「2ー1 久我 夢音(くが ろまね)」
【前回のあらすじ】
自分を異世界の勇者だったと思い込んでいる老人「雷門 翔人」(70歳)。
彼は介護施設に現れた暴漢が持っていた名刺を手掛かりに《GUILD》と呼ばれる店を目指し、タクシーを拾う。
翔人は17歳の頃に雷に打たれてモンスターと魔法の異世界「ライトイニング」へと転移したことを明かし、そこで待ち受けた大型モンスター《守護機神タロス》に襲われた際、彼の額に二つの石がめり込んで鬼の角のようになったことをタクシーの運転手に語った。
しかしその語りから翔人はタクシーの運転手に完全に不審者として扱われ、目的地に到着するや否や、厄介払いのように降ろされてしまった。
そして待ち受けた念願の《GUILD》だったが、そこは翔人が思い浮かべる異世界の冒険者ギルドとは程遠い、ケバケバしいネオン看板で客を出迎えるガールズバー……いわゆる“オトナのお店”であった……
【登場人物紹介】
・雷門 翔人[70歳]《実世界》
■装備■
頭:なし
体:介護用病衣
手:スタンガン(250万ボルト)
足:クロックス
アクセサリ:湿布
ロクに学校にもいかずにダラダラとゲームやネットに明け暮れる日々を送っていたが、17歳の頃にネット通販で購入したPCゲームをコンビニで受け取る際、雷に打たれて「異世界ライトイニング」へと転移し、そこでエルフの神官の「パメラ」と露出過多な女騎士「ロゼ」と出会い、大きく運命を変えていった……と語っているが、その真意は定かではない。
現在は脳に疾患を抱えて認知症を患い、手足を自由に動かすコトすらできなかったが……?
好きな食べ物はカレーうどんとナポリタン。
《ガールズバー GUILD》はダンサーやショーガールによるパフォーマンスを売りにしているバーである。
特にハイレベルなクオリティのポールダンスには定評があり、ネットチャンネル等のメディアでも度々取り上げられているほどの人気を誇っていた。
「お疲れぇ……」
「久我ちゃん……大丈夫? 」
久我夢音は《GUILD》のポールダンサーの一人だ。
ステージでの演技を終え、舞台裏へ捌けて楽屋へと戻る途中、同僚のダンサーが彼女の青ざめた顔を見て心配しながら声を掛けた。
「ステージでミスっちゃった……」
「なにやったの? 」
「また……尻から落っこちちゃって……」
「そ……そう……気をつけようね……」
夢音は先ほどのステージで、ポールに掴まって逆立ちのような格好になる際に手を滑らせて落下、受け身をとろうと身体をクネらせたが間に合わず、見事に尻から着地。
やっちまったぁ~……と顔を赤く染めるも、観客はシラけるどころか大ウケ。実を言えばこういった失敗を夢音は頻繁にやらかしており、むしろそれを楽しみにして来店する客もいるほどである。
「アタシ……ホントはしっかりカッチョよく演技したいのに……」
自分の理想とは裏腹に、笑わせ要因としての地位を確立してしまって図らずも人気者になってしまった夢音。
一部の同僚ダンサーの中には、そんな夢音のことを良く思っていないアンチの存在もあり、彼女に意地悪なちょっかいを出すことも多かった。
「ウソ……アタシの服……どこに? 」
今夜もご多分に漏れず、夢音はロッカーにしまったハズの私服をアンチの同僚に隠されてしまったらしい。
「どうしよう……ステージ衣装のままじゃ家に帰れないよう……」
ダンサー衣装は肌の露出が多く、ほとんど下着に近いような代物。このまま外を出歩くのは裸でうろつくも同然。
それに見かねた同僚から全身を覆えるロングコートを差し出され、夢音はひとまずそれを借り、衣装の上から羽織ることにした。
「今日もさんざんだったなぁ……好きでやってるワケじゃないのに……」
夢音は自分の災難を憂いながら、バーの屋上へと一人で赴き、夜風に当たる。そして薄汚れた木箱を椅子代わりにして腰掛け、ポケットからスマートフォンを取り出した。
(アタシの心の栄養はこれだけだわ)
夢音が手慣れた手つきでタッチ操作してゲームアプリを起動させると、液晶画面に中世ヨーロッパ風の世界観が描かれたゲーム画面が映し出されている。
「キャンペーン終わる前に、コンプしときたい……」
彼女が揚々と楽しんでいるのは、スマートフォンアプリで楽しめる大人気ゲーム《ドラゴンキングファンタジー》通称“ドラキン”である。
将棋とRPGを組み合わせた全く新しいゲームで、対局で勝ち進めるほど稀少な武器や防具を手に入れることができ、それらをアバター(ゲーム内での自分の分身)に装備させて、プレイヤー同士で競い合うことで人気を博している。
(2六歩……これはBP稼ぎの冷やかしじゃないね。腕が鳴るね~)
夢音は毎日のようにこのゲームにのめり込み、今や彼女のアカウント名「ロマネスク」はドラキンプレイヤーの界隈では知らぬ者がいないほどの強者となっていた。
(オラオラオラ! 甘い甘い! その手は読んでるよ~! )
今日も夢音はオンライン上のプレイヤー同士での対戦で圧倒し、日頃の鬱憤を晴らすかのように圧倒的強さを見せしめた。
「わっしゃあ! ロマネちゃん絶好調ォ! 」
ショーで失敗してしまった時、盛り上がらなかった時、先輩ダンサーにいじめられた時、夢音はこうしてストレスを発散し続けて強かに夜の世界を生き抜いていた。
(これこれ! アタシが気持ち良くいられる場所! ドラキンは心のビタミンCよ! C! )
夢音はドラキンをプレイしている時、その時だけはズタズタにされたメンタルや、将来の不安といったネガティブな感情を忘れることが出来た。
このゲームの世界でなら一番になれる! 最強でいられる! 彼女にとって、ドラキンをプレイすることは異なる次元の世界に飛び込んで、自分のことをひたすら愛でる為の現実逃避と言えた。
しかし、逃避はあくまでも一時的なモノ。ちょっとしたキッカケで、その異世界旅行は儚く中断されるのであった。
「おうロマネちゃん、こんなとこにいたか」
「え……うそ……」
やだ……また来ちゃったの? 突如 夢音の心の療養を強制中断させたその男の声えを聞いた時、彼女は心の中で16ビートが刻めるほどに激しい舌打ちする。
「俺のことわかる? 」
「え、ええ。まぁ……鈴本……さん? だよね」
「お、うれしいね! 覚えててくれたんだ」
「はは……」
そりゃ、店で他の客と喧嘩して、相手を半殺しにするような奴の名前なんて嫌でも覚えるって! と夢音は心の中でボヤいた。
「さっきのショー、最高だったよォ……セクシーでアクロバティックで……そしてメチャ笑えてな……フフッ……」
「そ……そうなんだ。ありがとう……」
この世界ではよくあるコトだ。
彼女に一方的に熱烈な好意を寄せ続け、しょっちゅう付きまとってくる無頼な輩……その鈴本がが突然屋上にまでやってきたのだ。
「ごご、ごめん……今休憩中なんだ……悪いけど一人にしてくれると嬉しい……んだけど? 」
自分に勇気があれば悪態の一つや二つ吐き出してやりたかったところだったが、気の弱い彼女にそんなことができるはずもなく、やんわりと鈴本を突き放そうとした。本来なら女性スタッフを守る為の黒服につき出せばいいところだが、この男に関しては事情が違う。
鈴本は《ORK》と呼ばれる組織の人間だ。
《ORK》とは、危険薬物の流通、売買。裏の世界への人材の斡旋。非合法な売春サービス、恐喝、恫喝……数え上げたらキリが無いほどの違法ビジネスを生業とした組織だ。
夢音はいやが上にもそういった裏社会の情報が耳に入りやすい夜の仕事柄、《ORK》のことは客や同僚からよく聞かされている。
口を揃えて忠告される決まり文句は『《ORK》の人間と関わるな』だ。
「つれないこと言わないでくれよなロマネちゃん。なぁ、仕事終わったら一緒に飯でもどう? 」
「いや……その、アタシまだ店で色々とやることがあって……まだまだ終わりそうにないから……」
夢音は立ち上がって《ORK》の鈴本を振り切ろうとしたが、そうやすやすと通してくれるハズもない。壁のような身体で立ちはだかって彼女のロングコートの襟をめくった。
「ちょっ……やめて! 」
夢音は鈴本の手を払い落として後ずさった。彼女のロングコートの下は、ショーで使う衣装を着たままになっている。情欲を煽ることに特価したようなデザインで、下着姿とほとんど変わらない。
「いいじゃねえか、さっきステージでは堂々と見せてたじゃねーか」
「仕事とプライベートは別だから! プロボクサーの人だってリングの上以外でパンツ一丁を晒すのは嫌なハズだよ……多分」
夢音はやや語気を強めて鈴本を拒絶した。その態度が少しだけ癪に障ったのか、眉間にシワを寄せ、目を細めて口を開いた。
「ふーん、それじゃあ“仕事”ならいいんだな? 」
軽快な口調を一転させ、さきほどまでギリギリに感じ取れる良心すら捨て去った口調だった。夢音は自分の鼓動が高鳴っていることをハッキリ感じ取った。
「ほれよ」
鈴本は突然、ジーンズのポケットから財布を取り出し、そこから数枚札を抜き取って夢音の足下に放り投げる。ざっと目視して20万円はあった。
「なに……これ? 」
「だから仕事だよ、仕事」
「え? 」
「わかんねぇかな……お前は今から客である俺に対し、ショーを見せるんだよ。それもただのショーじゃない、一枚一枚着てるモンはぎ取ってツルツルのスッポンポンで踊るんだ」
「そんな! 嫌だよ! 」
夢音は鈴本の下卑た要求を突っぱねてきびすを返し、この場から逃げようとする。
「いいのか? ロマネ。俺はこの店の従業員の住所……全部知ってるんだぞ? 」
「……………」
その言葉が何を意味するのかなんて誰でもわかる。つまりここで夢音が鈴本の要求を突っぱねたとなれば、同僚や上司に圧力をかける。という脅しだ。
一介のチンピラ程度の人間であれば、そんな言葉は単なる“脅かし”に過ぎないが、《ORK》は別だ。彼らは必ず“やると言ったらやる”。
「ほら、さっさとやれよ。金が足りないってんならまだまだあるからな。ほら」
「う……」
悔しさと怒りで夢音は涙目になりながら、夜空を仰ぎ見た。屋上に設置されている電光看板に繋がれたケーブルが縦横無尽に張り巡らされ、その奥に見える満月があたかも蜘蛛の巣に捕らわれているかのように寂しく見えた。
「とりあえずコート脱ごうぜロマネちゃん。なんなら手伝ってやろうか? 」
「やめてよ……」
夢音は自分の運命を呪った。ここで拒めばもっと酷い目に遭うことは間違いない。かといって言われた通りにすれば鈴本の言いなりとなって今後の保証は一切ない。
ああ……こんな時ゲームだったら伝説の勇者様が助けてくれるんだろうか? でも現実にはそんなコトはない。いつだって弱き者に付きまとうのは“傍観”の二文字だけだ。
「や……やればいいんでしょ……ズルいよ、お店のみんなを巻き込むなんて……こんなやり方ってないよ……」
「そうそう、それでいいよロマネちゃん! それでいい。これが俺たち《ORK》のやり方だ、そろそろ慣れるといい」
鈴本は品性の欠片も感じさせない笑顔でロマネの覚悟を歓迎した。
「くッ……」
そして夢音が観念してコートのボタンを外して脱ぎ捨てようとしたその時だった。
「お前……《オーク》なのか」
夢音でも鈴本でもない“他の誰かの声が、ハッキリと屋上の空気を振るわせた。
「誰だ? 」
鈴本がそういって声の方へと首を動かすと、夢音もそれにつられるように視線を動かす。そして我が目を疑うことになる。
(え、なに? なんなの? )
そこには病院から抜け出してきたかのような格好の老人が一人立っていたからだ。
「お前……《オーク》なんだな? 」
「ジ……ジジイ……? 」
裏社会に生きる鈴本でさえ、闇より現れた謎の老人の姿には驚きを隠せなかった。
夜の繁華街にはあまりにもミスマッチな身なりに、亡霊のように華奢な身体つき、そして猛禽類を思わせる鋭い眼光はあたかも“死神”を連想させた。
「お……おいおい……じいさんよ、公民館で将棋でも差しにきたのか? それならあいにく場所違いだ。回れ右してとっとと失せな」
鈴本は一瞬あっけにとられたものの、自分のペースで老人を茶化して追っ払おうとする。しかし老人は一切動こうとはしなかった。
「お前……《オーク》なんだよな? 」
老人は悪霊に取り憑かれたかのように、同じ質問を鈴本に繰り返す。
「……しつけえジジイだな……せっかく手荒なコトはしねえでおこうと思ってたのによ」
鈴本は立ち上がって老人に歩み寄る。実力行使に出るつもりだ。
「やめてよ! 相手はおじいちゃんだよ!? 」
「黙れ淫売。俺たち《ORK》は相手が誰であろうと、なめられっぱなしじゃいられねえんだよ」
夢音の制止も耳に入らず、鈴本は老人の胸元に手を掛ける。
「やはりお前、《オーク》なんだな! 」
老人は一言そう呟きその直後、腰に差し込んで隠し持っていた警棒型スタンガンを取り出し、一気に鈴本の胸に突き立てようとした!
「あぶねぇッ! 」
老人の攻撃は、見た目からは想像も出来ないほどのスピードで繰り出されたものの、鈴本は身体を捻らせ、その電撃を間一髪で回避していた。
(え、なに? 何が起きてるの? )
夢音は予想外の展開に何をしていいのか分からず、ただひたすらに老人と鈴本の姿を交互に目で追うことしか出来ずにいた。
「まさか湿布くせえジジイがそんな厄介なモン持ってるとは思わなかったわ」
「よく避けたな。鈍重な《オーク》にしてはいい瞬発力してるぜ」
「クソむかつくジジイだ。分かってるのか? そいう物を取り出しちまったら後には引けねえってことをよ」
鈴本は屋上の隅に捨て置かれた金属の棒を手に取り構えた。その長さは2mはあった。
「それは! ちょ、待って! 」
それは夢音達がポールダンスで使う鉄棒、すなわち“ポール”だった。劣化して使わなくなった物をここに放置してあったのだ。
「そのビリビリさえなけりゃあよ! 」
鈴本は重いポールを軽々と横になぎ払った。金属棒の空洞に空気が通り抜け「ブォン! 」と管楽器を思わせる音が鳴る。
「オラァ! 」
その攻撃を避けきれず、老人はスタンガンを盾代わりにして防御を試みた。
「うっ! 」
直撃こそしなかったものの、スタンガンは弾かれて手から放り出され、カラカラと地面をスライドしながら無情にも離れていく。
「残念だったなジジイ。もう得物はなくなっちまったぜ? 」
そういって鈴本がポールの先を突きつけて威圧するも、老人は一切動揺せず……
「フ……元々あれは“装置”の一つに過ぎない、お前はまだ《雷刃鬼》と呼ばれた俺の本質を理解してないみてえだな」
「はぁ? わけわからんこといいやがって……」
「遠慮しないでかかってこいザコオーク。お前ごときは、左手一本で十分だ」
老人は不敵な笑みを浮かべながら手招きし、鈴本を挑発する。
「そうかよ……」
鈴本は拳に血管が浮き出るほどの力でポールを強く握りしめた。もはや制御不能だ。
「やめて! 」
夢音の声などもう耳に入らない。鈴本はポールを肩に乗せるような構えを取った。
「念仏でも唱えなジジイ! 」
老人は一切動こうとはしない、それどころか……
「我が身に宿りし雷電の帯よ! 天空よりその稲光を引き寄せたまえ! 」
と、ささやくように奇妙な呪文を口走る。それは念仏とはもちろん違う。
「……ふざけやがって! 」
木こりが斧で薪を割るかのような勢いで、鈴本はポールを大きく真上に振り上げた。
「このクソ漏らしジジイ! 」
このまま硬質なポールが老人の額にめり込んでしまうのか? しかし狂気の所行が繰り広げられる寸前……
「落撃せよ! 雷刃技・電光撃!!」
喉が張り裂けんばかりに叫ばれた老人の声が響きわたり、事態は一転する。
『バチィッ!! 』
一瞬だけ、ほんの一瞬だけ。空気が弾けるような炸裂音と共に、暗い屋上を照らす眩い閃光が夢音達の顔を照らし、やがて巨大な箱に閉じこめられたかのような静寂に包まれた。
「え……な……なに? 」
思わず目を閉じてしまっていた夢音は、鈴本達に何が起こったのかを把握すべく、ゆっくりと瞼を開いた。
「……え……ええッ!? 」
夢音の視界に入ったもの。それはピクピクと身体を痙攣させながら仰向けに倒れている鈴本。そしてそこから少し離れたところで地面に左拳を突き立てている老人の姿。
「だから言ったろ? 俺は雷の刀を持っていたから《雷刃鬼》と呼ばれていたんじゃない……俺自身が雷の刃……すなわち《雷刃》なんだよ」
老人は鼻に掛かる口調で気絶した鈴本に対して語りながら、スタンガンをゆったり拾い上げた。
一体何が起こったんだろ?
状況に理解が追いつかない夢音だったが、上方よりかすかに落ちる火花を目にし、ある程度の憶測はついた。
頭上を見上げ、目を凝らすとそこには、無数に張り巡らされた電気ケーブルの数々。
そのケーブルの一つの“ゴム皮膜”が老朽化によって剥がれてしまっていたのだ。
鈴本は長いスチール製のポールを振り上げてしまったことで、むき出しになった銅線と接触してしまい、身体を感電させてしまったという顛末だった。
「……だ、大丈夫なの? これ……」
意識を失った鈴本の身体からは、煙が上がっていた。呼吸はしているものの、このまま放っておいたら命に関わるかもしれない状況だった。
「キミ、《オーク》に情を掛けちゃダメだ。こいつらは恩を仇で十倍返ししてくるような連中だ。多くの人間がこいつらの狡猾さで不幸を見ている」
「は……はぁ……」
老人の言葉は、冷徹で一切の情を感じさせないモノだったが、それは単なる偏見から下す評価でなく、確かな経験からくる心意として夢音は感じ取れた。
(このおじいちゃん……一体何者なの? )
「うっ……」
「おじいちゃん? 」
夢音が謎の老人に興味を抱くもつかの間、老人は突然膝を付いてしゃがみこみ、胸に手を当てて苦しみだしてしまった。
「ど、どうしよう!? 」
先ほどの鈴本との衝突のダメージが遅れて現れたらしい。老人の肌は汗ばみ、呼吸を乱し始めた。
「はぁ……はぁ……大丈夫だ……少し休めば……問題ない……」
「そうには見えないけど! 」
「平気だ……それよりここは……《ギルド》なんだろ? 」
「え? ……ああ……《GUILD》だけど……? 」
「神官の一人や二人、いるだろう? 呼んできてくれないか? 回復の術を頼みたい」
「しんかん……? 回復って……何言ってるのおじいちゃん? 」
「頼む……」
「え? ちょっと?! 」
そう言ったきり、意識を失ってしまった老人。夢音は鈴本からの恥辱のダンス強要を免れたものの、その次には見知らぬ老人に理解できない用件を託されてしまう。まだまだ彼女がゆっくりとゲームを楽しむ暇は現れないようだ。
「どうすりゃいいのこれ……? 」
【用語紹介】
・ドラゴンキングファンタジー
通称「ドラキン」
将棋とRPGを組み合わせたソーシャルメディアゲーム。
和洋折衷な中世ファンタジーの世界を舞台に、将棋の対局や詰将棋によってモンスターとの戦闘を行うか、ゲーム内での課金ガチャによってポイントを貯めることでアバターの装飾やコレクションアイテムと交換できるシステム。
期間限定のキャンペーン中にはレアリティの高いアイテムがGETできる仕組みとなっている。