18
騎士の人は虐殺後、当たり前みたいな顔で寮内をうろついた。
ガッシャンガッシャンと探して回る。
表情が見えないバケツ型ヘルメットも相まって、ホラー映画の怪物役のみたいに見えた。
屋外では集団で狩りをしてるけど、屋内では無敵の人が徘徊だった。
反撃して倒せるのは集団の方で、攻撃力が高いのもポルターガイスト集団。だから、寮の中にいたほうがまだ生存率は高そうだけど、場合によっては違った。
『少年の、匂い……!』
なんかへんなことを言いながら的確に追い詰める。どこに逃げても鼻を蠢かせて、鎧の重さを感じさせない動作で接近する。本人は「こわくないよ! ボクはだいじょうぶだよぉ!」とか叫んでるけど、どう考えてもアウトだった。
条件付きだけど、絶体絶命の環境だ。
さっきの長物の六人組、備え付けのベッドで震えて寝てないで今すぐ帰ってきて欲しい。家が気づかなかっただけで君たち最終防衛ヒーローだった。
結局、屋内と屋外どちらの暴れっぷりも止める人たちはいなかった。
広間では、順調に人が増え続けた。
失格からの出現の仕方もいろいろだった。
誰かを助けようとした格好で出現する人とか、なんかすごい悲しい顔で現れる子供もいた。
最後の子供は、首を掻っ切り終わったその動作からして、たぶん自ら失格を選んだ。
ここでは「枕」でしか攻撃できない。
自分の枕で自身にだって攻撃できる。
寂しかった観客席がだんだん埋まった。
トラウマになった人たちが寝るベッドもだんだん埋まった。
この大会もう中止にしたほうがいいんじゃないかな。
本当ならもうちょっと和気あいあいとしていると思うんだけど、画面を見つめてる人たちはまるで争映画やホラー映画を観てるみたいで、枕投げ観賞の雰囲気じゃなかった。
映画と違ってるのは、観客がさっきまでそこで登場してたこと。リアルさが段違い、文字通り他人事じゃない。
絶叫と悲鳴が木霊する中で、家主がペラペラと書類をめくった。
難しい顔をして、じーっとしばらく睨みつけていたけど、
「ん」
家にその書類を差し出した。
騎士の人のそれだった、割と真面目につらつら書いてある中で、参加理由だけが問題だった。
参加理由:昔からの望みを叶えるため。
「……」
――……
家と家主は黙って見つめ合った。
視線をズラすと、画面内で半ズボンを片手に荒い呼吸で追い詰めてる騎士がいた。
昔から、理想の少年を探してるとか、そんなことを言ってたような気がする。少年だけしかいない寮って最高じゃないかとも。
「……アレ、どうにか失格にできねえか?」
――無茶いわんでください。
「持ってきた私が言うのもなんだが、アレに賞品渡したくねえな」
家も割と同感だった。
家の汚れ物とか渡したくない。なんか嗅がれそうな予感すらする。
「というかだ、家、オマエって自分の性別なんだと思ってたんだ?」
――仮想体は女性形ですが、そんなのどっちでもいいのでは。
「なら、注意したほうがいいな、アレが勝ったらオマエのこと少年化する可能性があるぞ」
――え。
「身も心も少年で固定化される。普通ならそんなことはできねえが、あの釘のバフがあれば、まあ、できるな」
――家主! どうにかアレを失格にできませんか?!
「無茶いうな、運営がズルしてどうする」
性別なんてどっちでもいいのは本音だ。けど、それを変態に決定されるのは嫌だった。
そもそも姿かたちを変えられるのであれば、内面も好きに変えられるかもしれない
鎧姿に抱きつく、ちょっと色々と姿の変わった家の様子を幻視した。「少年としてボクの恋人になれ!」とか、そんな風に願われる恐怖だった。
というか家、状況が詰んでない?
――枕投げ大会優勝候補のうち片方が家のことを本尊にして、もう片方が少年にしようとしてるんですけど、これどうなってるんですか……
「強く生きろ」
――他人事にする気まんまんじゃないですか?!
「悪いが、この件に関わり合いになりたくねえ」
――強制的に三角関係に巻き込まれてるんですけど、なんか家の意思が無視されてるんですけど! ここは家主としてガツンと!
「OK、ガツンと祝福してやる」
――この家主、愛が足りない……!
嘆きに呼応するみたいに鐘が鳴った。
終了の鐘じゃない、昼の休憩時間のためのものだ。
家としては仕事開始の合図だった。




