13. 融合
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激闘から数日。ノインのパーティはイレギュラーな強敵を討伐したことによる報酬でしばらくは生活が安定するということと、先の戦いで負った傷を癒すため、休みが続いていた。
包帯も取れ、概ね完治したノインは、特別報酬で得た素材を手に──実際にはスキルで収納しているが──ある店へ向かう。
「こんにちはー!」
一通りの少ない、細い路地にぽつんと建っている、木造の店と石造りの工房が合わさって出来ている鍛冶屋〈ドニトス〉。初めて来た時とは違い、元気よく店の戸を開ける。
「あ、ノインくんじゃないですか〜。あ、もしかして折れちゃいました〜?」
のほほんとした口調でノインを迎えたのはトリーネ。この店を切り盛りしている獣人族の職人兼店主である。
「ああいや、そういうわけじゃなくて。今日はこれを持ってきたんです」
そう言うとノインはスキルを使用し、黒獅子の爪を1つ、取り出して見せた。
「全部で4つあります。これを加工して、武器を作って欲しいんです」
「ほぉ〜。どれどれ……」
トリーネは素材を見ながら、何かを考えている。加工することが可能か否かを判断しているのだろうか。
「ふむ。この素材ならきっといい武器が出来ると思います〜。それじゃあ、元々使ってた剣に素材を練り込む方法で作るので、一旦剣を預けてもらいます〜」
「預けるのは構わないんですけど、その間、僕は何を握れば……」
「心配しなくても、今日中に出来ると思うので、今夜にでも取りに来てくれれば大丈夫ですよぉ」
「えっ!?そんなに早くできるんですか!?どうして……?」
「そうだ、よかったら見ていきますか〜?」
「き、気になる……! 見学させていただきます!」
トリーネの提案に、目を輝かせながら頷く。
「それじゃあ、こちらへどうぞ〜」
手招きをしながら店の裏へと消えていくトリーネ。ノインも後に続いていく。
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予備の分厚い手袋と手持ちの溶接面をノインに持ってきたトリーネは、店番をしているときの普段着とは打って変わって、ほとんど肌を見せない作業着に身を包んでいた。
「それじゃあ、ノインくん、例のものをお願いします〜」
「はい、それじゃあ、よろしくお願いします!」
ノインは深々と頭を下げ、剣と爪を預ける。それを台に置きながら、トリーナは子供を叱る母のような顔で注意点を述べていく。
「それじゃ、今から剣の加工をしていきます。鍛治技術は基本的に門外不出。他の人に喋ったりしちゃ、めっ、ですからね〜!」
鼻にツンと指を当てられ、ノインは微笑しながらそれに了承した。
「準備も出来たことだし、始めていきますね〜」
ノインの返事を待たずに、トリーネは黒獅子の爪に槌を振り下ろしていく。打つ度に青い光の粒子が舞い、徐々に爪は赤みを帯び始める。
「(こういうのってある程度熱してから打つもんじゃないの!?)」
想像とはかけ離れた工程に目を疑いつつも、作業の邪魔にならないようにと、声をぐっと我慢するノイン。
キン、キンと、小気味のいい音を打ち鳴らしながら、トリーネは真っ赤になった爪の表面が粘性の液状になったことを確認すると、それを器に流し込む。そして再び槌で打ち、液化した部分を器へ……。
数十回程この作業を繰り返した頃には、残っている黒獅子の爪は極わずかとなり、液化した爪が流し込まれた器を炉へ移し、剣も同様に溶かし、炉から取り出した器に流し込んだ。
「もうすぐ終わりますよ〜」
「よく見ておきます!」
水を飲みながらトリーネは程なくして面を付け、作業に戻る。
炉に放置していた2つの素材はドロドロになっており、彼女はそれを長い棒を使って混ぜ合わせていく。棒で練っていく内、今度は段々と固形化し、形も元の剣に似通った物になっていった。
彼女は槌を持ち替え、形を整えるため最初よりも優しく叩いていく。その際にも槌は青い光を散らし、赤熱の合金は目に見えて黒く変色していた。
「はい、お疲れ様でした〜。後は完全に冷え切るまで放置して、ささっと研いだら終わりです〜」
その一言を合図に、ノインは深いため息をついた。
「……めちゃくちゃ速いじゃないですか! トリーネさん、どうやったんですか!?」
「ふふっ、着替えてきますから、ちょって待っててくださいね〜」
興奮のあまり前のめりになるノインを抑え、面を取るトリーナ。
実際、全ての作業はノインらが探索に出て帰ってくるよりも早く終了している。未だ作業場に残る熱気には、朗らかな彼女からは想像もつかない、確かな職人としての気迫が感じられた。
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「このやり方は、私だけが出来る方法なんですよ〜」
「つ、つまり?」
「この作業スピードの秘密。それはズバリ、スキルのおかげなんです〜」
研磨作業をしながら解説を交えるトリーネ。その間も作業には妥協が感じられない。
「私のスキルは〈記憶〉。本来なら覚えておきたいことや忘れたいことを自由に保存、削除できるスキルなんですけど、自分以外にも使えるようになったんですよ〜。具体的には、「〇回槌で打った」という記憶を素材にすり込むことで、実際には1回でも、数十回打ったことになるって具合ですね〜」
「もしかして、今も……?」
「その通りです〜。もちろん、回数が多すぎたら形が崩れたりするのでいい塩梅でやってますけどね〜」
打つ度に舞っていた光の粒子は、スキルによるものだったのだろう。そして、そんなスキルなのであればあの作業速度にも合点がいく。記憶のスキルについて考えていると、ノインの邪な思考が1つの考えを提示した。
「もしかしてそのスキル、人に使ったら洗脳とかも出来るってことですか?」
「出来ないこともないですけど、記憶をねつ造するのにも想像力が要りますし、そもそも洗脳したい相手もいないし、それに、そういう使い方をしてると、いつかその力に呑まれるんじゃないかって、そう思うんです」
一瞬、トリーネの表情が曇る。しかし、すぐに元の雰囲気に戻り、作業を続けた。
「でも、そんなスキルも使い方次第で色んなことに使えるんですよ〜。ノインくんのスキルがどんなものか知らないけど、きっと有用な使い道があるはずです〜」
「スキルの、使い方か……」
自分の手を見つめ、言葉を反芻するノイン。その間にトリーネは作業を終え、剣をノインへと渡してくる。
「ほいっ、完成です〜。名付けて「黒獅子の剣」ってところでしょうか〜」
「あの爪がこれに……!」
受け取ったその剣を店の照明に当ててみると、以前とは違い──否、形こそ以前の直剣と相違ないが──、刀身が綺麗な漆黒に染まっていた。まるであの黒い獅子のように。
「素材にした爪が黒かったからですね〜。まあ、武器として使う分には問題ないはずですよ〜。それに、もしかしたら元々の持ち主だったモンスターの特徴を引き継いでるかもしれません〜」
「お、おおぉ……!」
ノインは目を輝かせた。それはまるで新しい玩具を買ってもらった子供のようであった。
「余った素材に関してはこちらで保存しとくので、何かあったらまた来て下さいね〜」
「はい! またよろしくお願いします!」
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