1. 邂逅
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草木が生い茂る森林。その静寂は1台の荷馬車の轟音により破られた。
「三級の魔物…っ、ここで出るなんて聞いてないって!」
御者の名はノイン=ヴァスト。運搬ギルドに所属し、普段は村から村への荷物を運んでいる齢にして18の青年である。その体格は歳不相応に少し頼りないが、故郷で学んだ馬術で生計を立てている。
最近その仕事ぶりが評価され、ギルドから帝都〈キルドニア〉への荷物を任されることになった…のはいいが、現在は魔物に追われている。
魔物というのは自然発生する瘴気によって動植物が変異した生物である。
魔物は基本的に凶暴であり、一般人が遭遇すれば命の保証はない。
ノインを追っているのは狼が魔物化したヴォルフだ。
彼は虚空から水の入った水筒を取り出し、それを飲み干す。
「このまま逃げて帝都まで行くにしてもまだ距離があるし…ナイフで応戦…無理だ、僕にゃできっこない!」
水筒を虚空へと戻し、思考を張り巡らせるが魔物に狙われたものにとって、それは無意味だ。やって来るのは等しく、死である。
そしていくら馬とて体力には限界がある。こうしている間にも、ゆっくりと、だが確実に彼我の距離は縮まっているのだ。
やがて、馬車の横にヴォルフが来たかと思うと、ノインの左腕に噛みつき、その勢いのまま馬から引きずり下ろした。
「ぐっ!」
床に叩きつけられ、苦悶の声をあげるノイン。体勢を崩したヴォルフであったが、すぐさま姿勢を直しノインに歩んでくる。
ノインは蛇に睨まれた蛙のように、近づいてくる敵に対し動くことが出来ない。
そしてけたたましい咆哮とともに、ヴォルフはノインに飛びかかる。
「あぁ、お父さんお母さん、今までありがとう…っ!」
プツッ――――と、そこでノインの意識は途切れた。
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時折背中に当たる石の感触に不快感を覚えながら、少しずつ意識を覚醒させてゆく。
「あら、ようやくお目覚めかしら?」
ぼやけた視界の中で、ノインは少し幼さが残った声を聞いていた。
段々と意識がはっきりしてゆき、自分が床に寝ていることに気付き、慌てて飛び起きる。
「魔物は!?」
辺りを見渡すと、金髪碧眼に水色のドレスを纏った少女と、左右に両断された魔物の骸が確認できた。少女はその腰に格好とは不似合いな刺剣を携えていたため、先程の状況では他にヴォルフを倒せた者はいないだろうと推測し、その少女に問いかける。
「もしかして、君がこいつを?」
「私が通りがかった時にはもうその状態でしたわよ?まあ、怪我人を放置するわけにもいかないので応急手当だけして貴方が起きるまで待つことにしてましたわ。」
ノインが気を失ってからどれだけ経ったのかはわからないが、空はまだ明るい。そして、彼の左腕にはしっかりと包帯が巻かれていた。
「わざわざありがとう。僕はノイン。君は?」
「私はティナと申しますわ。それに、礼には及びません。庶民を助けることが、貴族としての役目ですので。」
ノインは貴族、という単語に引っかかり、先程からの疑問を口にした。
「ティナは貴族のお嬢様なのか――――ですか?」
「貴族と言っても没落してましてよ。敬語も使っていただかなくて結構ですわ。」
長い金髪を靡かせながら、ところで、と彼女は続ける。
「ノインはどちらに向かう途中でしたの? もし帝都へ向かうのでしたら同行させてもらえないかしら?」
「まず馬や荷台の状態を確認しないといけないけど、その後でよかったら是非。」
そう言いながら荷馬車の状態を確認していくノイン。しばらくして、幸いにも荷馬車はあの襲撃の影響を大して受けていなかったことがわかり、ノインとティナは行動を共にすることにした。
帝都までの道中、二人はお互いのことを話し合った。
「辺境の故郷への仕送りのためにノインはこうして働いているのですわね。執事に欲しいくらいですわ。」
荷台の空いたスペースに上品に座っているティナが、冗談交じりに言った。
「はは、大した額は送れてないんだけどね……。 ティナはどうして帝都に?」
馬の手綱を引きながら、ノインは問いかける。
「私は没落した貴族。そして一族の再興が私の目的。そのためには冒険者として帝都で稼ぐのが1番手っ取り早いと考えたわけですの。」
「すごい目標だね。応援してるよ。」
ちなみに、ティナは元いた拠点から3日ほど歩いて食料も尽きかけていた頃、偶然ノインが倒れているのを発見したようだ。
それぞれのここまでの経緯についての話が落ち着いてきたところで、ティナが彼からもらった保存食を頬張りながら言う。
「……先程は魔物に襲われたようでしたけど、あれ以来1匹も見かけませんわね?」
「本来この辺りは魔物は出ないはずなんだ。全く、酷い目にあったよ……。」
魔物が発生する条件は、瘴気の量と濃度にある。自然発生すると言えど、この森は魔物が発生するには瘴気が薄いのだ。
夕暮れ時。荷台の心地よい揺れのせいか、ティナは少しうとうとしていたが、ノインの呼びかけによってその眠気はかき消された。
「ねえ、ティナ、見えてきたよ!」
「ん、ん……。あら、ようやく到着ですわね!」
帝都へと続く大きな門が見えてきた。一行は無事に帝都へとたどり着いたのだ。
「それじゃ、一族の再興っての、がんばってねー!」
「ええ、そちらも達者で!」
門での諸々の手続きを終えた後、2人は互いの健闘を祈り、別れた。
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その夜、帝都内、運搬ギルドの本部にて――――
「ノイン、貴様はクビだ!!」
「そ、そんな!」
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