16. 魔族
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襲撃者は自らを魔族と名乗った。その呼び名はノインとティナは勿論、3級冒険者パーティである〈紅き狩人〉の3人ですら聞いた事のないものであった。
「魔族? なあ、知ってるかケルリア?」
「いいえ、私も初耳。タミトも知らなそうね。それじゃ、ベンゲルと言ったかしら、魔族とはなんなのか教えてくださる?」
「俺はおしゃべりをしに来たんじゃない。ノイン=ヴァストをこっちに渡せ。さもなくばァ!」
そう言い終わるのと同時に、鋭い爪を突き立てんと、ベンゲルはノインを支えるティナに襲いかかった。
しかし、その攻撃はアンリの持つ大槌によって防がれる。
「させないよ。リアン!」
「はいっ」
すかさず礫を魔術で飛ばし、姉の援護をするリアン。ベンデルはそれをかわし後退する。
「っつう〜! あいつ、すっごく力が強いよ!」
「あまり前に出すぎんじゃねえぞ。あいつは俺たちですら見たこともねえ敵だ。何をしてくるかわかるまでは様子を見るんだ」
はふはふと手に息をかけるアンリ。イレギュラーな事態ながら、イグニスは冷静に指示を出す。
「どうやら本当にノインを渡すつもりはなさそうだな。いいだろう、冥土の土産に魔族の力を見せてやる……!」
瞬間、跳躍し掌からノインらとは反対方向に火の魔術を爆ぜさせるベンデル。その逆噴射により爆発的な加速力を得た彼は、目にも止まらぬ速さでイグニスへ突っ込んで行った。
「うぐっ……うおぉ……っ!」
ベンデルの高速の蹴りになんとか反応し大剣で防いだイグニスだったが、ベンデルはその姿勢のまま豪炎を叩き付ける。
「しぶとい奴め。抵抗などしなければ楽に逝けたものを」
「悪いが、まだまだ伸びしろがあるもんでね。こんなところで終わるわけにゃいかねーんだよッ!」
灼かれる体に鞭を打ち、大剣を振るいベンデルを引き剥がす。
「チッ、仕方ない。今回は見逃してやるが、次に会う時は必ず貴様をいただく」
ノインを指差し、闇に消えていくベンデル。少しの間、静寂が辺りを支配したが、渦中の人物が口を開いた。
「なんだったんでしょうか、今のは……?」
その声にハッとし、この場の監督としての役目を思い出したイグニスが指揮を執る。
「さあな。とりあえず帝都に戻って報告だ。流石にさっきみたいなのが来るとは思えないが、一応気は抜くなよ」
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帰還への道中、タミトは1つの懸念について語った。
「さっきの魔族と名乗っていた人物だが、相当に魔術の扱いが上手い。火の魔術を推進力として利用するなんて思ってもみなかったぞ」
「そうですね。それに、触媒となる杖なども持っていませんでした。あのまま戦闘を続けていれば、不利だったのはこちらでしょう」
それに同意し、リアンが続ける。この2人は戦闘時、魔術を主に攻撃手段としている。それ故に思うところがあるのだろう。
「問題はノインですわ。あんな輩にみすみす捕まるなんてこと、許しませんわよ?」
「そりゃ捕まったら何されるか分からないし僕だって捕まりたくはないけどさ、どうして僕なんだろう?」
この場にいる全員が気になっている疑問の話題になり、各々思案するもそれらしい仮説が出てこない。
「あ、もしかしてスキルじゃない!? 腕のいい手品師を探してたりしてノインをスカウトに!」
「それはないな」
「それはないわね」
「それはないですね」
「ひどいっ!?」
そんなやりとりを交わし、一行はキルドニアに帰還した。
「ってなことがあったんだよ、なんか事情を知ってるやつはいねーのか?」
「うぅーん……。ちょっと待っててくださいね」
一連の出来事をギルドの職員に話したイグニス。魔族やら冒険者の1人が何故か狙われているやらという話を一気に聞かされ困惑した様子で裏に消えていった職員だったが、代わりに見知った顔の人物が現れた。
「事情は全て聞いたぞ。魔族を名乗る輩に君達が襲われたそうだな、よく無事で帰還した」
「クィンさん!」
その人物はクィン=シュナイヴ。帝都の騎士団の団長にして、謎多き剣の達人である。
「なんだ、この団長サマと知り合いだったのかよノイン?」
「はい、僕に剣を教えてくれたのはクィンさんなんですよ!」
「まじかよ!? あんたに弟子をとるなんて趣味があったとはな……、いや、そんな事よりも今はあのベンデルとかいう角野郎についてだ。なんか知ってることがあるんじゃないのか?」
クィンを睨みつけるイグニス。それでも彼女は普段の調子を崩さずに口を開いていく。
「魔族。本来ならば死ぬまでにその名を聞くことすら稀だが……、実際に君達は遭遇し、刃を交えたそうだからな。包み隠さず教えてやろう」
そこまで言い、クィンはコーヒーを啜る。そして、一息ついて目を細めた。
「魔物がどういった経緯で生まれるかは知っているな?」
「もちろんですわ。体内の瘴気の量がしきい値を超え、耐えきれなくなった時に生まれる」
「では、人の身でその現象が起こればどうなると思う?」
「ま、まさか……!」
クィン以外の全員が息を呑む。次に何を語るかは分かりきっていた。そして、彼女は凛とした表情のまま淡々と告げた。
「そのまさかだ。アレの正体は、魔物化した人間さ。瘴気を大量に取り込んだ人間の成れの果て。それが魔族だ」
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