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 一回目

私はミタである、正式な名前は家主(フェミタ)という。

おかしな名前だけど、そう名付けられたんだから仕方がない。


なぜ、どうしてここに発生したかは、わからない。

生まれた意味なんて、どうでもいい。

ただ狭くて広いこの世界を、私は楽しんだ。



家、という名前の奴は、私に似た姿を取っているけど別のものだ。

異形だった。


けど、嫌いにはなれない、嫌悪できない。

だって、よく泣く。

鳴くじゃなくて、泣く。

私が少し狭い場所に行った途端に、とんでもなく悲しい声を出した。


意味まではわからなかったけれど、あとになって名前だって知った。

家主、どこ、と繰り返し呼びかけてた。


あの声色を聞いた上で、敵だなんて思えない。



星をよく見た。

その広大を目に焼き付けた。

その形が、私を形作ったと、直感的にわかった。


周囲を転がる星の欠片たちも、同じだ。

きっと魂ってものを核に、星々の並びに沿うように、作られた。


ある意味では、私と彼らは兄弟だ。

とても似た関係性だ。

けど、それでも狩って食う。



食いたい星欠片と、あまり食いたくない星欠片がいた。

違いがどこにあるのか、私にもうまく説明できない。


ただ、活きの良くて、隠れるのが得意なのが美味だった。

そうして食べるほど、頭が良くなった。

失われたなにかを取り戻している、って感じかも。


まあ、よくわからない。

美味いものは美味いからでいいじゃん。



そうして、存分にこの世界を楽んで、いつしか離れることになった。

最後の最後で、家が側にいなかった。

どっかに離れて行ってしまった。

たまにあることだったけど、タイミングが悪かった。


またあんな風に、寂しく鳴く。

そんなのは聞いていられないから、呼びかけた。

何度も何度も。

結局は、間に合わなかったみたいだけれど――


 ちゃんと、逢いたかったなあ……


そんな感慨が、吐息に混じった。



 二回目

私は目を覚ました。

見知らぬ場所だ。


ベッドの上で、たまに家が取っていたものに似たのになってた。


「お」


起き上がることも、上手くできない。

骨格が違う。

どれが足?

なにより、尻尾がないのが致命的すぎだった。


ベッドで寝転がったまま、なんとか事態の把握する。

慣れない前足を――たしか指って言った? それを目の前に持ってきて、おずおず動かしてみた。


「うっわ……」


めちゃくちゃに気色悪かった。

わきわき動いてんじゃねえよ。


扉が開く音がした。

ひょこ、と擬音がしそうな様子で顔が覗き、呼びかけられた。


――あ、家主、起きた?

「……」


唖然とした。

寝転んだまま目を見開いてまじまじと確かめた。


家、だった、おそらくは。


――どしたの、やっぱりまだ調子悪い?

「あ、いや――」


なんか、ちいさかった。

とてもかわいかった。


なにこの家。

私が知ってる家じゃない。


――おお……

「なに打ち震えてる?」

――家主が、自分から、喋った!?


謎の感動の仕方をされた。


――うん、それなら。

「?」

――身体に優しいもの、家は作ってくる!


一方的に宣言して、すたこら遠ざかった。


扉を開けて閉める、僅かな間に気づいた。

どうやら扉の外に家以外にも別のがいた。

声を発している様子からして、生きたものか?


きっと壁向こうの影に近い、だけど、決定的に違うことがあった。

壁の内側にいた。

当たり前のように歩いていた。


家以外の歩行音を、私は初めて聞いた。


「ここは……」


ようやく気がついた。


「私の知ってる場所じゃない」



  ◇ ◇ ◇



まずもって、この身体だった。

苦労はしたけど、想像以上に馴染んでた。

直感的に動かし方を理解できた。


私用に作成された。

肉体だけじゃない、言語的な知識もインストールされてた。

そんなこと誰がしたかと思ったが、私だった。


もちろん、今の私じゃない。

未来の、または、過去の私だ。


「頭が、こんがらがる……」


私視点で言えば、ここは過去の世界だ。

生まれ変わって、昔に戻った。たぶん百年以上前に。


死亡した後、時間を逆しまに遡った。


壁は存在せず、星欠片を誰も知らず、家は人間形態しか取ってない環境。

なにもかもが違った。


私が知っている建物といえば、柱が何本か残った焦げ跡だったけど、ここでは屋根や壁が組み合わされた密閉空間だ。

私の知っている「囲まれたもの」といえば、あの星結界だったけど、今は代わりに木製の壁が取って代わってる。


家といえば、ちょっと間抜けだけど大人しい、どこか影を感じさせる生き物だったのに、今はこの世の苦労など一つも知らない天真爛漫さを見せている。

本当に誰だアレ。


何よりも、家は「私」を知らなかった。

四足で駆け回るものじゃなくて、人間の姿の私しか知らなかった。

過去ずっと、そうだったらしい。


外は――正直言えば怖かった。

果てがどこにも無い、横方向の広がりは風なんてものを運んでくる。

上方向の広がりは「本物の星々」とかいう意味不明な存在を見せつける。特に、太陽とか呼ばれている目立たがり屋はクソうざい。


なぜ、どうしてこんな風になってしまったのかは知らないけど……


――どしたの?


この先に、この家が、ああなってしまう事態が起きる。

私からすれば過去に、ここにいる人々からすれば未来に、それが発生する。

それだけは確かだ。


家から与えられたスープを飲みつつ、どうするべきか考える。

この住居が崩壊し、結界が張られる事態を防ぐべきなんじゃないか?


「ああ、クソ――」

――あ、熱かった?

「いや、違う」

――転生で身体が上手く動かなくなるとか、あるんだね。

「知らね」


短い言葉で会話を打ち切りながら、それでも嘆かずにはいられない。

過去(未来)に何が起きたのか、ほぼ知らない事実を。

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