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冒険者ギルドは、成長するのに最適で最低の場所だ。

様々な技術を持つ者達が、面白半分に、あるいは真剣に教える制度があった。

現役の冒険者は少ない、事情があって引退した冒険者がその技術を伝えた。


ただ、そこで学べるのは本当に最低限のものだ。

その上、彼ら独自性を基にしているため、よくわからないものが入り込んでいる。

罠解除の前に罠に唾を吐きかけろ、というのは絶対に意味のない教えだった。


他にも背を折り曲げ地面を這うように素早く動く技術は、成長した後ではあまり効果がなく。

指先の繊細な技術は、剣ダコが多くできた今となっては精度を低くした。

足運びの素早さだけが、今でも技術として役立っている。


そう、ボクが主に教わったのは盗賊の技術だった。

魔術を使うには魔力量が少なすぎたし、戦士として戦うには幼すぎた。

体が小さく素早いことが利点となるのは、盗賊系のスキルだけだ。


「いいかぁ、卑怯になれェ」


そう繰り返し教えられた。


「俺たちゃ力も魔術も勇気とやらもねェ、そんなもんは必要ねェ、要るのは臆病さと逃げ道確保と少しの技術だァ、まー、カンタンに言や卑怯さだァ」


その時には反感しかなかった。

ボクは助けに行くために訓練を受けている。

逃げるためじゃない、卑怯者になるためでもない。

絶対に言う通りになるもんか。


ただ、後々になってみれば、これは必要な心構えだった。

相手の卑怯な行いを予期できるのは、それをよく知っているものだけだ。


知っているか、まるで知らないか。

それはやられて驚き慌てふためくか、飲み込んで上で進むかの違いとなる。


とはいえ、この時点では近所の悪ガキから上手く逃げられるようになった程度だ。

戦うなんて技能、盗賊には必要ない。


戦うべき場面は、相手が一人になった機会を狙った不意打ちだ。

たしかに、卑怯になった方が勝率は高いと実感した。


ただ、そうやって盗賊系の技術を貪欲に吸収し、近所の男の子をじぃいいっと見つめるボクのことを、どうやら父は危ぶんだらしい。

父の経歴の大半は、貴族の家での暮らしだった。

生傷を絶えず作り続け、粗野な言葉に囲まれている暮らしに思う所があった。


ボクが簡単なクエストをこなして金をためて購入した白タイツを、生意気でちいさな男の子に履かせようとした場面に出くわしたところで限界となった。


ボクは、「願いを叶える家」に放り込まれた。

それは冒険者ギルドよりも更に特殊な、問題児や希求者が集う場所だった。



  ◇ ◇ ◇



「認められない」


少し前、相談した際、騎士団長は巌のような顔を変えずに言った。

あの険しい顔も、今となっては懐かしい。

時間的にはさして経過していないが、そう思う。


「理由は、わかるな」

「勝てないからですか?」

「その通り」


揶揄するように言ったのに、返答は思いがけないほど素っ気なかった。


「騎士とは、国の盾だ。信頼だ。我々は負けることが許されない」


ソロダンジョン、ヴィガーラの攻略。

これを騎士団が行わないのはわかっていた。

集団戦を得意とするのに、一人でしか挑戦ができない。騎士としての利点の大半が失われている。


それでも、せめてバックアップくらいは欲しいと相談したのに、答えはにべもない拒否だった。


「おい」

「はい」

「挑むな」

「無謀だからですか?」

「勝てぬからだ」

「……どうして、断言できるのですか?」

「秘密裏に、ヴィガーラへと挑戦したものはいた。だが、誰もが失敗した。その中には前騎士団長も含まれる」


初耳だった。


「一昨年引退し、諸国漫遊の旅に出られたと聞いています」

「言えるわけが無いだろう」


苦虫を噛み潰したような顔で団長は言う。


「当代最高の騎士だった。今のオレとて敵わない。あれほどの傑物が敗北したなどと、誰が喧伝したがる」


無謀な挑戦理由は、王家による密命だった。

人類最高峰、そう褒め称えられた騎士であれば、誰もが攻略不可能とされたあのボスを倒し、救い出せるに違いない。

そのような期待に背を押され、しかし、その翌月も帰ることはなかった。


「お前は弱くない、それは認める。だが、オレにとっての憧れが敗れた。勝てる装備を整え、あらゆる状況を想定し、万全の準備を整え向かったのだ、それでも討伐は達成されなかった。お前ならば勝てると信じることはできない」

「密命は続いていますか?」

「む」


その表情には、覚えがあった。

卑怯なことをされている最中ではなく、それを後に思い出した際の顔だ。


「前団長の経歴は知っています、ずっと活躍を続けていた。常に英雄であり続けた。そして、全盛期をもう過ぎてもいた。王家が頼みごとをするには遅すぎます。今、なにかの事情が発生し、慌てて飛びつくように命じたのでは? これまで無視を続けていたダンジョンボスを倒せと」

「知らぬ」


知らないことにしなければならない、と顔に書いてあった。


「騎士団への圧力は続いているはずです。彼らは下の者の事情など考えない。赤ん坊のように要求だけを喚き立てる。団長、いい機会です」

「オイ、てめえ」

「ボクを生贄として差し出すべきです、騎士団は王家の命令を聞いている、手をこまねいて無視しているわけではない。そのポーズを取るために」


だからいくらか援助をください、と続けた。

答えは鉄拳を机に叩きつけた轟音と出ていけの一言だった。


その後いくらか粘ったが閉め出された。


扉の外、ボクは決意をもって頷いた。

これは、ギルドマスターの時のように音を上げるまで繰り返す必要がある。

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