13
大掃除のキレイキレイはようやく終わった。
古くて傷んでいた部分を取り替える、板をメリメリっと引っ剥がしたり、ノコギリでギコギコと切ったりは、家としてはあんまり直視したくない光景だった。
家は普通より長持ちだけど永久ってわけじゃない。
特に台所は結構痛む。火とか水とか油とか融解溶剤とかを定期的に使うからダメージが出る。
食材じゃなくて床板が焼かれて炙られコンガリだ。
そういうのを引っ剥がして取り替えて、一箇所にまとめるのが、掃除の締めくくりだった。
中庭に、黒く変色した床板とか天井裏の一部が積み重なり、ヘンテコな小山を作った。
たぶんこれ、人間でいうところの「ぼろっと取れた垢」とかだと思う。
不必要になって剥がれた元の自分だ。
自分で見るのも他の人に見られるのも嫌だけど、このまましばらく放置すると言われた。何かに使う予定があるらしい。
そのまま――一日すぎ、二日がすぎて、一週間がたった。
廃材たちの姿は変わらない。
汚れとかシミた部分が、ちょっと酷くなったような気がする。心なしか臭っているような……
家はひとつ頷いて、キャンプファイヤーみたいに組んでマッチを擦った。
燃えてきえてしまえー。
寮生が指差し悲鳴を上げて、まるで放火魔の犯行現場発見みたいに止めてきた。ポルターガイストたちまで参加しての完全阻止だった。
いやいや、誰だってこんな汚れ物は消したくなる。
それが目の前にあったら、しかも放置されたまんまなら、この行動は当然である。
家のけっこう当たり前の主張は受け入れられなかった。
みんながみんな、「それを燃やすなんてとんでもない!」って言い出す。
「オマエと同じ意見だが、中には欲しがる奴もいるんだ」
骨董とかがの趣味の人かな。古さだけを評価するのは、人間のダメなとこだと思う。
嘆かわしいと首を振ってると、ポンポン頭をたたかれた。
その気軽な動作には、覚えがあった。
「やあ! 今日もかわいいね! 半ズボンを履いてくれるともっとかわいくなると思うんだがどうだろう!」
へんな人だった。
片手に半ズボンを掲げて言ってる。
一応は元寮生で、今は外で騎士やっている人だった。
非番のはずだけど、着込んだプレートメイルがまぶしく陽光を反射してる。
歯の白さも反射し、半ズボンの白さもぐいぐい見せる。住んでたときはここまでじゃなかったから、飢えていたのかもしれない。やるなら家主に履かせるべきじゃないかな、その下着が見えそうな半ズボン。
――ここに来るの珍しい。またどうして。
「もちろん、手に入れるために」
指差す先には廃材があった。
どんだけ見返しても、他のものじゃなかった。
家の口はへの字になり、無意識にマッチを探した。
「あっちゃあ、あたし、出遅れたかなあ」
「やあ、久しぶり、噂は聞いているよ!」
さらに人が増えた。
騎士の人が大仰に歓迎する。
「アイドル活動とかにまったく興味はないが、同じ時期に寮に入っていた君が有名になったことはボクにとってもこの上ない喜びだ!」
「少年趣味の人の素直な感想って、やっぱり微妙に引っかかるね」
同じく今はもう寮にいない、アイドルの子だった。
白いオーバーサイズのスウェットにデニムのパンツって普通の格好だけど、やけに似合ってる。
ただ、なぜか酷く眠そうにしていた、ちいさなアクビを手で抑えてる。大変な中わざわざ来たのかもしれない。
「――」
眠そうな目のまま、ジッと家のことを見てた。
よくわからない複雑な感情があった。
――どしたの?
「ああ、いや、うん」
照れたように笑い、ごまかすように手を振ってた。
「そうだ、ごめんね」
――なにが?
「ここに来たがっていた人がいたんだけど、あたしが来れなくしちゃった。まだ寝てる」
――そうなんだ、ええとそれって――
「たぶん、家が知らない子だとは思う、それでも悪いことしたなあ、って気分だから」
――んー、わかんないけど、わかった。
人間っていろいろ複雑だと思う。
こっそり「フウが悪い、なんであんなに楽しみにするかな」って言葉も複雑すぎる。フウってWHO?
あと騎士の人はあんまり寮を覗き込まないでほしい。
家主から「アイツは子供に近づけるな」って厳命されてる。
特に家は現在、問題少年少女を預かってるからお帰り願いたい。これ以上の問題上昇はなんか限界超えてる。
そうしている間にもゾロゾロと、いろんな人が集まった。
中には数年ぶりとかの珍しい人もいる。
「あー、念のために確認だ」
家主が拡声器片手に面倒そうに言う。
中庭の気配すべてが耳を傾ける。
「今回出た廃材には限りがある、見たところ人数が多すぎだから、いつものやり方で決めるぞ」
当たり前のように。
「枕投げだ」
その単語を言った。




