41. 決起
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「ふむ。つまり、クエスト依頼で向かった先にて魔族と交戦、敗北しノインは攫われた、と」
たった今聞かされた話を淡々とまとめる声が食堂に響く。
「その通りですわ。むぐっ、というか、魔族のことは存じてましたのね」
「むしろ、一般人はおろか2級冒険者ですら僅かしか知らんような情報をあんたらが持っとった、いうことの方が驚きよ」
「その話は追々。今はノインをどうやって取り戻すか。その方が大事ですわ。もごもご」
喋りつつ、口いっぱいに食事を放り込むティナ。その様は元貴族とは思えないほど野蛮だったが、見た者の気持ちを和ませるような幸せそうな顔をしていた。
「まず、ベンゲルと太刀打ちできるぐらいに強くならなきゃね。もごっ、ティナの話だと、私たちが戦った時は本気を出してなかったらしいし。ぷはーっ」
「そもそも、居場所が分からなければ攻めることも出来ません。んぐっ、拠点の位置も探らないといけないです。けぷっ」
ティナ同様、アンリとリアンも同じ食事をとっていた。食堂の営業時間はとっくに過ぎていたが、労いの意も込めてとクロネが自ら作ったのである。
「そのことやねんけど、独自に調べててな。魔族の拠点はダンジョンに隠されとるってことがほぼ確定しとる」
「! ということは」
「せや。魔族は滅多に姿を見せへん。ただ、ダンジョン攻略を続けていればいずれ……てとこやね」
見え始めた活路に、ティナの心は躍らずにはいられなかった。腹の底から何かがこみ上げてきたのを感じながら、それを抑えるように食事を口に運ぶ。
「もちろん、私たちも協力するよー! ねっ、リアン」
「当然です。折角加わった仲間が居ないと寂しいですから」
「頼もしいですわ。……必ずやノインを取り戻しましょう」
皿を平らげ、口を綺麗に拭き取り、ティナはそう宣言した。
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森林のようなダンジョンの中、魔族化したノインは目を閉じ、その場から1歩も動かず静止していた。いわゆる精神統一である。
「はあっ……! ……ふぅっ。今はまだこんなもんか」
魔族から人間の姿へ変わったノインの手元には金属製のアイテムが握られていた。その文字盤には3分を表す数字が示されている。彼は今、このダンジョンの中で自我を保ったまま魔族化するという訓練をしている。
「これ、確かタイマーって言ったっけ、やっぱり便利だな。レパラには感謝しないと」
「よォ、調子はどうだァ?」
「ベンゲルか。……今のところはこんなもんだよ、それ以上やると持ってかれそうになる」
木々の隙間から声をかけてきたその魔族に対し、タイマーの文字盤を見せつける。
「ほお、まあまあってとこだなァ。それで、魔族の側に付く気にはなったか?」
「それは前も言ったろ、僕は真実を確かめたいだけだ。君らの仲間になるかはその後で決める。……それに、君がティナにしてきたことを許したわけじゃない」
ノインは明らかな敵意を込めて言い放つ。ベンゲルは過去に、ノインの意志を折るためとはいえ、ティナを殺そうとしたことがある。こういった対応をされるのも無理はない。
「ちょっと前までは「帝都がそんな研究やってるわけない!」の一点張りだったのに、えらく意見が変わったじゃねェか」
「君こそ、僕のことが気に入らないんじゃなかったのか? やけに絡んでくるけど、目的は何?」
不服そうに言いつつ、スキルにより虚空から取り出された水筒に口をつけ、喉を潤す。
「ハッ、確かにお前みたいになよっとしてるヤツは嫌いだが、ここに来てからのお前はどこか違う。今後はその訓練とやら、俺も手伝ってやろうと思ってな」
「えっ?」
思わぬ提案に、水筒を持つノインの手が止まる。
「お前の魔族化、まだ完全じゃないんだよ。俺が魔族としての戦い方を叩き込んでやると言ったんだ」
ベンゲルは両拳を打ちつけ、凶悪な笑みを浮かべた。その申し出にノインは一呼吸置いてから応えた。
「出来ることは多い方がいい、か。正直、ちょっと複雑な心境だけど、是非よろしく頼むよ」
そして、2人はダンジョンの闇へと消えていった。
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