18. 酩酊
◆◆◆◆◆
家財も、領地も、家族すらも失った、没落貴族のお嬢様、ティナ。そんな彼女にほぼ強制的に荷物持ちを命じられ、共に冒険者として働く心優しき青年、ノイン。
普段は天真爛漫にノインを振り回すティナだったが、今は違った。
「単刀直入に申し上げますわ。今まで私が泊まっていた部屋を追い出されたので、しばらくの間ノインの部屋にお世話になってよろしくて……?」
申し訳なさと恥じらいが混ざった表情でしおらしそうに尋ねてくるティナ。
「ちょっちょっと、追い出されたって、どれだけお金使ってたのさ?」
そんな彼女に困惑しつつも、なんとか受け答えをするノイン。
「知らない間にお金が財布から消えてたんですの」
「そんなわけないだろ。ほんとは何に使ったのさ?」
「うっ、夕食の際、ちょっとした贅沢を繰り返してましたわ……」
「はぁ……、仕方ない、この時期夜は冷えるし、しばらくは僕の部屋で生活しても構わないよ」
「本当ですの? 感謝しますわ!」
ノインは呆れつつもその申し出を受けた。その答えを聞き、わかりやすくぱあぁっと表情を明るくさせ感謝を述べるティナ。かくして2人は共に夜を明かすことにしたのだった。
◆◆◆◆◆
現在、ノインたちが利用している宿は全体的に見ても安い方で、日々の報酬を少しづつ貯めていたノインからしてみれば2人分支払うことになっても大した出費にはならないのだが、ノインがその提案をしてみたところ、「そんな施しなど受けませんわ!」とのことで、ノインは思わず「部屋を借りるのはいいのか……」とツッコミそうになったがこらえ、ティナの荷物を自分の部屋に運び込む。
「ふうっ。これで全部かな」
「ええ、ノインの物が思ったより少なくて助かりましたわ」
「僕はスキルで色々仕舞っておけるからね」
元々が一人部屋ゆえ、この空間に2人入ると少々狭く感じるが、ノインの持つスキルによってそれは多少軽減されていた。
一通りの作業を終え、ベッドに腰を落とすティナ。
「そろそろ食事にしませんこと? 今日は色々な事が起こってお腹がペコペコですわ」
「ん、そうだね。それじゃあ昇格祝いに派手にやろうか」
◆◆◆◆◆
2人が宿屋を出る頃には辺りは暗く、道には静寂が広がっていたが、酒場に入ると、そこは仕事を終えた冒険者や各ギルドの職員で賑わっていた。
「「乾杯ッ!!」」
喧騒に揉まれながら店の端の方に座り、彼らは酒を酌み交わした。その際に帝都の特産牛の肉料理やダンジョンで獲れる魚の刺身など、庶民的な価値観を持つノインからしてみれば至高の食事であったが、対照的にティナは不服そうであった。
「ふむ、美味しいは美味しいのですけれど、なんか違いますわ」
「流石元お嬢様(自称)。舌が肥えてるのか……」
「そういうわけではないんですのよ。ただこう、ワンポイント足りないといいますか──」
「んー、じゃこれとか?」
そう言いノインが指差したのは〈G.ラットの尻尾揚げ〉だった。
「これ、もしかして例の魔物料理ですの?」
苦虫を噛み潰したように目を細めるティナ。そう、ここはダンジョン産業によって発展した都だ。ダンジョン周辺の魔物の素材も獲れるため、探せばあちこちに魔物料理はありふれている。
以前ノインは魔物やモンスターを食べる文化について苦言を呈していたが、今は酔いが回ってきているため正常な判断が出来ていないのである。
そしてそれはティナも例外ではないようで。
「おほほほ! やってやりますわ〜〜!!」
と、壊れたテンションで魔物の尻尾を食べていた。
「意外とイケますわね!」
などと絶賛するので、ノインもせっかくだからと口に放り込む。
「意外とイケる……!」
だそうだ。存外、魔物やモンスターは非常食になりうるという知見を得たのだった。
◆◆◆◆◆
夜の帝都は、昼間のそれとは違った表情を見せる。街灯に照らされた石畳の模様がはっきりとわかるほど人気の無くなった路地を歩き、覚束無い足取りで2人は目的地にたどり着く。
その目的地とは勿論、ノインの部屋である。扉を開けるやいなや、ティナは部屋に駆け込みベッドにダイブ。
「飲みすぎましたわ……。二度とお酒には手を出しませんわ……」
「こうなるって分かってたから止めたのに」
ベッドに飛び込んだ衝撃で部屋中に広がった花のようないい香りに鼻孔をくすぐられ、ノインはとあることに気が付く。
ノインが利用している宿は一人部屋ゆえ、スキルであれこれ収納出来るとはいえティナが入ると流石に狭苦しさがある。そして、先程の祝勝会によりティナは足元がふらつくほど酔っている。さらに、ベッドも無論1人用だ。2人で寝るとすれば必然的に密着することになる。
といった以上の思考を瞬時に処理し、一気に酔いが覚めたノインはこの状況は色々とまずいと直感し、ティナを早々に寝かしつけることにした。
「もう夜も遅いし、明日に備えて寝ようか! 従者らしく(?)僕は床で寝るから!」
焦りで本人すらも何を言っているのか分からなくなっていたが、このまま朝を迎えられればそれでいいと、勢いで押し切ろうとした。が。
「む、そうはいきませんわよ。確かに私は貴族ゆえ、床で寝るなんて考えられませんわ。しかし、今この部屋の主はノインですのよ。主を差し置いて私だけベッドで寝るなんて、それも許されざる事ですわ。ということで、」
そう言うとティナはノインを引っ張り上げ、その頭を枕に叩き付ける。と同時に自らも掛け布団に潜り込むと、
「こうすれば万事解決ですわ!」
と、ドヤ顔を決めていた。
「いやいや、何も解決してないからね!?」
◆◆◆◆◆
最後まで読んでいただきありがとうございます。
モチベ維持にもなるので感想や指摘など気軽にお願いします。




