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アイドルの子と騎士の子との激突はすぐに離れた。


どうやったか分からないけど、二人の力は同じくらいで、強引な突破はできない。ただ単純に戦うしかない。

けど、もともとの魔力量が少ない騎士の子では、それは難しかった。


『く、これは――』


振る剣にも、焦りが出る。

ちゃんと組み立てた剣戟じゃなく、力任せの、これで決めてやるって一撃が多くなる。

ブンブンと景気よく剣は素振りを繰り返す。


普通なら、その隙を突いての反撃で決着だけど、アイドルの子にもそこまでの技量はない。

手にしている枕はメリケンサックで、かなり接近する必要があった。

そうして殴りつけても、鎧の分厚さに阻まれる。


結果、膠着状態。

剣はすべて回避される。

メリケンサックはたまに当たるけど、まったく効果なし。


焦りを滲ませ、吠えるように騎士の子は言う。


『ボクは、ボクの大望を果たす……!』

『あっそ、よく知らないけど、あたしは止めなきゃいけないんだろうね。世のため人のため的に』

『ボクは、それを為すのに釘が要る』

『あたしだって負けられない、ここまで皆が協力してくれた、どうしたって最高の舞台を手に入れる』


その言葉を聞いて、攻撃の手が止まった。

鎧の奥から、まっすぐに問いかける。


『キミには、本当に釘が必要か?』

『……なにが言いたい?』


変わらず悪い顔色で、アイドルの子は睨みつける。


『あの子を、アイドルにしたいと聞いた』

『それがどうした』

『ここまでで、十分なはずだ。もうすでにカケラは手に入る程度には人数が減っていると思う。このうえ釘まで手にしてしまえば、不必要なほどの強化になる。キミの望みとして、本当にそれが欲しいのか?』



「舌戦だな」

――え。

「戦いですぐに決着はつかねえと見て、言葉で相手を攻め立ててるんだ。ここで戦う意味なんてねえだろ、ってな」

――おお……

「相手の心を、モチベーションを削りに来てる」


画面内では、ほとんど鬼みたいな顔で鎧の塊を睨みつけていた。


『それは恥じるようなことじゃない。敵に塩を送ると言うけど、敵に弓矢と兵糧も一緒に送ればただの馬鹿だ。キミは、ここまでで十分だ。その先まで手に入れるのは、ただキミ自身の首を絞めるだけだ』


一息置き。


『キミには、釘は必要ない。もう既に欲しいものは手に入れている』

『……あたしは、最高のアイドルと一緒の舞台に立つ』

『最高のだ、人知を越えたアイドルじゃないはずだ』

『半端はしない、途中で逃げるなんてしない』

『負けを確定させるためにキミは頑張るのか?』


その言葉は、急所を貫いた。

アイドルの子が、胸に手を当て悔しそうに呻いた。


『……たしかに、あたしは、釘まで得たら、きっと負ける』



  ◇ ◇ ◇ 



フェルさんの攻撃が散発的になってきた。実際はそんなこと無いのに、「攻撃しても無駄」と印象付けられた。


反撃よりも、軽機関銃の掃射よりも、不意に来る攻撃に対応する防御行動ばかりが多くなってた。


『フェルは、フェルは……』

『知っているだろうか。ここは望みを叶える家だ。しかし、それは簡単に、お手軽に、今日来たばかりの者が手にできるものではないのだ』

『ただフェルは、お腹いっぱい食べたいだけです!』

『ハハ、腹だと、食欲だと』


また「枕」が、投げナイフが火花を散らして直撃。わずかに魔力量を減らす。


『そのような程度の低い望みを認めるわけにはいかない!』



――いや、別に家、普通に叶えるよ。

「言ってやるな、これも心理攻撃だな。ここで一番怖いのは、実は逃走だ」

――え、どうして、って、あそっか。

「ここを離れて体勢を立て直されても、それを追う手段がねえんだ。本当に透過能力とやらがあれば話は別なんだろうが、実際はただ隠れてるだけだしな、ここに釘付けにする必要がある」

――でも、フェルさんは、その能力があるとまだ信じてる。

「だな、だから逃げるのが不利だと思っちまってる。そして、深く考えさせねえように、裏まで考えて動かねえように、あっちは言葉で翻弄を続けてる」

――そっかあ。

「攻めきるのにも長丁場になりそうだしな」

――たしかに、まだ時間かかりそう。

「アイツ、どんだけ魔力溜め込んでんだ」

――えへへ。

「いや、別にオマエのことは褒めてねえ」


フェルさんは、誰もいない中庭に撃ち込みつつ叫ぶ。


『フェルは、なにも悪いことしてない……!』

『他者の望みを削り、自らの望みを果たそうというのに悪ではないと? それは自覚のない最悪だ!』

『う……』

『パイの数は決まっている、ましてそちらはただ一つの最高を手にしようというのに、その上でまだ良い者であろうとするのか』


唇を噛んで、キョロキョロと見渡す。

変わらず、どこにも敵の姿はない。


『……わかりました』


待ち受けるように攻撃が止む中で、フェルさんの声だけが返った。


『フェルは、諦めます……』

『おお、では』




アイドルの子が吠える。

「だが、それが、どうした……っ!」


フェルさんが呟く。

「無傷で勝つことを、諦めます……」

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