30. 連携
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<深眼の孤狼>に、<舞う楓>の2人を加えた計4人は、怪しげな植物が生い茂る森のようなダンジョンにクエスト攻略のため訪れていた。その内容はかつてノインを襲った魔物であるヴォルフの毛皮を一定数集めることである。この依頼書を見たノインは一瞬躊躇したが、当時はいなかった心強い味方と、冒険者ではなかった頃とは違うという自負によりそのクエストを受けることに決めたのだ。
「一回やってみたかったんだよねー! 合同任務ってヤツ!」
「アンリは思いつきで行動しすぎです」
そう呟くリアンの語気は穏やかだ。内心ではアンリと同じく、新たな仲間とともに働くのが楽しみでならないのだろう。ダンジョンに至るまでの道中での魔物との戦闘でも、彼女の動きは活き活きとしていた。
「それにしても、ここはどういった場所で? なんだか普段のダンジョンと雰囲気が違いますわ」
「ここではモンスターだけでなく、魔物も多数生息していることから<混沌の森>と呼ばれています。油断してると3級冒険者でさえ命を落とすとも」
淡々とした説明ではあったが、その内容にノインは戦慄せざるを得なかった。なぜならば、彼らは皆4級冒険者である。明らかに適正ではない場所にいる事実を突き付けられ一瞬動揺したものの、このパーティを構成している男性が自分だけということもあってか、それを表に出すことはなかった。
「ちょっと待って、魔物ってどういうこと? ダンジョンで生まれるのはモンスターじゃなかったっけ?」
「そこがここの怖い所です。本来であればダンジョンの瘴気はその濃度ゆえに魔物ですら殺してしまいますが、ここにはその瘴気に打ち克った魔物が生息しているのです」
「なるほどね……どれだけ強いのか楽しみだ」
半ば強がりから出たその発言を、彼はすぐ後悔することになる。草むらから突如、けたたましい咆哮とともに一行に襲い掛かる獣が現れたのである。
「噂をすればなんとやら、というやつですわね。あの突起、発達した魔石のようにも見えますわ」
赤い毛皮を持った肉食獣のような見た目に近いその生物には、青紫の結晶体のようなものが胸と背中に一対、貫通するように生えていた。
「ボルテクスでしょうか……あんな魔石は見たことがないです」
「これがダンジョン産の魔物……! とにかく倒そう」
ノインはスキルを発動し武器を顕現させる。彼の合図に反応し、他の面々も武器を構えた。
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その魔物は俊敏さに加え、多少の攻撃ではひるまない頑健さを兼ね備えていた。軽やかに動くことの出来るノインとティナの攻撃では痛手を負わせることができず、かと言っていくらスキルで比較的素早く動けるといっても、アンリの大槌ではボルテクスの身体を捉えるのは困難をきわめた。
「うんうん、中々厄介な相手だね。だけどっ!」
「私に任せるです」
意気揚々と杖を掲げるリアン。それに応えるように魔物の周囲四方の地面が抉られ、宙に浮かぶ。魔術的な力を帯びたその土の塊は敵に向かって飛来する。平面的な回避では無意味と理解してか、ボルテクスは高く飛び上がった。
「やっぱそうくるよね。でも、空中だと身動き取れないよねっ!」
着地点を予測し、アンリが渾身の一撃を叩き込んだ。獣の肉が鉄に打ち付けられ、鈍い音を発しながら大きく吹っ飛ぶ。
「今の見た〜!? 超イケてたでしょ!」
「イケてたかそうでないかはともかく、4級に上がった貴方たちに必要なことは今のような連携です。一見戦いにくい相手でも、仲間の長所を活かせるよう動けばなんてことはないです」
「な、なるほど……! 勉強になるよ」
無表情を貫いてはいるが自慢したげな雰囲気が滲み出ている。そんな中、ティナは冷静に状況を分析していた。
「皆様、油断するのは早くてよ。まだあの魔物を倒したわけではありませんわ」
ティナの発言通り、連携攻撃は見事ではあったもののその一撃は絶命には至らしめてはいない。体勢を直し、荒々しい咆哮を上げるボルテクス。再びパーティに向かい攻撃を仕掛けるかと思いきや、咆哮は鳴り止まない。
「……っ、なにか様子が変だ、伏せて!」
「へっ?」
「……くっ!」
ノインの勘は正しかった。咆哮に呼応するように魔石が光を帯び、臨界点に達したソレから扇状に電撃が放たれたのである。
それはその範囲の木々が一瞬にして焼け落ちる程の威力を有しており、並の人間が受けてどうなるかは想像に易いだろう。
「……! みんな、生きてる!?」
衝撃に耐え抜いたアンリがいの一番に全員の安否を確認する。
「後衛にいた私に大事はないです」
「私も無事ですが……ノインが!」
ひどく焦った様子のティナの目の前には、こちらに背を向け剣の腹に手を押さえた姿勢で硬直するノインの姿が。剣を握る手や着ている服は雷に焼かれ、焦げた煙が出ている。
「ノイン! しっかり!」
倒れ込むノインを抱えるも、返事は無い。手当をしようにも、敵は待ってはくれない。ボルテクスは隙だらけの獲物に向かって飛びかかる。
「危ない!」
その瞬間だった。ノインを中心として黒いオーラが吸い込まれていくように集束していったのである。同時に彼はティナの腕を振り払い、敵を迎撃した。
「きゃっ!?」
「よかった、ノインも無事みたい!」
「! ……いえ、よくありませんわ」
「それってどういう意味──っ!」
安堵していたアンリの顔色が一気に緊張したものに変わる。その場の誰もが半信半疑であったそれは、確信へと変わっていく。ノインの身体が黒く変質し、その額からは漆黒の角が生えていたのである。
「これが、ティナが危惧していた、魔族化……!」
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