20. 命名
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「なにも思い付かない……。」
「私も犬や猫にならありますけど、パーティ名となると話は別ですわねー……」
4級昇格から数週間。ノインとティナはパーティネームを決めかねていた。というのも、昇格から1ヶ月以内に決めなければギルドから勝手に決められてしまうというので、こうして慌てて考えているのである。
「こういう時は僕らパーティにどんな思いを込めるかが大事だと思うんだ。ティナはなんかそういうのない?」
「そうですわね……。あ。」
何か思いついたらしい様子のティナを見て、ノインはペンを机に置き聞きの姿勢に入る。
「私の存在を、離れ離れになった一族の関係者に知らせる……、そういった目的で命名してもよろしいのでしょうか?」
「なるほどね、パーティネームが広まれば、ティナを知ってる人が連絡をくれるかもしれないってことか。僕は構わないけど、そんな都合のいい名前、あるの?」
ティナは目をギラつかせ、言った。
「〈深き目の狼〉……、この名前を聞いて無反応な当時の者は居ないはずですわ。」
「へえ、かっこいいじゃん。んじゃ、それで決定?」
「なんというか、私達らしさが欲しいところではありますわね」
「だったら〈孤狼〉ってのはどう? 僕らの境遇を一言で表してる、僕ららしい言葉だと思うんだ」
「〈深眼の孤狼〉……、うん、なんかしっくり来ましたわ! これならじいやにも気づいてもらえるはず……!」
「じいや?」
「あら、言ってなかったかしら。私が帝都で冒険者をやろうとしたのはキルドニアのどこかで隠居しているじいやを見つけるためですわ。〈深き目の狼〉という名も、じいやの昔の通り名ですのよ」
自分のことではないのに胸を張るティナ。
「ちょっ、ちょっと待って、最近の執事には通り名があるのが普通なの?」
「じいやは少し特殊でして……、その昔、彼は1級冒険者にも引けを取らない程の実力者だったそうですわ」
「そんなすごい人がなぜ執事に……?」
「さあ? 私が生まれた頃には既に家に馴染んでいましたし、詳しくは知りませんわ。が、それだけ古くから我が一族のことを知っているということ。じいやに会うことは一族復興の近道になること間違いなしですわ」
「へえ。なら、そのじいやって人に会うためにも、〈深眼の孤狼〉を有名にしなくちゃね」
「ええ、その通りですわ。しっかり頼みますわよ、ノイン?」
そう悪戯っぽく微笑むティナを見ながら、ノインはふと、彼女が初めて昔のことを自分に深く語ったことに対しささやかな感動を覚えていた。同時に、この期待を裏切るわけにはいかないという信念の芽生えを感じた。
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「ったく、こんな判子なんぞ誰が押そうと変わらないだろうに。……ん?」
クエストギルドの一角に設けられた執務室。本来なら冒険者はおろか、並のギルドの職員ですら立ち入ることは許されていない場所だが、そこにはその豪奢な内装とは不相応な老人が悪態をつきながら作業をしている。
長く伸びた白髪に、左目に掛けられた眼帯。それに加え、老いてなお猛々しい筋肉は、誰がどう見てもただ者ではないということを実感させていた。
もはや老兵と言っても差し支えないその人物は今月、4級に昇格したパーティの名前の確認書類に判を押すというなんとも単純で退屈な作業に勤しんでいたが、次に目を落とした書類に興味を引かれた。
「〈深眼の孤狼〉ねえ……。懐かしいことを思い出させやがるじゃねえか、どれどれ、メンバーはっと……、ほお、あの時のお姫様、冒険者になったのか。くくっ……」
それまで怠惰に歪んでいた口角が徐々に頬へ近付いていく。そして、おもむろに立ち上がると、高笑いをしながら手に持っていた書類をばらまいた。
「面白い。何をしでかそうとしてるのかは知らんが、ここまで登り詰めてこい! 俺はここで待っているぞ!」
突然開く扉。そこには老人の秘書であろう人物が立っていた。
「あの、うるさいです。それと書類、ちゃんと片付けといて下さいね」
「…………はいよ」
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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。この物語は20話をもって1章完結とさせていただきます。2章からは魔族の目的やノインのスキルの秘密について触れていこうかと思います。乞うご期待。




