23
もともとそれは「威力は低いけれど数と速度で圧倒する」武器だった。
あくまでもガスで発射する玩具でしかなくて、消費だけが無駄に大きい「枕」だった。
けど、それが高位リッチ級すら超える魔力で後押しされると、何もかもが違った。
一発一発の球が音も越えて、着弾して爆発する。
回避も防御も反撃も押し潰す、とんでもない力に変換される。
『避け――』
周りに呼びかけの声を出す暇もなく。
『こんな――』
枕を掲げる動作も関係なしに。
『やば――』
数の多さだって問題にせず、反撃も丸ごと消した。
連続した大砲みたいな弾幕が中庭を舐め尽くし、家から見えてる人も見えてない人もぜんぶ転送させた。
その数が多すぎて、広間はリアルなストップモーションみたいだった。
棒立ちに驚く人の群、
気づいて行動する人の群、
無理だと踵を返す人の群、
必死に逃げ出そうとする人の群。
それぞれの集団が、まとまった形で転送される。
圧倒的火力を前にした人々の、瞬間的な様子がよくわかる。
容赦のない破壊が、一瞬にして室内の人口を上げた。
フェルさんに軽機関銃を渡した人は、両手を上げて「ウォうおー!」って吠えている。周囲から「てめえのせいか」って厳しい視線が刺さってるけど気にしていない。
――お昼に提供したご飯がこういう形で消費されるの、なんだか悲しいんですが……
「知るか、家屋の防御力だけは上げとけよ」
――了解ぃ……
返答しながらもただ切ない。
ああ、丸鳥が、オーブン焼きが、付け合せのサラダが、弾丸となって飛んでいく――
破壊は、マガジン内の球を打ち尽くすまで終わらなかった。
◇ ◇ ◇
その様子は他からも確認できた。
騎士の子が焦り、手を横に振った。
『どけ、ボクの用事はあちらに変わった!』
『あたしたちに攻撃しかけておいて、状況が変わったから見逃せ? 冗談きつい』
アイドルの子は変わらず体調悪そうに、冷や汗を流しながらも返答する。
『ボクの出番だ、この鎧が役立つ場面だ』
『たしかにそれなら、あの攻撃にも耐えられるかもね。だけど、あたしがそれを許す理由なんて何もない』
『騎士として、ボクは仲間と認めた相手を見捨てるつもりはない!』
『ご立派、なら、あたしもアイドルとして、ついてきた人に攻撃しかけたような奴の要求を、黙って認めるわけにはいかない』
脱出しようとして塞がれていたのが、逆転した格好だった。
今はアイドルの子が騎士の子を塞いでいる。
睨み合いは一瞬。
騎士の子が突進を仕掛ける。
槍とかを使った上だけど、六人がかりを弾き返したチャージだった。プレートメイルの重量もあって凄まじい迫力。まるで暴れ牛のような勢いを――
アイドルの子は、真正面から受け止めた。
『な、なあ……!?』
複数人でじゃなかった。
その驚きようは、明らかに一対一でその突進にぶつかり合い、止めていた。
『アイドルなめんな――』
口から焔のような息を出しながら、そう言った。
◇ ◇ ◇
フェルさんはマガジンを入れ替えながらも周囲の確認を怠らない。
攻撃の余波で土煙が舞い、視界が悪くなってた。
魔力量は余裕どころか何も変わっていないようにすら見える。
このまま余裕の勝利かと見えたけど――
『知っているだろうか』
声がした。どこからともなく。
『長く使い続けた枕は、常とは異なる力を持つようになるのだ』
キョロキョロと見渡すけど、その姿は見当たらない。
『そう、寝ても覚めても着続けているこのギリースーツともなれば、完全透過能力を得ることができるのだ!』
フェルさんが「ばかな」という顔で銃を構えた。
家主が「ねえよ」と冷たくツッコんだ。
『我がスーパー枕は、あらゆるものを透過する、そちらの攻撃の一切は無駄だと断言できる!』
「いや、違うからな、そんな面白現象はねえ」
――家が知らないだけで、そういうスーパーがあるのかと。
「ただのハッタリだ、この枕投げ大会を詳しくは知らねえ一日寮生に対するな」
――おお。
「実際のところは、ただの迷彩魔術だろうな」
けど、そのハッタリは効いていた。
この武器に対する戦略は変わらない。軽機関銃が魔力消費が激しい武器だってことはそのままだ。
だから、声で挑発し、無駄に攻撃を行わせ、反撃で削り、スタミナ切れを狙う。
『こちらからは攻撃できるが、そちらからの攻撃はまったくもって無効化だ!』
『くっ、卑怯です!』
『誰もが知っている、それは敗者の遠吠えだ!』
否定するように軽機関銃をばら撒くけれど、まったく当たる様子がない。
狙い済ませた攻撃の集積でない限り、地面下に潜んだ相手を貫けない。
他にも生存者がいるのか、あちらこちらから「枕」が飛ぶ。その度にわずかにではあるけど魔力量が減る。
たまにフェルさんが手にした本物枕で防ぐけれど、攻撃の量が多すぎた。
なんとかしようと反撃を撃つけど、敵を捉えることがない。
狩りの構図が逆転していた。
時間こそかかるけれど、フェルさんの攻撃が当たらず、逆が当たる。
これに変化がなければ、出される答えはひとつだけだ。
『知っているだろうか』
変わらず姿を見せず、声が宣言する。
『そちらは、既に詰んでいるのだ』




