22. 射出
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────数週間前。宿屋の空き地にて。
「昇格祝い?」
「そ、僕が今使ってる『黒獅子の剣』。これを作った時に余った素材を使ってトリーネさん……あ、鍛冶屋の店主さんね。に打ってもらったんだ。受け取ってよ」
そうノインが差し出したのは吸い込まれそうなほど黒い刀身を持った細い剣だった。ノインのものとは違い、鍔には赤い宝石が嵌め込まれている。
「気持ちはありがたいですけれど私、二刀の心得は持ち合わせていませんわよ? それに、私が元々使っている剣も一族に伝わる誇りある物でしてよ。やすやす手放すつもりもありませんわ」
「なんとなくそんなようなことを言う気がしてたよ。だから、これは普段は使わない。こうやって使うんだ」
取り出したるは白い紙。そこにはノインが描いたであろう稚拙な絵が。
それ単体では何を表しているのか理解するのは難しかったが、何度も描き直した後を発見し、ティナは絵の出来には触れないことにした。
「えーと……つまり、どういうことですの?」
「ここはこうで……」
「中々危険なことをするし、させますのね……」
「ティナの身体能力なら出来るよね?」
「はぁ〜……。ええッ! やってやりますわ!」
────。
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クエストの依頼品であるミルモタイトの鉱脈に出現したモンスターの数は5体。ノインはそれらに向かって腕を突き出す。その延長線上には──ティナ。
「おーっほっほっほ! 愚民の皆様、こちらですわ!」
その声を聞き、敵はようやく自分が冒険者2人により挟み撃ちにされていることに気が付いた。ティナが持ち前のスピードで回り込んでいたのだ。
数体のモンスターがティナを威嚇した刹那、反対側からその肉体を穿つ鋭く尖った飛翔体。飛翔体はモンスターの肉を貫通し、ティナの方へ向かってくる。
「ひょえ〜っ、こんなの、私でなければ今頃風穴が空いてましたわよ!」
「いやあ、まだ調節が上手くいかなくて」
ティナはそれを紙一重で回避することが出来た。が、モンスターの肉体を貫通した後でも洞窟の壁に突き刺さるほどの威力である。ティナに当たっていれば惨たらしい結果になっていたのは言うまでもない。
「でも、初めてにしては上手くいったんじゃない? ともかく、これで相手の数は減った。一気に決めよう!」
「やれやれですわ……戻ったらあの戦法について検討しますわよ」
飛来していた物体は黒獅子の素材から作られた細剣だった。壁に突き刺さったそれを抜き、彼女は2本の剣で構えをとった。
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2本の剣で2体を相手取る。言うのは簡単だが、その難易度は1本の剣で1体と戦うのとはワケが違う。人が相手ならまだしも、今戦っているのは異形の怪物であり、それに相対しているのは2体とも異なる姿をしている。
「腕か脚か、あるいは口から何か吐くのでしょうか。いずれにせよ────」
ティナは1つの動作で怪物の攻撃を躱し、そのままの姿勢でそれぞれの急所を一突き。
「当たらなければどうということはない、ってやつですわ」
刺突された箇所から赤黒い液体を吹き出しながら、力なく倒れるモンスターたち。2本の剣を抜き、ノインの方を見やると、丁度1体目を討伐し終えた所のようであった。
「ちょっとばかしサプライズといきたいですわね……確かアレはイメージがなんとか……」
黒獅子の細剣を握りしめ、脳内で強敵との戦いの記憶を紡いでいくティナ。そのイメージに応えるように刀身に輝きが生まれていく。
「なるほど。ノインもこんな風に……!」
未知の感覚に対する高揚感と共に、彼女は突きを放った。刀身の輝きは洞窟の闇より暗い黒となり、ノインの方へ一直線に飛んでいく。
「ん? ……わわっ!」
着弾の直前に異変に気付いたノインは、既のところでこれを回避し、数瞬前まで痛手を負わせられずにいた敵の肉体には大きな穴がくっきりと空いていた。
「……まさかとは思ったけど、ティナも魔術が使えたんなら言ってよ」
「ノインにはいつも驚かされてますもの、たまには私のターンがないと面白くないですわ。それに、私も初めてで魔術が使えるとは思わなかったんですもの」
「せめて言ってほしかった……危うく僕にまで風穴が空くところだったんだから!」
先程まで場を支配していたモンスターの気配が消え、抗議の声をあげつつ武器をしまうノイン。
「やー、2本の剣で荒々しく戦うというのも悪くないものですわね。普段より集中しなければいけないのが難点ですけれど」
黒獅子の細剣をノインへ渡しながらミルモタイトの採取に向かう。
多少の傷を負いつつも依頼の達成に必要な数を収集し終え、帰還を始めた〈深眼の孤狼〉の2人だったが、その道中のことであった。
「ん……?」
「よォ。久しぶりだなァノイン……」
「君は……! ベンゲル……!」
洞窟の闇から姿を現したのは、1度ノインを襲撃した恐るべき魔族、ベンゲル=シュトラウスであった。
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