り抜かれた。
人体の動きを無視して、けど、余波だけで闘技場を刻みながら鎧に直撃、為すすべもなく吹き飛ばされた。
鎧だけが。
「はあっ!?」
咄嗟の緊急用として学んだ空蝉。
こんなものはお遊びだと言っていた東洋系の技を使い、絶好の機会を得た。
デカい鎧を無理矢理に脱いだせいで剣はすでに手元にない、だが、これで十分だ。
「さらに願う!」
胸元の二つ目を意識しながら叫んだ。
「ボクのこの願いに対する強化を!」
ペンダントにしていたものが弾ける。
即座にそれは魔力と化し、力となる。
ボクの拳に集結し、悪魔を倒す力ーーあらゆる魔を退ける光となって直進し、ヴィガーラを粉砕した。




