19. 初心
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1人用のベッドに狭苦しく寝転ぶ形になったノインとティナ。ティナは酒によりだらしなく紅潮した顔でノインの方を見つめている。対してノインはというと、家族以外の異性と同衾するなどという未知の体験をさせられ、完全に思考が停止していた。
「ふふっ、こうすれば私のポリシーにも反さず、ノインも暖かい気分で眠ることが出来る。これでオールオッケーですわ!」
「全然オッケーじゃないよ……。主に僕の精神が……!」
今までそういう素振りを見せなかったとはいえ、ノインとて健全な1人の青年。歳の近い異性と肌と肌が重なるほど密着するとなれば意識せざるを得なかった。
「(こ、このままじゃまずい!)やー、なんか暑くなってきたし、僕はやっぱり床で寝ることにするよ!」
理性を振り絞り、なんとか布団から這い出ようとするノインだったが、ティナの腕はそうはさせまいと獲物に絡みつく蛇のようにノインの体を捕え、こともあろうにさっきよりも密着する格好になってしまった。その影響でノインの背中を2つの柔らかい感触が撫でる。
普段は気にならないが、確かにある。この状況は、嫌でもその事実を突きつけてきた。
「逃がしませんわ……! 何が不満なのかは知りませんが、貴方は今夜、わたくしと一緒に寝るんです!」
「ティナ、言いにくいんだけど……、その、当たってる!」
理性の限界を感じ、必死に叫ぶノイン。その訴えを聞いて酔いが覚めたのか、ティナはハッとしてホールドしていた腕を離した。
「へっ? ……ああその、なんというか、すみません……」
「はぁ……はぁ……、いやほんと、こちらこそだし気にしないで。それじゃ、僕は床で……」
「だめ」
「んぇっ?」
「だめ、と申したのですわ。先程はその、私のむむむ胸が当たっていたので離しましたけど、それとこれとは話が別。今宵はどうか、主人の傍に居てくださらない……?」
背中越しに聞こえた不安げな声を聞き、邪な考えは捨てこの少女と共に夜を越す決意をノインは固めた。
「わ、わかった。だから、そんな泣きそうな声出さないで?」
「泣きそうになどなってませんわ! いいからとっとと布団にくるまりなさい!」
「ふふっ、はいはい」
そして、2人は互いに背中を向け目を閉じる。
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それは数分だったか、数十分か、もしかしたら数十秒かもしれないが、しばしの沈黙ののち、最初に口を開いたのはティナだった。
「あの、まだ起きてます?」
「ん、大丈夫だよ。どうかした?」
「今日の……、いや、もう昨日でしょうか。夜にイグニスという大剣の男が話していた事を覚えていまして?」
イグニスの話というのは、彼がノインに対して、今後冒険者として戦っていく上で何かしら目標や理由を見つけろ、さもなくばティナに置いていかれるぞ。といった旨の脅しに見せた激励のことである。その時、ノインは答えを出せなかったのだ。
「むしろ、その事について少し考えてたところ」
「と、いうと?」
「元々無理なく生活できるだけの働きさえ出来てれば良かったんだ。僕らが出会った頃のティナの野望みたいなのも、半分冗談だと思ってたし。だから、僕と同じように生活に困って冒険者になろうとしたんだと思ってたよ」
「まあ、突拍子がない事を言っていたのは認めますわ……」
「でも、それもどうやら本気ってのがわかったし、目標のない僕と一緒に居ちゃ、いつかティナを死なせてしまうかもしれない。そう思ったらこのまま冒険者を続けるべきじゃないのかもってね」
ノインは背中を向けたまま、内なる思いを吐露した。それは、これまで蓄積されてきた不安や自責の念の塊だった。
「なんだ、そんなことでしたの」
「へっ?」
そんな声を上げるやいなや、ノインの視界が反転する。どうやらティナに肩を掴まれ振り返させられたらしい。
「目標など無くても大丈夫。そんなものなくたって、貴方は優秀な荷物持ちですわ。まあ、どうしてもというなら……、そうですわね、しばらくは私の為に戦いなさい。そうこうしているうちに、ノインなりの戦う理由が生まれるはずですわ」
「ティナの、為に……」
綺麗な青い瞳に見つめられ、反論するという選択肢すら出なかったノインは、観念したように目を閉じた。
「わかったよ。それじゃあこれからは、さしずめ護衛ってところかな」
「そこまで思い上がらないでほしいですわね」
微笑みを交わし、思いを新たに2人は4級冒険者としてのスタートを切った。
すうすうと行儀のよい寝息を立てるティナの傍で、冷静になったノインが悶々とした気分で一睡も出来なかったのは別のお話。
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