10. 抵抗
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巨大な獅子のモンスターとの戦闘において、ノインには2つの誤算があった。
「くそっ、こいつの体、斬ろうとしても弾かれる!」
「私の剣も奥まで突き刺さりませんわ!」
1つは、そのモンスターが持つ表皮が硬く、ティナやノインの攻撃が通らないということ。
「やっぱり速いな……! だけどわかりやすい攻撃ばかりだ!」
そしてもう1つは、その巨躯に任せての単調な攻めばかりである為、瘴気に侵され向上した疾さであってもノインやティナの体を抉るには至らないことであった。
ただ、隙を見て攻撃を繰り返しても、獅子の体には傷一つつかない。膠着状態が続き、2人は息を整えようとモンスターから距離をとった。
「すぐには攻めてこないな。何かを警戒してるのか?」
「どちらにしろ好都合ですわ。なんとかしてダメージを与える方法を考えないと……」
「お2人サン! あいつの様子が変っス!」
少し離れた位置から戦闘を見守っていたベイトが異変に気付く。何かしらの警戒をしていると思われたモンスターは、腹部へと瘴気を収束させ、右腕が紫色に強く発光したかと思うと、虚空に向かって腕を勢いよく振り下ろした。
瞬間、獅子の爪から紫の衝撃波が発生、地面を這うように2人へと襲いかかる。
「まさか、モンスターが魔術を!? そんなの聞いたことないっスよ!」
予想外の攻撃に対応出来ず、衝撃波は2人に直撃。全身がズタズタに切り裂かれ、その傷口から鮮血が流れ出す。
「ぐぁ……っ! 勝てるのか……こんなバケモノに……!?」
「そんな考えは捨てなさい! いずれにしろ、勝たなければ3人仲良くこの者のディナーですわ!」
額から血を流しながら、従者へと喝を入れるティナ。
「そんなこと言ったって、攻撃が通じないんじゃどうしようも───」
「腹を狙うっス! 瘴気が集まるような場所は外気に触れやすくするために脆いつくりになってるはずっス!」
ベイトはあのモンスターが衝撃波を発生させる瞬間を深く観察していた。腹部へと集まっていく瘴気を見て、弱点がそこであると看破したのであろう。
しかし、それがわかったとて、簡単に狙わせてくれる相手ではない。攻撃は勢いを増し、獅子は鋭い爪と尖った牙でもって、我が敵を排除せんとしていた。その巨躯から繰り出される攻撃は当然、人の身では受けきることが難しかった。
「…………しまった!」
大量の出血と疲労により、ノインは攻撃を捌き損ね、手元にあった剣は大きく弾かれ、地面へと転がった。そして自身は木を背にして追い詰められてしまう。そこへ、ゆっくりと獅子が近付いてくる。
「離れなさい! ────きゃあ!」
ティナが駆け寄り、モンスターの注意を引こうとするも、後ろ足で軽くあしらわれてしまう。
遂に彼我の距離は間近になり、ノインの視界は巨大な怪物によって埋め尽くされる。
「こんなところで……死ぬわけには……っ!」
口を大きく開け、獅子はノインの身を噛み砕いた。
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まさに獅子の牙に体が穿たれようとしている最中、ノインは無意識にクィンとの会話を思い出していた。剣術のことや魔術の仕組みについてなど……。
その中で、自分の収納のスキルが戦闘に応用出来るかもしれないという話を思い出し、反芻する。
そして次の瞬間、彼は右手を前に突き出していた。獅子の口に手を入れ、スキルで木刀を発生させたのだ。木刀は獅子の上下の顎を突っ張り棒のように固定し、口が閉じれないようになっている。
何が起こったのか分からないというふうにモンスターは動きを止めた。その様子を見たノインはさらに、道中で倒したモンスターの魔石を取り出し、魔素を流し込んだ。
「おまけだっ!」
発火し始めたソレを獅子の口の中へと放り込む。すると、瘴気の塊である魔石は口内で爆ぜ、獅子は大きく仰け反り、仰向けになって痛みにもがき始める。爆発の衝撃により木刀は折れてしまったが、この上ないチャンスをノインは生み出した。
「ティナ、今だ!」
「え、ええ!」
一連の流れをぽかんとした様子で拱手傍観していたティナだったが、ノインの呼びかけにハッとなり、すぐさま走り出した。
「やああああっ!」
ティナは天高く跳躍し、自身の全体重を刺剣に乗せ獅子の腹部を刺し貫く。
落下の衝撃も加わった渾身の一撃により、刺剣はモンスターの肉の中へと吸い込まれてゆく。
瞬間、耳をつんざくような絶叫が周囲へ広がる。どうやらベイトの推測は正しかったようだ。モンスターの叫びと動きがいっそう激しくなり、突き刺さった刺剣はそのままにティナが振り落とされ、これまでの攻撃では見られなかった赤黒い血が地面を濡らしていく。
「やったか……!?」
もはや祈りにも近い呟き。だが、それを嘲笑うかのように獅子はゆっくりと立ち上がり、今度こそノインたちを葬り去らんと衝撃波を発生させた構えをとる。
「またあれを食らったらまずい!」
獅子は傷付いた腹部をかばうかのように、瘴気をゆっくりと取り込んでいる。その隙に何か手はないかと辺りを見回すノイン。しかしティナは先の一撃で力を使い果たしたのか、地面に横たわっている。ベイトは言うまでもなく非戦闘員である。
「くっ、これもダメか!」
獅子の口に放り込んだのと同じ要領で魔石を燃やし投擲するも、硬い外皮は健在のようで、まるで効果がない。
そうしている内にも獅子は瘴気を貯め続けていた。紫の粒子が右腕へと収束し、振り上げる。ノインにはもはや打つ手は無く、死の覚悟を決めた、その瞬間だった。
「よく持ち堪えたな。流石、私が見込んだだけはある。後は任せておけ」
聞き覚えのある声がしたかと思うと、獅子へ高速で接近していく装束をまとった人影が一つ。その動きは風のように速く、次の瞬間には振り下ろされようとしていた右腕が切断されていた。
「あの硬い体を、あんな一瞬で……!?」
絶叫する獅子を尻目に驚愕の声でノインが呟く。対峙したからこそわかる。あのモンスターの体はノイン達の攻撃では傷一つつけることが出来なかったのだ。
「ふむ……。どうやら急所は腹のようだな」
悪あがきに近いモンスターの攻撃をあしらいつつ、冷静に分析する装束の人物。背後に回り込み腹部を確認すると、突き刺さったままのティナの刺剣を発見。
「ちょうどいい、締めと行こうか!」
高らかに宣言すると、刺剣がより食い込むように持ち手を蹴り上げた。すると、刺剣は食い込むどころか勢い余って背中を貫通し、地面に突き刺さる。ぽっかりと空いた穴から大量の血が流れ、獅子の絶命は誰が見ても明らかだった。
「ふう……。皆、無事か?」
その問いかけを無視し、乱入者の姿をはっきりとその目に映すノイン。
「やっぱり貴方だったんですね、クィンさん!」
その人物はノインの師である達人、クィン=シュナイヴだった。
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