29 エピローグ あるいはある夜について
夜になっていた。
「あー」
――うー……
家と家主は、ただ呻いた。
場所は誰もいなくなった、暗い広間の中央。
互いに持たれるようにしながらダランと過ごす。
なんかもう動く気力もなくなってた。
気軽に解説というか茶々いれてた時間が、実は平和なんだって実感した。
あれから、本当に大変だった。
家と家主からしたら、実は大会後こそが本番だった。
1番の被害が出ていた騎士の子を、まずは治療しなきゃいけなかった。
被害状況としては、爆弾を飲み込んで起爆させたくらい。
つまりは致命傷。
ここ以外だと普通に死んでた。
直接の被害にあった胃壁はもちろん、内蔵全体が炙られた。
単純に回復をするだけじゃ追いつかない。体内組成を再構築しなきゃいけないし、駄目になった血液の入れ替えも必要だし、リンパ系も――ああ、もう、いいや、とにかくなんとか生存させた。うん、がんばった。
今は、集中治療のための部屋で、安静にしている。
魔力的に安定させた空間で、ゆっくりと体組織の養生中だ。
その横には、釘と家の端材が置かれてる。
端材もあるのは、釘がラストドッグ賞?みたいなもので、別枠としての賞与だからだそう。
直剣じゃなくて普通の枕で眠ってる。
次に何気にやばやばだったのはフェルさんだ。
普通ならありえないくらいの魔力を充填して、すぐにそれを空にさせた。
脈動していた赤い魔力――魔力変換能力を限界まで可動させた上で、それを破壊された。
普通なら安全なはずの枕投げ大会のシステムは、実は「フェルさんの本体」を傷つける戦いになっていた。
その魔力のあり方を酷く損傷させた。
物理的な損傷じゃない分、実はこっちのほうが治療としては厄介だった。
一度は「家の魔力」が通ったから、その魔的構造は把握できていて、なんとか最低限の再構築には成功したけど、けっこうギリギリだった。
いま倒れて呻いて動かないのは、そういう理由で、騎士の子とは別の部屋で安静にしている。
余計な外部魔力をぜんぶ排除して、ゆったり回復するための場所だった。
寝ている枕は破れをつくろった歴戦の普通枕で、その横には端材が置かれている。
最後にアイドルの子だけど、意外にも1番の軽症だった。
へんてこなものを沢山食べたけど、それらは同意のもとに渡されたもので、必要以上に傷つけることはなかった。
その上、もうその異物は全部吐き出されている。
酷く飲んで吐いてしまった人くらいのダメージ感覚だ。
アルコール中毒ならぬ魔力中毒だけど、しばらく寝ていれば治るレベル。
一般的な保健室で、一応は安静に横になってた。
寝ている枕は、家からはなぜか見えなくて、その横には端材がたくさん並んでた。
一応、ちゃんと家の感動を伝えておいた。
本当のアイドルって、こういうものなんだって感銘を述べた。
なんかすごい否定されたけど、たぶん照れ隠しだと思う。
「おいー……」
――なんです家主……
「一段落、でいいんだよな」
――あー……
状況をチェックする。
騎士の子はまだ予断を許さないけど、たぶん大丈夫。
最高位の治療部屋だから、大抵の状況には自動対処できるし。
中庭はそのままだけど、これは仕方ない。
今回得た魔力の一部を使って、整えることくらいのことはやろうと思う。
最初は「なんかすごい魔力がある」とか思ったけど、今回獲得した量はそれどころじゃなかった。
なのにあの程度の魔量しか残ってなかったのは、うん、治療とか修復とかに使用したからなんだろうなあ。
入ってくのも出ていくのも膨大だった。
――とりあえずは、大丈夫なようですぜ……
「そっか」
気だるそうに身を起こす。
家の身体はコテンと横になる。
不満で唇をとがらせる家とは裏腹に、固い決意で家主が見下ろしていた。
「本来なら「願い」で変えなきゃいけねえところだが、これはちょっと見過ごせねえ」
――なんの話です?
「この枕投げ大会の、次の話だ。今回の戦略をマネするやつ、絶対に出てくるぞ」
――うあ。
それは地獄の予想だった。
皆が「食べやすい枕」とかを用意する未来すら、きっとありえる。
大人しく固い非常食を用意してくれたらいいけど、そうじゃなかった場合は――
いや、ちがうか、そもそも内部からだったら破壊可能、って状況が間違いだ。
食料補給バフも、なんか悪用され過ぎてる。
「だから、ルールを一部変える。いいな」
――仕方なしですね。
お互いに口にしなかったけど、これは「願い」を叶えるのにも近い作業だった。
つまり、最低でも今回の大会についての記憶は失われる。
「……悪いな」
――いいってことです。
家主に頭を包まれる。
こういう機会じゃないと、あんまり無いなと思いながら、
家はちりちりと、皆の活躍が、必死の想いが、歪んでたりとんでもなかったりの行動が、ぜんぶ燃えていくのを実感していた。
憶えておきたかったなあ……
そういう想いが出てしまうのは、たぶんどうしようもなかった。
三章 了
内容的には続きますが一区切り、視点が変わります。




