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家内部の様子をチェックする。隅から隅まで。
特に問題はない、と思う。
けど、なにか微妙に、本当にごくわずか、違和感みたいなものがあった。
普段であれば、「ああポルターガイストが何かしてるんだなあ」で終わらせてしまうような違い。
なんだろう?
上手く言葉にできない。
感知系がうまく動作してないのかな。
こういうときにチェックしてくれる家主は現在絶賛就寝中だった。「なんかヘンな感じがするから起きて」って言うのは、さすがに憚られる。大人な家はそういうことしない。前にそういうことを連続してやってキレられたような記憶もあるけど、今はしない。
大勢の人が、たぶん一昨日くらいまでいた。
お客様用のベッドルームがたくさん使われてる。
そういう、気配みたいなものがまだ残ってるせいで、普通の状態との違いがわからなくなってるのかも。
考えよう。
なんか気分ばっかり焦ってる、こういうときは確認がきっと必要だと思う。
――へんな人が入り込んでいる……
言葉に出して、ひとつひとつ考える。
――その人は、魔女っぽい人で、悪い人だ。
――子供に飛び降りをそそのかすような人だ。
――偶然かどうか知らないけど、たぶん状況的に知らない人が入り込んでもおかしくない時期に、家主が寝ているようなタイミングで来ている……
こっちのことをよく知っている、のかな?
どういう時期で、どういう状態か把握されてる。
絶対にそうだとは言えないけど、その可能性は結構ありそうだ。
――目的はなんだろう?
――やりたいこと、得したことが、その魔女って人にはたぶん無い。
――盗みに来たにしては、なんか目立ってる、隠れたいって素振りがない。
――たんなる邪魔をしに来た?
あの子供の「飛行」だって、実際にやれば家のシステムが働いて受け止めていたはず。
実際の被害は出ない。
もし出ても、すぐに治すことができる。
嫌がらせだけが目的の魔女。
なんかしょぼしょぼだった。
――ええと、仮にだけど、なんか家に対して嫌がらせしてる奴が来てる、って考えてみよう。
――今、家が一番されて嫌なことってなんだろう?
――家主にいたずらされること? たぶん無理。
就寝中の、家主へのいたずら書きの成功率はいまだにゼロ。
たぶん何かの警報みたいなシステム組んでる。
――なら、家本体に被害が出るようなこと……
――うん、なんか被害がもう出てる。
ダメ押しというか、さらに被害を拡大させるとかも考えられるけど、こっちも割と無理じゃないかな。
少なくとも、中庭大爆発以上の攻撃が必要。
――なら、やっぱり寮生の被害を出すようなことをしている?
――これをしようとしている、って考えた方が良さそう。
それこそまさに、子供に対するそそのかしがそれだった。
――なら、次は?
――次は誰に対して、それをする?
――たぶん、弱い人に対してしようとする。
自信はないけどそうだと思う。
こういう時に考えなきゃいけないのは、強い人じゃなくて弱い人を守ることだ。
ただ、パッと見て分かるくらい弱い人とかいるはずが……
なぜか治療施設のひとつが使われてた――
誰かが入院してる、誰よりも弱った状態でいる!
急いで確認、バイタル的に異常はなし、いや、本当に?
データ的には就寝中。だけど、さすがに長く眠り過ぎだ。
入ってきている情報の精査――まったく同じものが繰り返しこっちに来ている! 誰かが偽装工作している……!
急いで走る。
情報を家経由で確認。周辺異常はない、誰かが入り混んでるわけでもない、こっちには何も手が加えられていない、入院している人――前にこの寮に住んでた騎士の人しかいない……!
その騎士の人が、ベッドの上で苦しそうにもがいていた。
何度も首を振っている。
窓から跳び下りて、一階に着地。折れた骨の修復をしながら走る。
予備魔力を使用、寮内に厳戒態勢を取りながら、厳重な入室チェックをクリア、家自身でもすぐに入れないシステムは侵入者対策になる。
――それでも、嘘が割り込んだ……!
入院している人じゃなくて、家に対して嘘をつかれた。
なんのために。
きっと、騎士の人にじっくりゆっくり時間をかけて攻撃してもバレないために……!
厳重な扉を開いた。
苦しむ姿を直接見る。
同時に結界を展開。
攻撃回復補佐の一切を遮断する。
球状に展開され、外と内とを隔てる。
入院服姿で苦しそうに胸を抑えていた人が、糸が切れたみたいに力を抜いた。
「あ、ああ……」
と声を出して力なく横たわり、肩で息をしていた。
何をされたかわからない、けど、とりあえずは無事みたいだ。
一安心、ではあるんだけど。
――ごめん、遅れた。家がもっと速く気づかなきゃだった……
「え、うん、ボクは……」
別に返答を期待したものじゃなかったけど、それで起き上がった。
――大丈夫? ええと、いま簡易的に検査してるけど……
「ああ、うん、そうか、あれは夢、だったのか……いや、違うな、きっとそうだ」
――どうしたの?
「誰かわからないやつに、契約を持ちかけられた」
――え。
「魂の代わりに、お前の望みを叶えてやる、この家のよりも、ずっと確実に。そこまでしなければ、きっとお前の望みは叶わない――そう言われた」
それは魔女というより、まるで悪魔みたいだ。




