漫画を描いていなくても
「……そうだ。鈴絵の一昨日完成した新作、読んでもいい?」
「……はい、ぜひ読んでください」
鈴絵からコピーを渡される。割と短め。
少女漫画みたいな絵柄だけど、いつも結構女の子たちがマニアックなことしてるタイプの漫画……のはずなのに、なんか恋愛してる⁈
いつもと少し違う作風なのかも、と思い、僕は読み進める。
でも、女の子が恋している要素は序盤だけで、すぐに元通りになった。
で、大体女の子たちが何か少し変わったことをやってみる話なんだけど、今回はボウリングだった。
わりかしマニアックではない方である。
「ふは」
しかも面白い。たしかに順調そうだ。
しかもキャラもいい。
「……おもしろいですか?」
「笑えるし、キャラは可愛いし、この作品いいな」
「……ありがとうございます」
鈴絵は嬉しそうに笑って、クッキーを二枚食べた。
だけど鈴絵は調子がいい時は三枚まとめて食べる。
「……もしかして、漫画にも取り入れ始めたようにさ」
「はい」
「なんか恋愛、はじめた?」
「う」
「あーと……」
「ふん」
「えーと、怒られた……?」
「いえ……ばかばかばかばかばかばかっ! ってその漫画の主人公に言わせたコマを先輩の服の中に入れたいです」
「ええ……」
「最近……思うんです。私は漫画をここで描くのが好きだったはずなのに、いつのまにか、それだけじゃやだになってたんです……」
「そうか。やはりお菓子も大事だもんな」
「先輩……顔にらくがきしていいですか? それとも察してます?」
「……察してます」
「なら、つ、続けますね」
「うん」
「漫画もいいけど……私、もうすこし、可愛くなりたいんです。だって、それでないと、先輩に、好きになってもらえないからです」
「……僕は、可愛いと思う。漫画描いてる時、そんな可愛い女の子、絶対いない」
「先輩じゃない感じなほめかたですね」
「まあ……でもそれでも、僕の作ったスタンプには敵わないだろうな。なんてったってJKに大人気だからな」
「……ふふ、そういう雑な照れ隠しがないと、やっぱり先輩じゃないですね」
「……付き合ってくれるとうれしいな」
「……先輩に、言われちゃいました。ごめんなさい」
「ええ、ごめんなさい⁈」
「このごめんなさいは、私から言わなくてごめんなさいです」
「なるほど」
「……手、繋いでくれますか?」
「うん。でもそしたら、お菓子も食べられないし、漫画も描けないよ」
「いいです。だって、もうこのいま描いてる、恋のお話は、ぼつですから」
そう笑う鈴絵は、漫画を描いてる途中じゃないのに、可愛いかったから。
僕は手を握りに行って、今度こそ、変な付け加えとかなしに、
「可愛いよ」
と言った。
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