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一回目の私が知る限り、何が原因となり廃墟のような有様となったのか不明だ。


家は「人類が絶滅してここだけが取り残された」と書き残していたけど、結果的には勘違いだった。


竜炎、というものが残留していた以上、ドラゴンが襲ってきたと考えるのが妥当か?

けど、そんなこと本当に起きるのか?

マジでどうしたらそんなことになる。


そして、仮にそうだとしたら、どうすればいい、どんな対処法がある、何ができる?


思考は繰り返してもどこにも届かない。

元四足獣に要求されるにしては過度な難易度だ。


「ドラゴンが来たら……」


言葉として、口に出してみる。


「……どうすればいい?」


扉を開けた家が、まんまるの目をした

私の、その心からの言葉を聞いたからだった。


以後、家はドラゴンについて恐れた。

なぜだかトレーニングまで始めるようになった。



  ◇ ◇ ◇



いくらか身体を動かせるようになり、自室のあちこちを確かめることができた。

大半はなぜあるのか不明なものばかりだったが、一つだけ有益なものがあった。


日記だ。


一般的には過去の記録だ。

私にとっては違う。未来の記録だった。


今の二回目の私が死んだ後、三回目があるらしい。

三回目の後には四回目が、五回、六回、あるいはもっと。


私という転生者は、繰り返し、過去に向けて生まれ変わりを続ける。

一般的な転生が、一回目、二回目、三回目……と時間通りに続くのだとしたら、

私の転生は十回目、九回目、八回目……と時間を遡って行く。


「そんなこと、ありえるのか……?」


たとえ家の「願い」でも、これは度を越している。

どんな条件が重なれば、そんなことが可能になるんだ。わけわかんねえ。


「ひょっとして……」


あの世界の、星結界が関係しているのか?

逆回転を続ける星空を、私は「普通のことだ」と認識した。

いや、私だけじゃない、家も星欠片も全員がそれが世界にとっての常識だと信じた。


外の星空を見ても違和感が酷い。

こんなのは、本物じゃない。


魂からそう認識したからこそ、転生の方向性もそちらに、時間軸としての過去へ向かった……

いや、そんな馬鹿な。


だが、仮に、もしそうであるとしたら、きっと回数制限もある。

この世界に馴染む程に、魂の底からの認知が偽りだと分かる。

いつしか錯覚であると認めてしまう。


「だが、まあ」


それまでは、ここにいてもいい。

そう絆されてしまうくらいには、平穏な日々が過ぎた。



  ◇ ◇ ◇



まだ上手く身体は動かせない。

どうやらこれは、過去の私には起きなかった現象らしい。

だが――


――家主が元気で、家は嬉しい。

「今の私、ベッドの上で禄に身動きできねえんだが?」

――え、うん?


それがどうしたという表情だ。

過去の私は、いったいどういう状況だった。


疑問に思うがとりあえず、口調の方は日記を参考に、以前の私とやらに揃えることにした。

間違いなくどれも「私」だが、無駄に混乱を起こす必要もない。


「なあ」

――なに?

「私って、どういう奴だった?」

――家主、熱ある?

「ねえよ、ただの興味だ」

――ううん……


しばらく悩んだ後に家は。


――傍にいてくれる人。


そんな風に言った。

冗談の要素は、まったく無かった。


だが、なんとなく私は納得をした。

家は、今も昔も変わらない寂しがり屋だ。



  ◇ ◇ ◇



私の望みはなにか。

その命題が不明だった。


平凡で、退屈で、たまに面白いことが起きる。

そんな日々の中で、曖昧模糊となっていた。


ぶっちゃけて言えば、廃墟化する未来を覆すのって、ちょっと面倒だなあ、と思い始めた。

どうなるかわからないが、流れのままでいいんじゃないか?


この家を、あの家にしたくない、とは思う。

だが同時に、私が知っている「家」といえば、あちらの方だ。


流れを変えるも変えないも、どっちにも強い理由がない。


判断がつかない内に、魔女が入り込んだ。

対策をまったく取っていなかったため、あっさりその侵入を許した。


けれど、そこで提示されたものがあった。


そうだ、別に私が「家主」である必要など、どこにもない。

本当に求めている人が他にいるのであれば、譲ってもいい。


家主――この家の主。

そんなものになりたいと思ったことはない。


離れたくはないが、上になりたいわけでもない。しかし、


「え、家主」


魔女と私、どちらを選ぶかという選択に対して迷わずに、そう言われてしまった。

本当に呆気なく、当たり前の口調で。


それは――過去の「私」が間違っていなかったことの証明だった。

これから先、私と家とは、そのような関係を紡いで行く。


 知りたい。


深く、深く、身も世もなくそう思った。

それがどのような出来事か、どのような日々なのかを、知りたい。

二回目の生を受けてから初めて、心からの欲求が芽生えた。


長く長く繰り返された日々は、家にとっては過去のことだ。

けれど私にとっては、なにも知らない未知であり未来だった。

その輝きに焦がれた。



  ◇ ◇ ◇



デルタ、と呼ばれる人間と出会った。

日記にその存在は記されていたが、私としては初対面だ。


「初めまして」


だからそう述べたが、デルタは固まった。

ゆっくりと息を吐き出し、その場にうずくまり、小さくぽつりと言った。


「怖いぃ……」


性格は、日記に記されたものとあまり変わらないようだった。


デルタに何を伝えるかは、考えなければならなかった。

未来を変えたくはない、それはもう決めた。

私が過去(未来)へ行くためにだ。


だが同時に、最悪の出来事を招きたいわけでもない。

なにより、デルタに渡さなければならないものがあった。

球体だった。


「なに、これ……?」

「知らね」

「家主?」

「いや、私目線、未来の私がそれをしろって書き残してんだよ。どうしてそうしなきゃいけねえのかは、わからん」


うっわあ、という目をされた。

二人揃って「家主」に翻弄されていた。


「魔術的な要素はある。どうやら時間がくれば起動するから、持つだけ持っといてくれ」

「初めてだ」

「ん?」

「こんな若々しい家主」


失礼だかなんだか、よくわからない指摘だった。


その後、二人して深酒をした。

酒を飲むのは初めてだったが、美味いものだった。


デルタが、こうやって私と酒を酌み交わすのが夢だった、と述べたことが印象的だった。

果たして、今の私とそうすることが望み通りなのかとは思ったが、気分がいいので黙っておいた。



  ◇ ◇ ◇



ドラゴンが来た。

予想通りではあったが、予想よりもさらに強大だった。


魔術としても知識としても熟達した「私」であればともかく、たかだか二回目の私では手も足も出ない。


そうして、空を覆うほどの冥い炎を前にして、ようやく気がついた。


私は、これから生じた。

竜炎が死骸を喰らい、長く星々からの影響を受けて形を成し、存在として確立した。


半端な形ではあるが、私は竜の子だった。


だからこそ、広範囲に広がる炎を私へと引き寄せることができた。

その直撃にも耐えた。

魂がすぐ傍へと引き寄せられ、移動を繰り返し、焼かれ続けたその上でも、存在を続けた。


移動可能な身体を渡り切る間、魂を在り続ける事ができた。


魔女が用意した身体は、その全てが「転生先として相応しい身体」ではなかったのだ。

「私」がわざと間違ったことを書き記したのか、それとも魔女が作成をミスったのかは知らないが、10回も渡らずに過去へと魂は飛んだ。


最期に、「ここを頼んだ」と家に言葉を残して。


私がよく知る、あの世界の実現を、家へと頼んだ。


今あるこれらの想いですらも、記されたすべての物事も、きっと家へと伝わった。

外部記憶として連結させ、魂の一部を渡したのだから。

私の短い歴史と欲求を残らず知らせた。


というか、家視点でいえば私が完璧に消え失せたように見えたかもしれないが、ただ魂が過去に飛んで、現世にないだけだ。

別に死んではいない、心配かけてすまん。


まあ、割と最低だなと我ながら思う。

家がこの先の行動を実行しなければ、私って奴は産まれて来ない。

それを相談もせず、ただ望みだけを一方的に伝えた。



それでも、私は逢いたかった。

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