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家はすっくと立ち上がる。

調理速度が追いついていない、処理機能限界が近い。他の寮生への料理も滞り気味だ。

ここは、家がやるしかない。


「行くのか」


家主の問いかけに、家は背中で肯定する。


「見た感じ、無理な戦いだぞ」

――それでも、行かないと。


鼻歌を歌って次の料理を待ち構えているフェルさんがいる。

枕を抱きしめ身体を揺らす様子は、まるでこれから来るプレゼントを楽しみにしている子供だった。


子供と違うのは、周囲にそびえている皿の山。

自動配膳が片付けしている様子を見ると、実際はもっと積み重なってた。

けっこうな速度で皿を減らしてなお、あれだけの量がある……


「……マジで無謀じゃねえかなあ」


それを認めて家主が言う。

家は、引き止めてくれるなと言い残して向かう、調理場という名の戦場へ。

流れる汗は冷や汗とかじゃない。

手足とかも震えてるのはきっと武者震い。



  ◇ ◇ ◇



いくつもコンロや流しが整然と並ぶ一角に、ちょっと変わったというかおかしなキッチンがある。

古ぼけていて使い込まれた、家がずっと使用している台所だ。最近、少し掃除がされたけど、それでも年季は十分感じさせる。


ようし、とエプロンをつけながら気合を入れる。

見なくても何がどこにあるかわかる。


まずは、小手調べだ。


短冊切りにした人参や玉ねぎを多めの油で炒め、削ったパンを振りかける。

普通の野菜炒めに、トンカツとかの香ばしさをプラスした格好だ。


揚げ焼きにしてしばらくすると、しっとりとした野菜たちと、油を吸って黄金に輝くパン粉が現れる。


最後に塩コショウにパセリやディル、パプリカなどの香草をふりかける。

これで、見た目だけはヘルシーなのに油も炭水化物もガッツリで、ダイエットの天敵みたいな野菜炒めの完成だ。


時間のかかる丸焼き系の料理の準備をしながら、皿を放る。

それは、すぅ、っと何もない場所を滑って移動する。

生活用魔法備蓄を使用した、空中回廊ルフトコリドアでの配膳だった。


皿はそのまま天井近くまで上り、緩やかにフェルさんのところに到着する。

とん、と机についた音をさせ、そのまま、すぅ、っと通り過ぎて戻ってきた。


――あれ……?


珍しくシステムの故障かなと確認するけど、空飛ぶ皿の中身がない。空っぽだった。

戦慄しながら確認するけど、そこには「食べ終わった後の痕跡」しか残されていない。


――まさか、食べきった? あの一瞬で?


正確には、飛んで来る最中からつまみ食いみたいにひょいぱく食べて、机に到着したときには食べ終わっていたんだと思う。

けど、皿にはパン粉のかけらはもちろん、油の痕跡すらも残っていない。


今フェルさんは手持ち無沙汰に果物をつまんでいる。


――くっ。


敵は想定以上。それだけを頭に叩き込んで次撃を行う。


大きめのボア肉の表面だけを強火で焼いて焦げ目をつけ、オーブンに入れた。

大量に作れて柔らかく仕上げるコツだ。火は柔らかく入れ、肉特有の香ばしさはもうフライパンでつけてある。


付け合せのサラダは、すりおろした玉ねぎをベースにしたもので、本来なら「合間にちょっと食べて口をリセットしてね」というものだけど、今は一瞬でなくなる予感しかしない。


スープは野菜の端材に骨を入れて長時間煮込んだもの、塩だけのシンプルな味付けでも十分すぎるほど美味い。

たまに入ってる肉のかけらがお得。


味に変化をつけたいから、四角く切った芋とソーセージを焼き付け、上からカレー風味のソースをかける。

熱した鉄皿の上でソーセージやカレーソースがじゅわじゅわ弾け、ピリ辛の香ばしさを演出する。


もちろん、どれもこれも大量に用意した。


焼いた肉数十枚と、サラダボウル三個、スープは寸胴ごとで手元で取り分ける形式、ソーセージとカレーソースは鉄皿が五個くらい、あとは大量のライ麦パンが宙を進む様子は、まるで工業的出荷風景か優秀な部隊の行進みたいで――


瞬殺だった。


どれもこれも「おいしいです!」の声と共に消失した。

皿がタッチダウンして戻る速度に大差がなかった。


全滅、全滅である。為す術なく一矢報いることもない大敗である。

頭の中の号外がそう報じる。


こ、このままじゃ終われない……!


催促するみたいに矢継ぎ早の注文が来ている。

もう味とか言ってられない、量で勝負だ。


大きくざく切りのキャベツ、芋やら人参やら豆やらトマトやら、手近にあるものを全て水を張った鍋に入れ、蓋をして煮込む。


途中で気づいて塩漬け肉も追加。いわゆる投げ入れ鍋料理。手間暇も工夫もなにもない、本来ならもっと時間をかけて煮込むけど、圧力をかけて時短する。

これでも味は悪くはない、と思う。


ただ、大人数用の大鍋いっぱいのこれを、本当に提供していいのかどうかって疑問はある。

だってこの鍋、家が立って入れる大きさだ。


それと、最初の方に用意していた、鳥の丸鶏たちも出来上がろうとしていた。

ちょうど観覧車みたいな形で焼いていた。

観覧車の真ん中が熱源で、その周囲を回転しながら丸鶏が回る。じゅうじゅうと油が表面をすべり落ち、下の大きな平皿が受け止める。

そこで芋や玉ねぎも揚げられている。

焼きむらなく大量の鳥丸焼きとフライド料理を作れるシステムだった。


そうやって出来上がった鳥達を、ピラミッドか組体操みたいに積み上げる。


数種類のソースを作りながら、パスタも茹でる。

炭水化物がないと、ちょっと寂しい。

当たり前のニンニク唐辛子だけじゃなくて、もらったワサビも使う。

このワサビって調味料、単体だと辛すぎだけど、オイルに混ぜて使うと辛味抑えめ香りそのままでけっこう美味しい。

少し変わったジェノベーゼみたいになる。


ついでに鳥焼きの熱源を使ってパンも炙っておく。

さっきから仮想体に無理させすぎて、全身から汗が流れるけど気にしない。


そうして、ピラミッド状に積み上げられた鳥の丸焼たちと、阿呆みたいに巨大な鍋、山盛りパスタとパンを積んだ皿が――家渾身の料理が完成する。


熱々のそれらを、家は両手につけたミトンで押し出した。


どの皿も、出入口の幅いっぱいの大きさ、高さも相応に巨大。

それが宙を飛行する様は、まるで巨大飛行戦艦か衛星の移動のよう。

ゴウンゴウンと空中回廊が限界に近い悲鳴を上げる。

料理から立ち昇り続ける湯気は積乱雲を作りかねないほどで、お前の腹をはち切れさてやると吠え上げる。


実際、食堂に登場した途端にどよめきが走った。

規格外の巨大さは、遠近感をおかしくさせる。


――これでも、喰らえ!


いま家ができる最大火力、それを向けた先では、子供みたいな笑顔でパチパチと胸元で拍手している一日寮生がいた。

楽しみに待ち受けていた、この量を前にして。


――本当に、足りるのかな?


冷や汗が額から流れて落ちた。


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