26. 仮面
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ノインの魔族化という事実を本人に悟られないよう、普段通り振る舞うよう釘を刺されていたアンリは、こともあろうに今までにないほどのたどたどしい口調で喋り出した。その場は妹のリアンがなんとか誤魔化したものの、ノインの心根に実体のない疑念として残ったのは間違いないだろう。
「それにしても、さっきのはなんだったんだろう? アンリさんにしてはえらく動揺してたみたいだったけど」
「そ、それはさっき済んだ話ですわ。さ、私たちは宿に帰りますわよ。金額を数えるのが楽しみですわ」
報酬が入った袋を無邪気な笑顔で見つめるティナと、やれやれと言った様子のノインがギルドを後にしようとした時だった。
「ちょおーっと待ったぁー!」
出口の扉に手をかけた所を、不意にアンリに引き止められたのである。
「アンリさん、どうなさったので?」
「2人に話があるの! このあとちょっと時間ある?」
「私は構いませんわ。つまり、ノインも問題ないということでしてよ」
「なんじゃそりゃ。まあ、その通りだけど」
「決まりだねっ、それじゃあ着いてきて!」
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〈舞う楓〉の2人に連れられ、貴族の屋敷にでもありそうな門を抜けたノインたちが最初に目にしたのは、人だけでなく獣人族や長耳族など、多様な種族の者たちが身を鍛える修練場だった。
「ここは……」
「詳しくは奥で話すよ。こっちこっち〜」
言われるがままについて行き、修練場の外周を歩いていく。修練場に併設された建物は集合住宅のようになっており、1部屋ごとの差はあまり無いように思える。
「よお、アンリ! あとで組手付き合ってくれよ!」
「はいはーい!」
「リアン、また新しい料理を思いついたから、味見してちょうだいね?」
「ふふふ、楽しみです」
目的地に到着するまでの途中、2人は度々声をかけられていた。
「随分とここの方たちと親しいんですわね」
「冒険者始めてすぐぐらいからずっといるからね〜。ささっ、着いたよ!」
アンリが示したのは、他の部屋よりも特別な装飾が施された扉だった。彼女は軽くノックしたあと、その扉を開いた。
「失礼しまーす! 〈舞う楓〉、ただいま戻りましたっ!」
「ふむ、ご苦労さん。して、そこの御二方は?」
扉の先で待っていたのは、畳の部屋と大量の書物、そして妖艶な雰囲気と共に豪奢な着物に身を包んだ女性。しかし、口元以外は狐の面に覆われていて確認することが出来ない。
「初めまして。〈深眼の孤狼〉、ティナと申しますわ」
「ええと、同じくノインです」
スカートの先をつまみ、淑女然とした挨拶をするティナとは対照的に、締まらない回答のノイン。そんな様子を気に留めず、着物の女性は長い髪を揺らす。
「〈深眼の孤狼〉。最近4級に昇格したパーティやね。どうしたん?」
「それが僕らも何がなんだか……」
「アンリ、もしかして何の説明も無しに連れてきたん?」
「いや〜、ボスが上手いことやってくれるかなーと」
気まずそうに人差し指をつんつんするアンリを睨みながら──実際には面をしていてわからないが、そういう雰囲気を感じさせた──、ため息をついたボスと呼ばれた女性。
「仕方ない、か。とりあえず上がって座りなされ。ああ、そこから先は土足厳禁ゆえ、そのまんまあがったら骨ひとつこの世に残さんでぇ……?」
「ひいっ!?」
この部屋は無理やり造りを変えられたようになっており、石の床と畳の間に段差があり、そこから先に靴であがってはいけないということだろう。促されるまま恐る恐る畳に座ると、仮面の女性の秘書のような人物が茶を出してくれた。
「それじゃ、説明してもらいますわ。一体ここがどういう場所で、なぜ私たちがここに連れてこられたのかを」
奇抜な恰好をした人物にも普段と変わらない調子で接するティナ。途中から視線はにへーっと気の抜けたアンリの方を向いていた。アンリにボスと呼ばれていた女性は厳かな雰囲気で開口する。
「ここは〈トゥリプノア〉。冒険者連合、と呼ばれているものの内の1つどす」
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おはこんばんちわ、肋骨亭です。突然ですが今日から週2更新(毎水、土)でやっていこうかと思います。ただ当方遅筆なもので、執筆速度をストックが溶ける早さが追い越す可能性があるのでちょくちょくサb……もといお休みをいただくことになるかと思います。新体制でお送りする「ぼつせか」、何卒よろしくお願いします。




