23. 片鱗
◆◆◆◆◆
人の身で魔物と化し、逸脱した身体能力の発揮を可能とする魔族。ノインへ並々ならぬ執着を見せる魔族、ベンゲルの狙いは如何に。
「また僕が狙いなのか?」
「話が早くて助かる。俺と共に来い、ノイン」
会話をしつつも、お互いに次の行動は分かっていた。ノインはゆっくりと黒獅子の剣を顕現させ、ベンゲルは両腕を広げる攻撃的な構えをとる。
「どうして僕を狙うんだ、説明してくれ!」
「俺に付いてくるなら話してやるよッ!」
瞬間、ぶつかり合う剣と腕。剣を握る両手に力を込めるも、その肉が切断される様子はない。
「なんて硬さだ、肌が鱗みたいになってるのか……!?」
「これが魔族の強さだ」
ベンゲルが剣を蹴り、ノインは大きく後ずさる。
「まだまだこんなものじゃない、俺がその気になれば貴様などすぐ殺せる。強さを欲するなら俺と我々の所まで──」
その言葉はノインのスキルによって撃ち出された細剣により遮られた。最低限の動作でそれを避けるベンゲルだったが、射線上に回り込んでいたティナが、今度は飛来する細剣を捕えることに成功している。
「得体の知れない強さより、もっと信頼できるものが僕にはあるのさ」
「チッ、何をする気だ!」
すぐさまベンゲルに斬りかかるノイン。持ち前の腕で防ぐベンゲル。
「今だ、僕ごとやれティナ!」
「どうなっても知りませんわよ!」
パートナーの掛け声を聞き、虚空を穿つティナ。その突きは先刻の鉱脈で放ったものと同じ漆黒の衝撃波を発生させたが、明らかに違う点が1つあった。それは1度目に放った時よりも大きく、より禍々しさを増していたのだ。
「えっ、ちょっ、さっきより大きくない!?」
「チィィィィッ!」
着弾の瞬間、ノインはその場を瞬時に離れた。超質量の魔術は、洞窟の壁に激突してもしばらくは勢いが衰えることはなかった。
◆◆◆◆◆
「……いやっ、危なすぎるってー! あとちょっとで穴が空く所の話じゃ無くなるところだったよ!?」
「なんかデジャブを感じますわね……っ。まあ、服を買い替える機会を与えて差し上げたのですから感謝するべきですわよ?」
衝撃波による風圧で衣服がボロボロになり憤慨するノインと、笑いを堪えきれないティナ。
「フハハッ、さっきのは効いたぞ、人間……ッ!」
見ると、抉れた壁から全身に大小様々な切り傷を追ったベンゲルが立っていた。
「なっ……今のを受けてまだ立てるんですの!?」
「魔族の打たれ強さを舐めてもらっては困る。それに、最早貴様らには手加減は無用と見た。俺も魔術を使わせてもらうぞ……」
「炎の魔術か!」
正解と言わんばかりに不敵な笑みを浮かべたベンゲルは高速で移動しノインらに向けて火球を投げまくる。
初めの内は避けられる程度だったが、次第にその攻撃は苛烈さを増していく。
「この攻撃、勢いが強くなっていってる!」
弾幕と化した火球群に対し、回避を諦め黒獅子の剣による衝撃波で相殺していくノインだったが、対処に追い付かず、火球の1つを剣で防いだ。
その隙を見逃すほど、ベンゲルは甘くはなかった。それまではノインの周りを旋回するように移動しつつ攻撃を加えていたが、防御の際の衝撃でノインが大きくよろめいたのを確認すると、好機と言わんばかりに一直線に彼の方へ駆けていく。
「もらったァ!」
「っ、いけない!」
次の瞬間、ノインに掴みかかったはずのベンゲルの手には────ティナ。首元を掴まれ、足が宙に浮いてしまっている。しかし、そんな窮地に立たされながらも彼女は嗤っていた。
「チッ、お嬢様が掛かったか……、まあいい、厄介な相手が1人減るんだからな」
「くっ……、はっ、|減らないのは貴方の口の方ではなくて? このティナ、あんな焚き火に焼かれるほどヤワではなくてよ……っ」
「フン、減らず口を叩いているのがどっちか、試してみるか……?」
「ティナをっ、離せ!」
その光景を目にし、気がつけばノインは体が動いていた。黒剣を握りしめ、敵と見なしたそれを斬りつけるも、空いた片腕にいなされてしまう。それまで愉快そうにしていたベンゲルは態度を急変させ、重い語調で言った。
「元はと言えば素直に言うことを聞いてりゃ良かったんだ。これはなノイン。お前の『弱さ』が生んだ結果なんだよッ」
必死で剣を振り続けるノインだったが、無慈悲にも蹴りを浴びせられ地に伏せる。
「これから俺がすることをしっかりと目に焼き付けとけ」
ティナを掴む腕に熱が集中していく。それは彼女への魔術のゼロ距離発射を意味している。
「やめろおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
体を起こそうにも、ダメージが蓄積しているのか、思うように動かない。そんなノインを横目にベンゲルは下卑た笑みを浮かべ、ついに掌を起爆させた。
爆風に包まれるティナ。その様子は、ノインに深い絶望を植え付けるには十分過ぎた。
「ティナあああああぁぁぁぁ!」
そんな叫びをあげても、結果は変わらない。魔術による黒煙が晴れると、うつ伏せになって倒れ込むティナと、余裕の表情で歩いてくるベンゲルの姿だけが目に映る。
「ふははは、どうだ、これが魔族である我々の力だ! お前もこうなりたくなくば、俺と来い!」
「くそっ……僕が弱かったせいだ……。僕にもっと力があれば……!」
ノインは自分自身の内にドス黒い何かが根付いたのを感じた。その何かに突き動かされるように体が動く。
「お前は……お前だけは許さない……!」
剣を構え、憎き相手を睥睨する。
「いいぜ。ボコボコにして気失わしゃお前を連れてけるしな」
2人の闘気が場を支配し、もはや一触即発の雰囲気となっていた。
「さぁ……第2ラウンドと行こうかァ!」
◆◆◆◆◆




