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家にドラゴンが来たらどうしよう  作者: そろまうれ
2章 アイドルと家
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……まあ、当たり前だけど、わかっていたことだけど、計画は失敗することになる。

そもそもオーディションに参加できない。

敷地内から出られない。

別にそれでもいいじゃないか、自称アイドルで構わないじゃないかと思ったけど、家の想定するアイドルは、寮の中で皆に拍手されて終わるのではなく、なんかもっとこう、きらびやかなものだった。


仕方なしにあたしは断りの書類を提出しに行った。

時間的にギリギリで、投函じゃ間に合わない。そして、気づけばあたしはオーディションを受けていた。なんでだ。


青い顔で書類を見返してみれば、その氏名欄が空白だった。

たぶん、住所が書いてあるから実質名前が書いてあるのと一緒、とか思って書かなかったな、これ。

直接書類を提出しに来た、「この書類で応募したけど、事情があって無理でしたよ」というつもりで来たあたしが、よくいる文盲のアイドル志望扱いだった。意味不明だ。


もちろん、最初は断ろうと思った。そんな柄じゃないし。

さっさと帰ってさめざめ泣いてる子を慰めるべきだ。


けど、周囲のアイドル志望の人たちを見て、なんとなく思った。ギラギラしている、何が何でもなろうとしている。渇望してる。

その熱をバカにするつもりは一切ない。

ないんだけど、同時に思ってしまったのだ。


――あなたたちより、あの子の方がアイドルだ。


あたしの中でそれは覆しようのない事実で、気づけば真剣に受けていた。

何も習ったことはなかったけど、アイドルに真剣になろうとしている子の応援はずっとしていた。本格的な練習もしている様子を見ていた。ちょっとくらいは手伝った。


たぶん、運が良かったんだろう。

オペラ風の歌い方が、いい形で受けたのかもしれない。

気づけばあたしは合格していた。


「すばらしい歌でした、ただ、最後のあのポーズはどうしてしたのですか? あまり曲調に合っていないものでした」

「……友達と一緒に考えたものだったんです」


問いかけにはそう言うのが精一杯だった。顔が熱い。



 ◇ ◇ ◇



アイドルとなってからの日々はただ忙しく、また、様々な陥穽が待ち受けていた。一歩間違えれば破滅に一直線だ。

味方が必要だった。


そういう意味では、まだ願いを使わずにいたことはあたしにとっての御守りだった。

いざとなれば、どうにか助けてくれる味方と手段がある。一回限りではあるけど、その保証がある。

それがどれだけ心の安寧に繋がったかわからない。


へんな言い方だけど、宗教を信じてる人ってこういう気持ちなんだろうなと思う。

自分は守られているという確信は、人を強くする。

まあ、ヤクザとかマフィアがバックに居る場合でも、この場合は似たようなものかもだけど。


ただ、それでもまだ足りなかった。

細々とした事柄、契約交渉や事前連絡やトラブル回避のためのやり取りから守ってくれる人が必要だった。あたしはそれがとんでもなく苦手だ。集中できることにだけ集中したい。


だから、風天譜ことフウさんに個人マネージャーをしてくれるよう頼み込んだ。

超絶拒否された。

それやるなら身投げするくらいの勢いだった。


「わたし、わたし、そういうの、だめ……!」


それでも、あたしも必死だった。決死の覚悟で頼んだ。

信頼できる人が必要なんだ、あなたしかいないんだ、他の人なんていらないフウだけだ。

そう寝ても覚めてもベッドの中でも説得した。


結果として頼みを聞いてくれたけど、なぜかヒモか詐欺師みたいな目で見られた。

けど愛しているから問題ない、たぶん。


二つの安心を手に入れて、あたしはやるべきことに集中できるようになった。

徐々に安定もして行った。

そうなると、御守りの価値が、ちょっと変わった。

ここまで有名になれば、そうそう排除されることもない。


願いを、変えてもいいんじゃないか?

たとえば――あの子を、アイドルにするために使う、とか。



 ◇ ◇ ◇



その思いつきは、まあ、やってもいいかなくらいのものだった。

だけど、思った瞬間に何もかもを変えた。

心のどこかに火を付けた。


仮に本気でやるとしたら、もちろん継続的なアイドル活動は無理だろう。

あたしだけの記憶を消費して、そんなに長くは続かない。

たった一晩、あの寮を舞台にして、公演をすることになる。


考えても見て欲しい、それがどんなものになるのか。

一撃で地形を変えるほどの攻撃力、それが「アイドル」に変換される。それだけの破壊力が観衆の心を直撃する。そしてそれは威力としては最低限だ、より強い火力が一晩に渡って振り撒かれ続ける、それだけの「アイドル」が脳に焼き付けられる。心は焼け野原どころかマグマが見えるレベルでえぐれる。

経験不足も練習不足も問題にならない、膨大な魔力が底上げし、すべてを解決する。いや、たとえ失敗して転倒したとしても、観客は断末魔に似た絶叫を上げて心配する、そういう舞台だ。


そして、その隣にはあたしもいる――


ぶるっ、と身震いした。

無理だ、無謀だ、できるわけない。

そう思う、思うけど、同時にやりたいと思う、心底願う。


「アイドル」としてのあの子の横に、あたしも立つのだ。

きっと人間では到達できないほどの究極の横に、人間の代表としてアイドルをする。


まともに考えればメインに添えられたパセリでも立派なくらいなのに、比較しても負けないものになろうとしている。


それに、どうすればなれるかわからない。

なにをすれば到達できるか、その道筋も不明。

ただ、諦めるという選択肢だけは思い浮かばない。

本当にカケラも思えなかった。

あたしに与えられた「願い」は、そのためのチケットなのだから。

たとえ、それが破滅への直通路だとしても……


「――」


ベッド横にある鏡を見る。酷い顔をしていた。

オーディションのときに見た、飢えて欲してギラギラとした熱、あれをもっと煮詰めて酷くした表情。あたしが「こんなものはアイドルではない」と心底思った顔。それが、消えること無く張り付いていた。きっともう取れそうにない。


「どう、したの……?」


心配そうに添えたフウさんの手を握り、胸元に抱える。

ブルブルとした震えはまったく取れない。


「あたし――」


神様に懺悔するように言う。

今更の、けれど罪深いことば。


「アイドルになる」


あなたの好きなあの子を、究極を超えるほどの。

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