17. 理由
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「魔族が元人間だって……!?」
「ああ。奴らは人型の魔物でも、亜人族でもない。正真正銘、元々は人として生活を営んでいた者だ」
「でも、どうして魔族に?」
「原理は魔物と同じさ。しきい値を越えて体内に瘴気が行き渡った時、魔族は生まれる」
各々から投げかけられる問いに対し、魔族に関する事実を述べていく騎士団長、クウィン。普段の稽古の際の朗らかな様子とは裏腹に、ノインに荘厳さを感じさせる。
「魔族の特徴として、角が挙げられる。あれは魔物でいう魔石と似たような性質で出来ている。つまりは魔素の塊だ」
唐突に、それまでは事務的に話していたクウィンが深刻そうな表情を見せた。
「とまあ、ここまでは調べればわかる事だが、問題は何故その魔族がノインを連れ去ろうとしたのか、だ。何か心当たりは無いか?」
自分に話が回ってくるとは思っていなかったのか、ノインは飲みかけていたコーヒーを慌てて置いた。
「ええっと、それが全く無くて。気が付かないうちに気に触るようなことしたのかも……?」
「ふっ、ノインに限ってそれはないだろう。きっと何かの間違いだろうさ」
クウィンはおもむろに立ち上がり、最後にノインたちに念押しした。
「さて、ここまで話しておいてなんだが、この事はくれぐれも内密にしてもらいたい。魔族の出現は宗教的に大きな意味を持つ場合が多く、もし外部に漏れれば信者による暴動が起きかねんからな」
「ああ、構わないぜ。その代わり、きちっと調査してくれよな」
小さく頷き、踵を返したクウィンは裏へと消えていった。
それを見送った後、今度は慌てた様子のギルドの職員が向かってくる。
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「ええと、クウィン騎士団長が話は片付いたと仰っていたので、当初の手続きを再開しますね。まず、ティナ様、並びにノイン=ヴァスト様。あなたたちは晴れて4級冒険者に昇格いたしました! こちらがその証明となるバッジです」
差し出された手には、綺麗な緑色のバッジが入った箱が。ノインはそれを襟元に付け、余韻に浸る。
「私達とお揃いだねっ!」
「おぉ、そういえば」
よく見ると、〈舞う楓〉の2人の胸元にも同じバッジが付けられている。
「最底辺からの脱却を果たしただけとはいえ、悪くない気分ですわね! 草摘み生活ともおさらばですわ〜!」
感慨深そうに拳を握るティナ。
「そして今回の昇格により、あなたたち2人にパーティネームをつけることが可能になりました。今日から1ヶ月の間に決めていただかなければ、ギルド側で勝手につけちゃうので注意してくださいね。それでは失礼します」
綺麗な角度でお辞儀をし、職員は戻っていった。完全に職員の姿が見えなくなってから、イグニスが口を開いた。
「なあ、お前ら2人はは何で戦ってんだ?」
「失われし一族の復興のため。土地も、家も、家族すら買い戻してやるんですわ!」
「ほお、面白い目標じゃねーか。それで、ノインは?」
「特に考えたこと無いな……。生活のため、とかですかね?」
ノインはティナに拾われ、冒険者となる以前は運搬ギルドで働いていた。そんなノインにとって、冒険者として戦う理由など生活費を稼ぐことぐらいであったのだ。そんな答えを聞き、イグニスはバツが悪そうに頭をがしがしと掻いた。
「いいか、先輩として1つ忠告してやる。これから先、必要なのは強い武器や知識なんかじゃない。目的を成し遂げようとする意志だ。それが無きゃ、いくら強くても3級、2級へと上がれなくなる。いや、上がろうとしなくなるんだ。せっかくパートナーがデカい目標掲げてんだ、お前も何かを成し遂げようとしてみるんだな」
そう言い残し、〈紅き狩人〉は出ていった。ノインが見送るように礼をしてから、アンリがノインの肩を叩く。
「あの人はああ言ってたけど、あんまり焦ることもないと思うよー。大事なのは、生きて帰ること、だからね」
「アンリさんの戦う理由、聞いてみてもいいですか?」
「そんな大層なものじゃないけど、妹と静かに暮らせる場所に家を建てることだよ。冒険者は危険な職業だけど、その分稼ぎいいし!」
「リアンさんと……」
力強いポーズをとったアンリだが、よく見るとその柔肌には小さな古傷が所々にあるのが分かった。それでも明るく振る舞う彼女の小さい体に秘める想いの大きさに、ノインは尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
「それじゃ、今日はお疲れ様でした。これからやる事は多いですが、お互い頑張りましょう」
それまで仏頂面だったリアンが微笑んだかと思うと、すぐに踵を返し〈舞う楓〉の2人は退出した。
「それじゃ、私達も帰りましょうか。……と、言いたいところなのですけれど」
「ん、どうかしたの?」
「実は少々お財布がピンチでして……。宿屋の店主に追い出されたので、今日から相部屋ですわ……」
普段の高飛車さはどこへやら。露骨に従者から目を逸らしながら、大層申し訳なさそうにお嬢様は宣言をした。
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