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アイドルが声をかけ、見えない集団が熱狂する。
時間がたつほどに、その結束と熱は高くなってるように感じた。際限なくボルテージが上がってく。
――なんか、前に家に来てた新興宗教みたいな雰囲気が。
「まあ、似たようなもんだな」
――あの人達って、話が通じなくて怖いんだけど。
「今回は問題ねえな」
相変わらず物憂げに、なんでもないことみたいに断言する。
家としては黙って横を見上げるしかない。
寮内に無視できない集団ができているのに、なぜ無視を?
家主は片眉を上げ、家を指さした。
「だって、オマエが本尊だ」
謎なことを言われた。
アイドルとポルターガイストの、その新興宗教っぽい集団は、森へと突き進んだ。
そこで行われたのは一方的な狩りだった。
隠れてる人たちが有利なのは、確実な先手を取れることだ。
けど、その先手を取ったところで、後手が百の反撃を繰り出したら必敗になる。
下手に攻撃ができない、攻撃したら負けるとわかってる。隠れ潜むことしかできない。
数の多さが有利不利をひっくり返していた。
「森にいる連中、ゲームがかくれんぼから鬼ごっこに変わったな」
――枕投げのはずでは。
「他の競技にしたがる連中が多すぎんだよ」
本来なら終盤まで安全に過ごせるはずの選択を、アイドルの子は物量で押しつぶした。
森の端から虱潰しに探索をする。隠れる場所なんて無いように徹底的に。
じわじわと草木が倒れて行く様子は焼き畑農業っぽい。
確実な捜索が届くより先に、いちはやく逃げ出そうとする人もいたけど、そこへ待ってましたとばかりに矢が飛んだ。
魔力を伴った矢と木の幹で相手を挟み込み、エグい音を森に響かせる。きれいなヘッドショットだった。
遅くて広い探索と、速くて長い一撃が不定期に繰り返された。
その度に広間に人が現れる。「なにこの理不尽」と顔に書いてある人たちの数が増える。
――なんか、やけに組織的な動きじゃないですか?
「連中、割とよく集まってるからな、自然と役割分担みたいなのができてんだろ」
寮生?が仲いいのはいいことだと思う。
けど、さすがに一方的虐殺風景からは目をそらしたくなって別の映像見る。
渡り廊下に、騎士の人がいた。
六人がかりでボコボコにされていた。
こっちでも一方的だった。
槍とかハルバードとかの長物で、攻撃が繰り出されている。
騎士の人が手にしているのは長剣で、場所は細長い廊下。
反撃は届かないし、横に回り込むこともできない、ただ一方的な攻撃を浴びている。
そう、浴びている。
倒れていない、それどころか、まったく効いた様子がなかった。
「ははあ、面白いこと考えんな。魔力の少なさを逆用してやがる」
――どゆことです?
「ここのルールでは、「枕」が当たったら魔力が減らされ、ゼロになれば負けだ」
――そうですね。
「じゃあ当たるってどういうことだ?」
――むむ。
「この場合、魔力圏に触れたらってことになる」
――お、おお?
分かるような分からないような。
「普通は考えるようなことじゃねえ、よっぽどの魔力持ちじゃないかぎり大差はねえ。だが、通常よりも低ければ、それこそ分厚いヨロイを纏えばすっぽり覆えるくらいなら、話は変わる」
騎士の人は、顔まで覆う全身鎧を身に着けていた。分厚いプレートメイルは本来は矢とかを無効化するためのものだけど、今回その分厚さは完全な防護と化していた。
「今、アイツは魔力をカケラも外に出してねえ、「枕」を鉄板に投げたところで効果がねえ。攻撃手段が枕しかないこのルールにおいて、無敵戦略の一つじゃねえか、アレ」
騎士の人は進む。攻撃なんて意にも介さず。
集団で囲んでボコボコにする――本来なら絶対に勝てる攻撃が、絶対の防御に無効化されて、逆に追い詰められていた。
集団のリーダーらしき人が声を張り上げる――兜を狙え、顔を出させろと。
『キミ、それは油断だよ!』
機を逃さず、騎士はチャージをしかけた。
攻撃の本数が一本減り、指示を効くために注意が逸れた瞬間を狙っての突進だった。
突いていた長物が反旗を翻し、倍の力で押し返される。不意の反撃に六人全員の体勢が崩れた。
そうして、剣の攻撃範囲にようやく入った。
『ふんっ!』
その一撃で六人全員を吹き飛ばし、転倒させた。
魔力が少ないのは本当なのか、それで消える人は誰もいない。けど、
それでもう詰みだった。
騎士は倒れていたリーダー格を踏みつけにし、体重を預けて剣を押し込んだ。
魔力同士が反発し、火花を散らす。切っ先は徐々に近づく。青い顔をして暴れ、長物を振り回すけど、それは効果を発揮しない。
倒れた姿勢では、分厚く重いプレートメイルから逃れる術がない。
涙を浮かべて刃を握る動きはただ魔力を浪費する
起き上がった仲間が助けるために攻撃を仕掛けるけど、同じく何の意味もなかった。
蹴りつける人もいたけど届きすらしない、ここでは枕でしか攻撃できない。
どんな行動も、火花散らす切っ先の進行を止められなかった。
やがて、剣がその身体に触れ、そのままガスンと床まで貫いた。「あ……」と一言残して消失、失格になる。
広間に仰向けで転送された人が、胸を抑えて瞳孔を開いてか細い悲鳴を上げた。
肉体的には問題ないはずだけど、心にダメージが行っていた。
――家主。
「なんだ」
――これって本当に枕投げ?
「ちょっと自信ねえな」
横では救護班が暴れる人の口元に布を押し当てた。
添付された魔法薬が効果を発揮し、すぐに眠りに落ちたけど、たまに痙攣する。
「どうなるんだ、今回」
ぼやく家主の視線の先では、残る五人が一人ずつ虐殺されていた。




