王子はもう、負けている
本文には一部不快に受け止められる可能性の高い表現があります。 ご注意下さいませ。
もしダメな様でしたら、ブラウザバック等をして回避をして下さい。
あと、出オチものですので、消化試合感覚でお楽しみください。
登場人物の容姿は、作者の筆ではなんとも書き表せない程、皆様大変にキラッキラして御座いますので割愛させて頂きます。
ご了承下さい。
ここは貴族学院。
将来のオーバーカーン王国を担う若い才能を育てるため、貴族の子女は規定の年齢になったら、入学する義務がある。
そこでは現代でもしている分野の学習以外にも、領地経営のための勉強や魔法の勉強など、貴族なら覚えておきたい教養も教えている。
そして学院の一番の目的は、この国になぜか多数封印されている、強大な何者か達の存在を知ること。
知って、封印が解けた時に貴族として民を守る方法を、実際におこなえる様に教育すること。
そんな今の学院は王太子が通っている。
王家との繋がりを得たい貴族達によって、養子をとってでも学院へ送り込もうとしていて、学院の生徒数は恐ろしいほど多くなっている。
もちろん対策として既に王太子の婚約者がいるのだが、それでもなにかの拍子に婚約者の変更がされる可能性にかける貴族ばかり。
ご令嬢の事情は前述の通り。
では子息はと言えば、それはもう。
王太子の学友と言う肩書きと、上手く取り入る事ができれば側近の地位を得られる期待と。
学院は未曾有の陰謀渦巻く、伏魔殿と化していた。
そんな学院だが、表向きは平和だ。
いや、だった。
発端は、なんでもない日。
学生が食堂で昼食を摂り終わり、そのまま食休みとしてのんびりした時間が始まるはずだった、その時。
「カテイルミア・ミモティ! 貴様はよくもこんな所で、のほほんとしていられるな?」
食堂全体の空気を変える声が轟いた。
食堂内の全員の視線が、声の主へ注がれる。
「私が何度も何度も寝所で夜を共にしたユルーテに、様々な嫌がらせをしておいて!」
声の主はこのオーバーカーン王国の王太子、ボーンクラッド。
この者が、侍女から紅茶を手厚く給仕されているカテイルミアの、食休みに使っていた席へズカズカと歩み寄り、怒りしか読みとれない様子でアレである。
そのボーンクラッドの爆弾発言に、食堂全体が凍りついた。
そしてその凍りつかせた本人の顔をよく観察すると、瞳が正気を疑う色を……正確には目のハイライトが極端に薄かった。
だが、それを確認できる人物は正面にいるカルテイミアと呼ばれた公爵令嬢とその侍女しかおらず、誰も指摘できない状態である。
このボーンクラッドの腕にくっついている少女、ユルーテことユルティーナも唖然として言葉を失った。
婚約者を差し置いて、婚前に浮気して肉体関係になりましたと、いきなりカミングアウトをしくさりやがったので。
本当ならこのまま、ユルティーナが嫌がらせの被害者として可哀想な身分となり、その可哀想となった証拠を叩きつけて婚約破棄して、ユルティーナがボーンクラッドの婚約者におさまる流れだったのだ。
カテイルミアが扇子で口を隠しながら王太子を観察していると、その王太子の顔が赤くなる。
「なんだ、その目は!! お前を婚約破棄して貶める為の協力者が、こっちにはいるんだぞ!?
そしてその協力者や、ユルティーナに有利な証拠を作って、陛下にも伝えた!
陛下からの許可はまだだが、絶対に婚約を破棄できる状態なんだぞ!?」
貶める。 協力者。 証拠を作る。
この3つの言葉で正気に戻り、ざわつきだす食堂。
そんな変化に気付いたユルティーナは辺りを見回すが、食堂の誰も視線を合わせてくれない。
例外は、無表情のまま殺気さえ感じる視線を飛ばしてくる、カテイルミアの侍女くらいだろうか。
焦るユルティーナだが、この状況はまだましな方だろう。
だって――――
「これ以上、私自身の側近達と穴兄弟でいたくないのだ! ユルティーナは私一人のモノだっ!!」
さらなる爆弾が今、投下されたのだから。
この爆弾が爆発して、場にいたご令嬢方のほとんどから、黄色い悲鳴が上がる。
と同時に、極めて低い温度の視線が飛ぶ。
中々器用とは思うが、両方とも本音なのだろう。
ちなみにご令嬢方の侍女達は黄色い声を必死にこらえ、冷たい視線だけ向けた。
ついでに子息方やその侍従達も、一部を除いて冷たい視線がビームとなった。
なにせ特大のスキャンダルと、情事に爛れた痴態のカミングアウトとが絡み合う、十代の若者達には、まだ強すぎる刺激だ。
ユルティーナは居心地を悪そうにしているが、当事者である。 ここから逃げてしまう訳にはいかない。
逃げたら何を言われるやら。 何をされるのやら。
ユルティーナの口車とカラダを使って、苦労してきた事が無駄になって破滅するなど、認められる展開ではない。
なので何と言われようと、冷たい視線に刺されようと、羞恥に曝されようと、顔が赤くなろうと、耐えて王太子に侍るしかない。
ユルティーナが最後に、ボーンクラッドの婚約者となれれば勝ちなのだから。
だが、ユルティーナがどうなろうと、それまでの爆弾なんか比較にならない爆弾が――――
「他にもユルティーナが市井の男や、この学院の教師と関係があろうと、最後は私の所へ戻ってくるだろう。
これは王家の影を使って調べた結果だ。
そして今は目立っていないが、胎の仔もふくめて、ユルティーナの全てを私は愛しているっ!!」
――――まだあったのだ。
~~~~~~
場はもう、しっちゃかめっちゃか。
学院なんかやっている場合ではなく、そのまま一週間の学院閉鎖となった。
王太子の暴走は、すぐさま診察・分析された。
その結果、王太子は判断能力の欠如が認められた。
具体的に言えば、思ったままの言葉が口から出てしまう状態。
おそらく“あの日”の昼食に、そう言った薬が盛られていたのだろう。
それだけでなく、その薬の効果を高める魔法も誰かからかけられた痕跡もあった。
それはそれで、王家の者に許可なく薬を盛った罪なのだが、状況が状況。
むしろ王太子のご乱心とした方が、丸く収まってしまうので目を瞑るしかない。
なにせこれは、貴族から王家への無言の忠告なのだ。
将来、こんな恥しかない人生を送っているのを、王にするのか? と。
あんなユルティーナなんて女性の毒牙にかかった王太子へ、なにもしなかった王家への無言の抗議でもあるのだ。
なのに王家側が薬を盛られた被害者と言う事にすれば、どうなるか?
あえて言う必要は無いだろう。
~~~~~~
「あの協力者も含めたバカ王子達は、局地的な流行り病で亡くなられたと、王家から発表されましたが……」
学院の女子寮。 その中でも一番良い部屋で、カテイルミアはお付きの侍女とお茶をしていた。
普通、主人と侍女が同じテーブルを囲むなんて、非常識極まりない。
だがプライベートでそれが許されているのならば、このふたりの間には相応の繋がりがあるのだろう。
閉鎖された一週間はとうに過ぎて、あれからはもう1ヶ月は経っている。
そこでつい最近の話題を侍女が持ち出したが、カテイルミアはそんな話に毛ほども動揺が見られなかった。
「実際は違うわよ」
紅茶カップをソーサーにゆっくりと下ろし、ドライフルーツ入りクッキーをつまむカテイルミア。
「王家や貴族名鑑から抹消。
その上で国内各地の封印するしかない強大な魔物達への、食べられても惜しくない、封印補強に使う生け贄を用意する装置になったの」
今まで王子、王太子の座にあぐらをかいて、私や貴女を含めた周囲に横暴を働いて、迷惑をかけてきた罰よ。
追加でそう、こっそり呟くカテイルミアの声にお菓子へ伸ばす手の動きが止まり、紅茶の代わりに息を飲む侍女。
「場所は城や王宮から少し離れた場所。 母体が少なくては生け贄不足の不安があるし、まずは数を殖やす所から飼育を始めているそうよ」
陛下から直接聴いた話よ。 そう〆るカテイルミアの顔は平常で、そこに思う所は無いようだ。
更に、私の大切な友達がずいぶん減ってしまったわ……なんてぼやくカテイルミアを見ても、侍女は少し目を細めるだけ。
……いや、チーズスコーンをボリッと齧った。
「それよりこっちの将来よね。 家はお兄様が継ぐから良いとして、あんな王子の婚約者だった経歴から、貰い手が現れると思えないわ……」
そこでようやく憂い顔。
同時に紅茶を飲み干したのか、カップを傾け回して、内側に残る滴を集めている。
カテイルミアが感情らしい感情を見せたのがこれである事に、侍女の目が死にはじめる。
同時にプレッツェルを、おちょぼ口で高速ポリポリする侍女。
それを察したのか、カテイルミアの目が少し険しさを見せ、集めた滴を飲み干してから侍女を観察しはじめた。
しばらくカテイルミアが観察していると、侍女が僅かな時間瞑目し、深呼吸ひとつを行って、くわっと目を見開いた。
「お嬢様は、ワタシが貰い受けます!」
こんな告白を受けた側であるカテイルミアは、チョコプレッツェルのチョコ部分を舐め回すのをすこし止めてから。
「あら、ずいぶん大きく出たわね?」
挑発するような蠱惑的な顔で、艶然とした仕種で艶やかに笑い、侍女を眺める。
それはまるで、いつまでも煮え切らないヘタレを、なじっている様にも見える。
ついでにベタベタと口の周りについたチョコを、自力で舐めとる仕種が肉食獣にも見える。
「そりゃあ出ますよ。 1ヶ月前にもやったお嬢様の得意技をワタシは今、掛けられてしまったのですから」
「1ヶ月前? 私は何かしたかしら?」
ケーキと一緒にシラを切るカテイルミアと、そんな様子を見て顔が赤くなる侍女。
誤魔化しのつもりか、ひと切れ分のオレンジシフォンケーキを乱暴に口へ放り込み、淹れ直したレモンティーで胃へ流す。
「自白剤と、その効果を高める補助魔法。 両方ともお嬢様の仕業じゃないですかぁ!」
なんだかモゾモゾと身動ぎし出した侍女に、いまだ艶やかな笑顔のままでいるカテイルミアが、チョコが無くなったチョコプレッツェルを、雑にポキポキと食べる。
「知らないわね」
自分で紅茶を淹れ直し、しれ~っとお茶をすするカテイルミアを見て、侍女はもう言葉でどうにかなる状況ではないと判断した。
「分かりました、分かりました! そうまで惚けるのでしたら、実力行使させて頂きますっ!」
侍女はレモンティーを最後にひと煽りして立ち上がり、カテイルミアへ詰め寄った。
唐突な百合展開。
食べまくったお菓子の分のカロリーは、運動して消費しないとね(震え声)
なお、現実の自白剤とは効能が違う可能性があります。
鵜呑みになさいませんよう。
多分現実の自白剤は、服用者は完全にぼんやりした状態で、訥々としゃべる感じだったはずなので(これも記憶違いの可能性があり)
いやまあ、なんでこう言った王子って、断罪されなきゃならんかっつーとですね。
まずは婚約者がいるのに、他の相手に手を出す不貞行為。
次に婚約を許可・取り消しに出来る権利を持つ、上司(親)を無視して勝手に婚約破棄をする。
これは上司(王)の権利を勝手に使う、権力の不正利用。
最悪、まだなのに自分が王だと、王の権利・権力を踏みにじって馬鹿にする行為。 王政だとかなりやベー。
日本で言えば、江戸時代に徳川家の葵の御紋を勝手に使うのが近い、かな?
実際に王太子が「未来の王」とか言いながら、王しか使えない(使ってはいけない)権利を使ったなら、王を居ないものとして(玉座を奪う気で)いる部分も問題。
王座を奪う=国家を脅かす=国家転覆罪。 又は国家騒乱罪(内乱罪)かな?
調べて、隣国との国家間でない“個人的な”協定とか後ろ盾とかあったら。
それも当人と、隣国とだけが得するようなのだったら、外患誘致罪とかも未遂罪含めてあり得る。
あとは証拠・証言の捏造は言うまでもない。
そんなのを国の為に国主が国策として行うでなく、王子ごときが極めて個人の事情で行う。
そんなのが国の代表なんて認められないですので。
認めちゃったら、国の代表の血筋がそんな行いは合法だと、悪夢みたいな法が出来るわけで。
他にも心情面とかも。
ハニトラに引っ掛かった上で、それでも尚。 なんて為政者、国を導く者として不安しかねえのを、国主にしたくねえ。
穴兄弟がいるなら、そんなユルティーナが子供を産んでも、それが王家の血をちゃんと引いているか分からない。
王家を乗っ取られる危険ってやつ。
それ以外にも、色んなのと“繋がっている”ユルティーナがなにやら手引きして、王家や国が混乱する危機になるかもしれん危険性。
ユルティーナの犯罪は、前述の内乱罪なんかの幇助。
王太子に嘘の被害報告だのなんだのをして、カテイルミアへ被害を与えようと唆した、詐欺罪。
ついでに公爵家のカテイルミアを軽く見た、不敬罪。
証拠・証言の捏造に関わったユルティーナボーイズ・ガールズも、自発的に協力したならそれ相応の罰(死罪)として、装置の仲間入り。
無関係と認められた方々は、地獄回避おめでとうございます。
でも恋人だの婚約者だの配偶者だのがおられましたら、そちらから報復されて下さいな。
そうそう。 連座制で罰そうとすれば、王家にまで適用せねばならなくなるので、そこは適用外となったそうな。
~~~~~~
蛇足
カテイルミア・ミモティ
公爵悪役令嬢。
身持ちが固い。
ユルティーナ・オンマータ
男爵“養子”令嬢。
緩いお○。
チョロい王太子と出会い、王太子妃……未来の王妃を夢見たのが運の尽き。
ボーンクラッド・オーバーカーン
王太子。
ボンクラでおバカ。
経験豊富過ぎるユルティーナの、手の平の上でコロコロする技術に「おもしれー女」しちまったおバカ。
カテイルミアの侍女
当初の予定に無かった。
なぜ王太子が爆走したのか。 ネタバラシや顛末の聞き役だけだった。
のに、どうしてこうなった……。
魔法併用の強力な自白剤で、変な事を侍女にしゃべらせたら面白そう。
なんて思ったのが悪かったのか?(自問自答)
お菓子
プ○ッツや○ッキーは、プレッツェルが何かを分かり易くするためにそえたルビであって、それその物ではないとご理解下さい。
メリバ要素
飼育の名前の通り。
魔法は封印され、餌に自我を薄めて動物の本能を強めるお薬を混ぜられ、家畜として扱われる。
でも……。
やったねボーンクラッド君! 好きな子(達)と死ぬまで一緒に暮らせるよ!
…………これがざまぁ要素と言えるかは微妙だけど。
まあ、罰におびえ、下される罰を恐れ、人格を捨てさせられる恐怖に絶望し。
そんなのを妄想すれば、十分ざまぁに該当……する…………のかなぁ。