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子供だったボクは、考えた。
彼を助けるためにできることが無いかを。
小遣いを握り締めて依頼をしたら鼻で笑われるかぶん殴られた。
ただ彼らの、報奨金よりもでかい金額を持って来いという指摘はもっともだった。
安請け合いする人もいたが、その期限は未定とされた。
できたらやる、いつかやる、あー、来年くらいにやるんじゃね?
つまりは、永遠に実行しないことを、彼らは引き受けた。
「ハッ」
その度に、カウンター内のギルマスには嘲笑われた。
ガキのワガママ、ガキの遊び、そのように見られていた。
ボクの本気をわかってはいなかった。
「そんなに玉の輿に乗りたいのかよ」
だから、口を滑らせた。
「どういう意味だ」
「あン?」
「玉の輿とは、どういう意味だ、ボクは彼を助けたいだけだ。どうして、そんな言葉が出る」
ギルマスは、明らかにしまったという顔をした。
「玉の輿とは、身分の低いものが身分の高いものと結婚することだ、どうして、あのボスを倒したら、そんなことになる」
唸るみたいな声を上げてギルマスは逃げようとしたが、ボクは回り込んで逃さなかった。
どういうことか、どういう意味かを問い続けた。
やりすぎてぶん殴られた。
最初は手加減したものだったが、十発を越えてからは遠慮がなくなった。
顔がボコボコに腫れ上がったが、それでもボクは問いかけた、一体、どういう意味なんだ、と。
ヤベエものを見る目で逃げられた。
さすがに家には押しかけられない。
ギルマスはともかく、その家族に迷惑をかけるわけにはいかない。
だから、翌日も腫れの残った顔で聞いた。
どういうことかと。
あと一週間は続けるつもりだったが、案外簡単にギルマスは折れた。
下手くそな手当を直しながら、公然の秘密だが言うなと念押しされて。
あの王子様は、ずいぶん前の人間らしい。だいたい百年は前か。
排出される人間の様子からして、どうやら年をとることはなさそうで、時間制限はあってないようなもの。
だが、仮にも王家の人間だ、助け出さなければならない。
彼の存在は、「王家はダンジョンボスよりも弱い」ことの証明だ。
ボクと違って、簡単に捨てることのできない醜聞だ。
それが、報奨金による釣り上げはもちろん、婚姻による「王家と縁続きになれる権利」もまたセットで提示された理由だった。
だが、あまりにヴィガーラが強すぎて、誰も倒せない。
変わらず生贄を集め続け、王家の威光など無いもののように振る舞う。
王家はボスの存在ごと無いことにした。
できるだけ口外しないようギルドにも通達が下った。
だが、条件そのものは有効で、まだ残っている……
「ふぅ、ん……」
そっか、そうか……
あのボスに勝ったら、ボクは彼と結婚できるのか。
いや、別に?
ボクは彼と友達になりたいのであって、そういうのじゃない、し?
もっと純粋な気持ちで、ただお話がしたいだけで、そういうのに興味はない、うん。
ほら、よくよく条件を読めば「希望すればそうできる」ってだけだし?
だから、うん、違うよ?
けど依頼するのはもうぜったいに止める。
引き受けるつもりがないのに、彼らがニヤニヤするのはどうしてなんだとは思ってた。
100%ないけど彼らが成功していたら、ボクは「わー、おめでとー」と結婚会場控室とかで言う役目になっていた。
そんなことは認められない。
そんな未来は断固拒否する。
ボクは、ボク自身を鍛え上げることを決めた。
囚われた王子様を助け出すために。
◇ ◇ ◇
家の中でボクはページをめくる。
そこに載っている人々を。
ヴィガーラに挑戦した人間は様々だ。
全員ではないが、戦うために挑戦した人間は一角の人物であり、今のボクなど足元にも及ばない英雄だった。
華々しい戦歴の数々。
人を超えるほどの技術や魔術。
だが、彼らがその最後となるダンジョン内でどうやって戦い、どのように敗れたか、どこにも記録されていない。
ダンジョン内に秘められ、一つも表に外に出て来ない。
帰ってきた者達が口にしたのは有益な情報ではなく、速やかな死の救済だけだ。
ヴィガーラは完全に心が折れた人間だけを「価値なし」と判断し、放逐したのかもしれない。
意図的かつ徹底的な秘密主義は、通常のダンジョンであれば有用な情報収集が意味をなさない。
百戦錬磨で何をするかわからない相手を、どうにかボクは倒さなければならないのだ。
「ボクの手札は……」
手元にある木片と釘。
どこにでもあるような日用品だけが、勝利への道筋だ。
これがあれば、たとえこの家の外であっても「願い」を叶えられる。
だがそれは、随分と減衰したものになる。
ダンジョン内という、別のルールが支配する中であれば、さらに。
どれほど強力な攻撃魔法であっても、見えぬほどの遠距離を完全に防護されている地点に放てば、被害は微々たるものに収まる。
「願い」は家の外で行われることを想定されていない。
今のボクは、強い近距離魔法を遠くの地点に向けて使おうとしている愚か者だ。
「勝率は、これらを使った上でも……」
一割か二割あればまだいい方だ。
まったく無茶な挑戦だ。
騎士団長がボクを首にするのも当然だった。




