32. 野宿
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魔族化したノインにより放たれる、樹木を蹴散らすほどの破壊力を持った電撃はティナの身を焦がすことはなかった。
美しい軌跡を描きながら放たれたティナの刺突が、魔術が発動するよりも早く、正確にノインの角を捉えていたためである。角は砕かれ、変質していた肌や瞳が元の姿を取り戻していく。
「さて、どうなるか……」
警戒を解かず、ノインの反応を待つティナ。その結果は想定よりも早く、そして望ましいものだった。
「……っ! えーと、アンリに羽交い締めにされてて、足はリアンの魔術で固められてて、ティナに剣を向けられてるってのはどういうこと?」
状況を飲み込めず、とりあえず抵抗の意思は無いというふうに両手を上げ、苦笑するノイン。その様子を見たティナは安堵と呆れの感情が押し寄せ、その場に倒れ込んだ。
「はぁぁ〜、疲れましたわ……」
「とにかく、一旦この場を離れましょう。戦闘で発生した音で他のモンスターや魔物がやってくるかもです」
ボルテクスの骸を横目に、冷静な判断を下すリアン。その視線につられたノインは、そのおぞましい惨状を目にし、戦慄しつつもその判断に従うことにした。
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ダンジョンに一定数存在する安全地帯。そこに腰を落ち着けた一行は、ノインに関する事実を打ち明けた。
「僕が、魔族に……?」
「本当ですわ。貴方はこれまでに2度、魔族化していますわ。目が覚めたあとのあの惨状……。あれは全て、魔族化したノインがやったことですわ」
「もしかして、その傷も?」
ティナが気まずそうに頷く。
「自我を失ってたとはいえ、仲間に手を出すなんて……本当にごめん」
「謝らねばならないのはこちらの方ですわ。私が至らないばかりに、従者の身を危険に晒してしまった」
「だー、もうっ! 皆生きてたんだから良かったでいいでしょ! クエストはまた受けられるし、準備が出来たら出発するよ」
濃い瘴気のせいでただでさえ重たい空気が沈むのを感じ取り、いたたまれなくなったアンリが声を上げ、その場は収まることとなった。
「それはそうと、もう日が落ちてきています。今日はここで1泊することになりそうです」
「安全地帯なら見張りが居れば夜を越すことも出来そうですけれど……そんな準備がありまして?」
すると、待ってましたと言わんばかりにノインがスキルを発動させ、虚空から野営のための卓やテントなどをを取り出した。
「こんなこともあろうかと、こういう準備は密かにしてたんだよね〜」
「確かに便利ですけど、そんなに持てましたっけ?」
「限界を試したわけじゃないけど、仕事に行く度に持てる量が増えていってる気がする」
「スキルは成長するという噂もありますし、不思議なことではないですね。もっとも、スキル自体が不思議なものではありますが」
「これ、食べれそうなら携帯食料の節約にならないかなー?」
声のする方を見やると、混沌の森らしい、良く言えば色彩豊かな果実や野菜を抱えたアンリがこちらに向かって駆け寄ってくる。
「えっと……それ、食べれますの……?」
「私が確認します。弾かれたやつは食べないように」
魔物食を一度は嗜んだことのあるティナでさえ、それらから1歩引くほどの見た目をしていたが、贅沢を言っていられない状況ではあったため、最低限の調理を施した上で腹を満たした。
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夜のダンジョンは危険があふれている。というのも、そもそも視界の悪い中で探索をするということ自体、その危険性は未知数である。
それは安全地帯であっても例外ではない。そのため、ノインたちは交代制で見張りを置き、各々体を休めることにしたのだ。
「魔族になった……僕が」
現在はノインが見張り番。他のメンバーはテントで休んでいるため、1人の時間を有効に使い思案する。今日あった出来事。ティナと会った時のこと。そしてこれからのこと。
「っ、やめやめ! こんなこと、今考えてもなんにもならないし」
そう呟いたはいいが、手持ち無沙汰になり自身のスキルに入れていた物の確認をし始める。
「剣……ある。水筒、財布、傷薬……、あとレパラから預かってるこれと、さっきのこれ。うん、大丈夫。明日も生きて帰れる。もしもの時は、また……」
「魔族化して戦う、なんて言いませんわよね?」
装備などを外し、普段よりお嬢様らしく見える彼女は、刺すような視線でノインを睨みつけた。
「ティナ!? まだ交代には早い時間じゃ……」
「寝心地が悪くてちょっと夜風に当たろうと思ったら、お馬鹿な考えをする従者がいたもので、つい」
嫌味っぽく話しながらノインの隣に腰を落としたティナ。ノインは特に腹を立てた様子もなく口を返す。
「自分でもそう思うよ。でも、これで皆を守れるなら……」
「お馬鹿。それでこちらに攻撃していては元も子もないでしょう」
「うぐっ、それはその、スミマセン……」
「まあ、済んだことなので気にしてませんけど、明日は元のノインのままでよろしくお願いしますわ」
「うん、わかった」
聞き分けのよいノインを見て機嫌が良くなったのか、ティナの表情はふっとにこやかになり、彼の肩を叩いた。
「まあ、今後また魔族になっても、私たちが何本でも角を折って差し上げますので、大船に乗ったつもりでいなさいな」
「ありがとう。そう言ってもらえると心強いよ」
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