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団長の頑張りは一ヶ月後くらいもった。

頑固を崩したのは、ボクの要求だけではなく、王家からの突き上げもあった。

彼らは「まだあの王子を助けられないのか」と呑気に宣った。


結局、ボクは騎士団からの密命という形で、あのソロダンジョンに向かうことになる。


これで騎士団は暫くの間、王家からの無茶苦茶な要求を回避できるはずだ。

同時に、ボクも「王家の頼み事だ」という理由で、本家の奴らの追求を躱せる。


つまりは、政治だ。

大義名分があれば牽制になる。

たとえボクがこのクエストに失敗しても、父も騎士団も余計な攻撃を受けずに済む。

クエストに成功しても、他から横取りされることなく誇れる。

後ろ盾としてのこの『密命』は、是非とも必要だった。


ちなみに、こうした事情を父にはまったく説明していない。

これ以上殴られ続けるのは、さすがに御免だ。


そうしてボクは古巣の家へと戻り、枕投げ大会に参加し、どうにか優勝を手にした。

鍛え続けたボクであれば楽勝という考えは甘かった。


欲し求めている点で、ボクと彼らの間に差など無かった。

どんな卑怯な手も、どのような意外な方法も許される。


結局、最後に勝敗を分けたのも、それだった。

長年の欲望の量が、後先を考えない勝利のための行動が、どうにか相手を上回った。



  ◇ ◇ ◇



誰もいない静かな図書館の中、ボクは、手元の装備を確かめる。

腰にあるのは長年使い続けた直剣だ。

強い装備よりも、慣れた装備を選んだ。


武器はこれと、四本ほどの投げナイフだけだ。

例の人に銃を薦められたが断った。

その厄介さは知ってはいるが、ことダンジョン内であれば不発の確率が格段に上がる。

異なる法則の中では、火薬はさらに湿気てしまう。


プレートメイルは、今は修理に出している。

おそらく出る時までには直っているはずだ。

戦いに於いての素人であるアイドルが、あれを破壊できたのは狂気の沙汰だ。


食料等は3日分。

どれほどの大きさのダンジョンなのかは不明だ。

最低限の準備は必要だが、次に扉が開く一ヶ月分の食料を確保するのも現実的じゃない。


代わりに、回復薬は多く持つ。

どれほど必要かわからないが、それこそ3日間ずっと戦い続けてもどうにかなるほどの量を騎士団から頂いた。


無理矢理眠気を吹き飛ばすような薬も入っている。

身体には悪そうだが、必要だ。

眠くて負けましたは冗談にもならない。


あとは、木片と、釘。

ボクにとっての最終兵器。

いつでも使えるよう、ペンダント状にして首にかけている。


それらをじっくりと眺め――


ふ、ぅうぅぅぅ……

と長く長く、息を吐いた。


気づけば手が震えていた。

可能な限りの準備は、整えた。

ボクができるこれ以上は、もうない。


だが、これなら勝てると浮かれるほど、ボクの頭はおめでたくない。

手元の開いた資料に乗る、綺羅星のような英雄たち。

彼らの失敗を、越えることができると確信はできない。


そう、彼らの失敗から、ボクは学べない。

その記録が残されていない。


同じ失敗を繰り返すだけのつまらない結末がもっとも妥当だ。


ボクは、手のひらを見つめる。

かつて第四掲示板を開けた手だった。


一目見て恋に落ちたあの日から、もうずいぶん時間が経ってしまった。

それだけ成長した。

そこそこ年の差が出来てしまった。


それでも、変わらない。

想いだけは色褪せない。


ついつい似た男の子にふらふらしてしまうこともあるが、常に中心にあるのは、この恋だ。


「どんな風に、目を覚ますのかな……」

――なんの話?


ひょっこりと横から問いかけられた。

家の子だった。


「はは、こちらの話、いやなにその格好」


思わずツッコんだ。

家の子は、半端で薄いコートのようなものを着ていた。

東洋の風合いの、青と黒の色鮮さ。袖や胸元が広くて危うくてかわいい。


――これ? 法被はっぴって服らしいよ。

「どうして着ている?」

――お祭りのためらしいよ。


意味が分からなかった。


――家主からの提案。なんかいろいろあって荒んでるから、皆で騒いで流そう、って。

「なるほど」


それは分からなくはなかった。

騎士団でもトーナメント後には食事会を行う。

殺し合った後の気まずさを解消するため、肩を並べて飲み食いするのだ。

頭による理解ではなく、体験として「隣りにいる奴は敵ではない」と覚える。


――後はお祓いのため。

「ん、ああ、あの囁き魔か」


ボクの夢の中に入り込み、余計なことを吹き込もうとした相手だ。

今考えてみれば、魔に近いものの手を借りて悪魔系のモンスターを倒せるはずもなかった。


――みんなで祝って、あの魔女の痕跡ぜんぶ消す。

「悪くないな」


特にその法被を男の子が着ている姿を是非見たい。

お神輿とかいうのを担いで練り歩く。

汗水を流す姿の眼福は、想像だけでも満足だ。これは見逃せない。


いや、違う、そうじゃない、忘れちゃいけない。ボクはもう浮気なんてしないと決めた。

ここで揺らいでどうする。


でもでも、こんな無防備姿が多いヘブンを見逃すことが果たして許されるのか……!?

ちょ、ちょっとくらい行くのを遅らせて祭に参加するのもいいんじゃないか?


「く、くぅ……!」


いや、ダンジョンの扉が開く日時は決まってる。

ここで遅れたら村一つが滅びる。

あ、遅刻しちゃったあ、では済まされない。


しかし、走ればギリで間に合うのでは?

違う、馬鹿なことを考えるなボク! 

一目がんばる男の子の姿を見れば、疲れてすやすや眠る様子まで確かめないと気がすまないことくらいは自覚すべきだ……!


――どしたの?

「ボクは――ッッ!」


祭りに参加することなくここを立つと伝えるのに、多大な精神力を必要とした。

ついでの頼み事もしたが、それをする際も法被という衣服を目にしないように注意した。

これを着た男の子たちが、沢山……!?


思わず唾を飲み込み、腰をすえて見届けなければと確信してしまう。

ここから立って行くことは、ギルマスや団長を説得するよりも、ずっともっと困難な戦いだった。


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