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拒否か、お試しか、契約か。

これは、そういう提案だ。


一番目の提案を飲めば、きっとそのままだ。

この魔女はまた来るかも知れないけど、何も変わらない。

平和だけど現状維持。

家が願いを叶えて忘れるってことも、変わらない。


三番目の提案を飲めば、家は記憶を取り戻せる。

三割ぐらいらしいけど、家にとって十分すぎた。

どれだけの量、どれだけの人なのか、それすらもう家にはわからない。


だから、二番目の提案で試すべき。

家は、忘れることしかしてない、思い出すってことを、いままでしていない。

特に燃焼させた記憶はそうだった。

どういうものか実感がなかった。

そうなんだけど。


ーーそれは、寮生への裏切りだ。


いま頑張ってる人、たとえば銃の人とかのそれを叶えるのと同時に、魂も削ってしまう。

影響がどう残るか、寮生にどういうマイナスがあるか、そういう話じゃない。

それは、信頼をなくす行動だ。

彼らの頑張りに唾吐きかけてる。

だから、やっちゃいけない、するべきじゃない、一番目を選ぶべきーーなんだけど……


ーーああ、もう、ああ……


即断ができなかった。

全部わかってるのに、頭で理解してるのに、決断ができない。


呻いて、またうろついた。

室内をぐるぐる回る足が止まらない。

顔を手で覆って、ただ曇った声を出す。


芽吹いたばっかりの願いが、しつこくしつこく頭にこびりついていた。

それは家の心のなかで、何度も囁いてた。


憶えておきたい、忘れたくないーー


一度自覚してしまえば、無視することなんてできなかった。

だって、きっと大切な人たちだった。

絶対、心に残しておきたいことが沢山あった。


それら全部が消えている。

きっと暖かい思い出だったのに、願いのために消費された。


ーーああ、そっか……


同時に、気づいた。

そうだ、家の記憶は、彼らの願いのために燃えたんだ。

彼らの意思で、失われた。


――そうなん、だよね……


当たり前といえば当たり前。

家も寮生も、それをわかった上で、それを前提にした上で暮らしてる。


ーー嫌だなあ……


けど、まったく思わなかったって言えば、一回も想像していなかったかって言えば、嘘になる。

彼らの願いは、ここで過ごした日々よりも、ずっと重かったんだ。

楽しかった思い出は、ただの魔力に変換された。


それを直視するのが、家は怖いのかもしれない。

願ってるし望んでいるのに、怯えてもいた。


彼らが記憶よりも願いを取ったことは、ただの言葉で、今はまだ実感がなかった。

けど、思い出せば、きちんと体験してしまえば。

家が大切に想っていた人たちが、「そっち」を選んだんだってことが、証明されてしまう。


家の好きって気持ちが、要らないもの扱いされて捨てられたんだってことを、実感してしまう。


ーーそれでも、それでも……


憶えておきたい。

その苦しみすら含めて、忘れたくない。

そういう後悔があるんだってことすら、今の家にはわからないんだ。


ポルターガイストなんて言ってるけど、彼らが本当はただの寮生だってことを家は知っている。

ちゃんと相手をしたい、知らないふりなんて、したくない。


そのためなら、いいんじゃないか?

家ばっかり不公平だ、叶える側が損をしたって、いいはずだ……


魂なんて、知らない。

それが家にあるのかどうかもわからない。

わからないものが、ちょっとくらい消えたって、別にいいじゃないか……


暗い想いが湧き出るのを感じる。

実は恨んでいたのかな。

家にも、それはよくわからなかった。


ただ足を止めて見下ろした先、その床には、取り替えられたばかりの床板があった。

真新しいまま、キレイに付け替えられている。


寮生が、してくれた。


――あ……


これまでの記憶を思い出す。

穴だらけの、たぶん全部は思い出せない過去。

けどそこでの、単純な事実が浮かぶ。


家は、寮生が好きだし、大切だ。


うん、そうだ、それだって、きっと嘘じゃない。

どこまで行っても、家は家だ。

住んでて安心できる場所だ。

そうなりたいと、誰よりも家が望んでいる。


だから、選ぶとしたら三番目だ。

あるのかどうかもわからない、家の魂を使って、契約すればいい。

これで困るのは家だけだ。

被害が出るのも、変なことになるのも家だけで収まる。


家は、自覚した望みを、もう無視することができない。


けど、それがどんなものか知りたいっていう、それだけのために寮生の魂を使う必要なんてない。


 決めましたか?


めくった紙には、そう書かれていた。


 次の紙に書かれている魔法陣に手を置き

 願いを口にしてください

 ここまで書かれたすべての文字が、契約に至る約束事です

 これに嘘偽りないことを、魔女の名にかけて誓いましょう


めくる。

複雑な文様、だけどどこか毒々しい図形が、紙一面に描かれてる。

魔術要素は、見当たらない。

家が魔力を通さなきゃ、それは発動しない。


紙に余計な文字はなかった。

けど、暗に行動を薦められていた。


ーー飛び降りようとした子供は、こういう気持ちだったのかな。


目を閉じ、手を紙の上に置きながら、そう思った。

言葉を口にする。

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