「6ー1 雷門翔人という男」
不思議なおじいちゃんと出会って一緒に犯罪組織を壊滅させちゃうとか、ブログだとかに書いたとしても空想のネタ話か、おクスリ常用者のイカれ話のどちらかとしか思われないだろうな。
あれからあっという間に一年が経った。
翔爺が船の上で雷に撃たれた直後、暴れ狂う波に巻き込まれながらも奇跡的に助かったアタシとブッチャーさんは、その後二人で翔爺の行方を探そうとするも見つからず。悲しかったけど、現実を受け入れることにした……
《ORK》はトップの増田を失ったことで解体。その後、それに関わっていた企業や政治家のお偉いさんの方々は法によって裁かれ、金やコネでそれを逃れた人も、ネット上のリークが発端となり、世論によって淘汰されて元の生活には戻れなくなった。自業自得だよね。
そしてアタシのママは、信仰していた宗教のバックに《ORK》が関わっていたということを知ったことで、一気に“呪い”が解けたみたい。今までお布施を何十万、何百万とつぎ込んで手に入れた壷やお札は全てキレイさっぱりと処分してくれた。
そして娘のアタシと仲直りして温かい日々を送っている……とはいかず、未だにプロ棋士の道を諦めたアタシを許してはいないみたいで、時折会っては鼓膜が腐るほどにグチや嫌みをぶつけられる始末……ま、それでもお金を無駄使いしなくなった分、前よりはマシかな。
で、アタシはというと……翔爺に言われた通り、夢の為に心機一転……と行きたいところだけど、プロ棋士はさすがに無理だし自分自身そこまで未練はないからね。
というワケでアタシは今、地方の将棋教室で子供やお年寄り相手に将棋の基礎を教える講師として働いてます。
妥協とか、諦めとかじゃなく、アタシは単純に将棋と毎日向き合えればそれでいいの。勝ち負けにそこまで拘らないアタシにとって、修羅の道のプロ棋士になることは元々性に合ってなかったんだよね。その分、教えることは得意だったみたいでね、いずれ将棋界の未来を担うチビッ子ちゃん達からも評判いいんだから。
ま、形は違えど翔爺の言うとおり……自分の好きなことを諦めなかった。ということで、許してくれるかな? 翔爺。
そんな感じに充実した日々を過ごしているアタシでしたが……昨日、思わぬ来客の登場でアタシの心は一年前にタイムスリップしてしまいました。
「やあ、夢音ちゃん。久しぶりだネ」
突然将棋教室の受付に現れたサングラスの男……そう、ステーキハウスグレンデルの元料理長ブッチャーさんが、アタシに会いに来たんだ。
「元気してるかネ? 」
将棋教室の向かいにある喫茶店で、アタシはブッチャーさんとテーブルを挟んで近況報告をすることとなった。注文したコーヒーの湯気が、あの時三人で一緒に飲んだ缶コーヒーの味をよみがえらせた。(そういえばその時にアタシが立て替えたお金、まだもらってない……)
「ぼちぼちですかね。ブッチャーさんは今何をやってるの? 」
「フ……その呼び名はもうやめてくれ、私には淵山って名前がちゃんとある」
「はぁ……淵山さん……か。ふちやま……ブッチャーってそこから来てるの? 」
アタシの単純な好奇心からくる質問は、ブ……いや、淵山さんが「ズズズズーッ! 」とワザとらしくすするコーヒーの雑音で“この話題には触れてはいけない”という空気を察した。
「私はネ、今は定職に就かず、そこいらの飲食店を転々とアルバイトするような生活をしているよ」
「え? 意外! 淵山さんぐらい料理の腕があれば、てっきりまた新しい店でも開いてるか、一流レストランにでも雇われてるのかと思ってた」
「フフ、その気になればそうすることも出来るが……それよりも私はやりたいことがあったからネ」
「やりたいこと……? 」
アタシのその反応を待っていたかのように、淵山さんはコーヒーカップをソーサーにそっと置き、耳打ちするように身を乗り出してアタシにそっとこう呟いた。
「旦那のこと……雷門翔人という男のことを調べていたんですネ」
「翔爺を? 」
アタシは思わずうわずった大声を上げてしまった。他人の口からあの不思議な老人の名前を聞くことは、あの一件以来のことだったからだ。
「そう、今日はその報告に来た。旦那について色々と分かったことがあるからネ」
「翔爺の詳しいことがわかったの? 」
「ああ……聞くかネ? 」
「もちろん! お願い! 」
淵山さんはニヤリと口角を上げ、傍らのリュックから1冊のブ厚いノートを取り出した。
「私は、雷門翔人という人間に惚れ込んでしまったみたいでネ。“旦那のコトをもっと知りたい”その思い一つで今日まで色んな場所で資料を求めたり、聞き込みしたりして多くのことを知るコトが出来たネ」
「な……なんですか? コレ? 」
卓上に置かれたそのノートはよほど年季が入った物のようで、表紙は手垢で汚れ、元がどんな色だったのかが分からないほどに黄ばんでいた。
「これは、雷門翔人の家族から譲り受けたノートだネ」
「翔爺の……家族? 」
「危なかったネ、私が旦那の実家を訪れた時にはちょうど遺品整理としてこのノートを処分する直前だったみたいでネ」
「遺品……整理」
アタシは翔爺の死を受け入れていたつもりだったけど、いざ“家族”・“遺品”といった言葉を告げられると、その死がいよいよリアルなモノとなって心を締め付けてくる。
「それで、このノートはなんなの? 」
「これは、旦那が20歳の頃から書き始めていた日記帳だネ。これはその一部」
「日記……」
「今からこの日記に記された内容と、私が様々な場所で聞き込んで得た情報をまとめ、夢音ちゃんに語ることにするネ。雷門翔人という男の物語を」
雷門翔人。
雷門家の長男として生を受ける。父と母、2人の弟と共に、中流家庭のごくごく不自由ない生活を送り、大きな病気もなくスクスク健康に育っていた。
空想が大好きで、授業中は勉強のことなど後回しとばかりに、自分で考えたゲームキャラクターや風景をノートにビッシリ描き込んでいた。そのことで担任の先生には何度となく叱られ、両親からも怒鳴って注意されるほどののめり込みようだったそうだ。
しかし中学に進学したころ、彼は妄想を形にすることを辞めてしまった。その理由は、クラスメイトによる晒し上げだった。
いわゆるスクールカースト上位のイケてるグループ達に妄想を書きためたノートを勝手に読まれてしまい、そのノートを教室の黒板に張り出されて嘲笑の的となってしまった。翔人は学校から飛び出してしまうほどの屈辱を味わったそうだ。
それ以降、彼は学校という場所に居場所を見いだすことが出来ず、不登校児になってしまった。
唯一の心の逃避行である空想ノートも、学校での辱めをフラッシュバックさせてしまい、今まで通りにペンを走らせることが出来なかったらしい。
そして、雷門家の出来損ないとして毎日自室で生活を送ることとなり、他者との交流はネット上での書き込みや、オンラインゲームでのチャットのみとなった。
そして時が流れ雷門翔人が17歳の頃、運命の日が訪れる。
深夜にコンビニに向かった彼は、その道中で突然の雷に打たれて重傷を負った。
病院に緊急搬送され、しばらく意識不明のまま集中治療室にて治療を受けることとなる。
そして一週間が過ぎ、額に大きな傷跡が二つ残ったものの、翔人は奇跡的に意識を取り戻して一命を取り留めた。
どうにか最悪の事態を免れたことで安堵した翔人の家族だったが、看護をしている内に彼の様子がおかしいことに気が付く。
ライトイニング・パメラ・ロゼ・シャロン・雷人鬼・オークマスター……等々、ゲームかアニメに出てくるようなワードをうわごとのように1人で呟いている姿を度々目にすることが増えたからだ。
元々空想癖があった翔人なので、周囲からは雷に打たれたショックで現実と虚構の区別がつかなくなってしまったと思われ、だんだんと翔人は“変人”として扱われるようになった。
退院して自宅に戻っても、どこか居心地の悪そうな雰囲気で、家族にすら他人のように接するようになり、堪えられなくなった両親と弟達は、彼を厄介払いするかのように、無理矢理アパートに押し込んで1人暮らしをさせることとなった。
そのまま時が過ぎて翔人は22歳となり、徐々に世間に溶け込むことができるようになった。コンビニでアルバイトを始めて自立し始めるが、天候が荒れたある日のこと、仕事中の翔人は突然店を飛び出してしまい、雷雨の中街はずれの鉄塔によじ登ってレスキュー隊までが出動する大騒ぎとなってしまった。
その奇行が決め手となり、翔人は実家に戻され、両親の監視の下、離れに隔離されるような生活を送ることとなった。
その時、なぜあんなことをしたのか? と翔人に問いつめると「もう一度雷に打たれたかった」と語っていたらしい。もう彼の話を真剣に聞く者はいなかった。
そして彼は50代になるまでずっと自室に籠もってインターネットで調べ物をしたり、ノートにペンを走らせ続ける生活を送るが、この時から彼は若年性の認知症を発症し、徘徊や幻覚を見ることが増え、65歳になった頃に弟2人の支援によって介護施設へと移り住むこととなった。
施設に移ってからは認知症の症状が重くなり、手足も自由に動かすことが出来ず、空想話も増えて他人との会話がほとんど成り立たないようになってしまった。
そして5年の月日が流れたある日、施設に忍び込んだ《ORK》の売人によってスタンガンを撃ち込まれて失神した翔人は、その直後に人が変わってしまったかのように喋りが明晰になり、さらに両足でしっかり直立することも出来るようになったそうだ。
そして翔人は《ORK》の男を退け、奪い取ったスタンガンを手に施設から飛び出してしまった。
「そのあとは夢音ちゃんが知っての通りだネ」
「《GUILD》で……アタシを助けてくれた……」
淵山より明かされた雷門翔人の来歴。いじめ・不登校・家庭内不和……それは夢音が思っていたよりも、現実的で身近な苦難に心を悩ませていた1人の男の姿だった。
「そして、夢音ちゃん。ここからが本題だ」
淵山は先ほどテーブルに広げた翔人の日記帳をパラパラとめくり、付箋によって目印をつけられたページを夢音に見せた。
「これは……イラスト? 」
そのページには、ファンタジー小説で描かれるような服装を着込んだ男女、大男やドラゴンといったモンスター、さらには剣や鎧、城や村の風景といったスケッチがところ狭しと描き込まれていた。格別上手とは言えない絵だったが、アクセサリーの細部まで緻密に描かれている点で異彩を放っていた。
「もしかして、これって翔爺が描いていた空想の世界のスケッチ……ってこと? 」
「そうだネ。そうかもしれないし、そうではないかもしれない……」
「どういうこと? 」
「よく読むといいネ」
淵山に言われた通りに、夢音は改めてイラストに注意深く目を通した。そして流して見た時には気が付かなかった小さな文字の注釈を発見した時、彼女は背中に静電気が走ったような感覚を覚える。
「パメラ……ロゼ……シャロン……これってもしかして……」
翔人によって描かれたコスプレじみた衣装の女性達のイラストに添えられた文面には、かつて彼が語っていた妻や友人の名前があった。
「夢音ちゃん、ここで一つキミに聞ききたいコトがあるんだがネ」
淵山はサングラスをしていてその目つきは分からなかったが、彼の口調と態度でこれから冗談一切抜きの真剣な質問をするであろうことは夢音にも察することができた。
「旦那は……本当に私達の住んでいる場所とは違う、いわゆる異世界に行ったことがあるのかどうか……? 夢音ちゃんはどう思っているのかネ? 」
「異世界……ですか? 」
その事柄は夢音も常々頭の隅で疑問に思っていたことだ。
翔人は《ORK》との戦いで、奇妙な呪文を唱えたり、魔術だとかモンスターだとか言った類のワードを事あるごとに口走って窮地を脱していた。
でもそれは結局、たまたま電線に触れて感電したり、ガス缶が爆発したりといった偶然が重なって出来た奇跡の産物だと夢音は思っていて、本当に翔人が映画やアニメのような超常的なパワーを持ち合わせているとは考えていなかった。
「一般的に事を落とし込む考えをすればネ、空想が好きな旦那は若かりし頃に雷に打たれたショックで錯乱を起こし、空想と現実の区別が付かなくなって虚言を繰り返していた……というのが受け入れやすいだろうネ……」
「うん……実際のところアタシもそう思ってた……でも……」
「そう……“でも”なんだネ。私達はそれだけでは説明できない光景を目の当たりにしている」
「……うん……船上で、翔爺が魔法みたいに電気を操ってた……あの時……あれだけは偶然じゃ説明がつかないんだ」
AEDによって復活を遂げた翔人が、額から電気の角を生やして《ORK》を一掃したという揺るぎない事実。彼が超常的な世界で特別な力を得ていたという物証とも言える。
「このノートによれば、旦那は《畜雷石》という電気を吸い込む不思議な石をおでこにめり込ませてしまっていたが、《オークマスター》と呼ばれる男に破壊されたと記されている……それが事実だとすれば、旦那が若くして認知症に似た症状を発症してしまったことに合点がいくネ……脳に指令を送る微弱な電気を、頭の中に残っていた《畜雷石》の破片が吸い取っていたということになる」
「となると……あの時アタシが翔爺にAEDで電気ショックを与えたことでその……《畜雷石》? が吸収出来る電気の量に限界が来て、それがおでこから溢れ出した……ってことかな? 」
「そう。その直後に旦那の喋りが明瞭になったのも、脳内の電気信号が吸収されなくなったからだと説明出来る。私が思うに、やっぱり旦那は本当に異世界からこっちに帰還したのだと思うネ」
「うん……そうかもしれないよね……」
核心をもってそう語る淵山だったが、夢音の中では「はいそうですか」と飲み込むことが出来ずにいた。
あまりにも現実離れした話に加え、翔人が異世界からの帰還者だった! と認めてしまうと、向こうで共にした仲間であるパメラ、ロゼ、シャロン達も実在することになる。そう考えると彼女達と別れざるを得なかった翔人のコトがあまりにもいたたまれなくなり、自分自身の心が痛くなってしまうからだった。
「ま、旦那がただの空想好きの老人だったか、それともかつての異世界の勇者だったかは、夢音ちゃん次第……旦那がいない今、確かめようにも不可能だからネ」
「……翔爺……やっぱりあの時死んじゃったのかな……? 」
淵山はコーヒーを飲み干し、ノートをリュックにしまい込んで席から立ち上がる。
「私が思うには……旦那は再び異世界に帰ったんじゃないかと思ってるネ。彼にとっての故郷は“ここ”じゃなくて“向こう”だからネ」
淵山はポケットから財布を取りだして2人分のコーヒー代をテーブルに置き、この場から立ち去ろうとする。
「淵山さんは、これからどうするんですか? 」
「まだもうちょっと旦那について色々調べるつもりだネ。私も……異世界とやらに興味が沸いてきたんでネ」
そう言い残して彼は店を後にしようとしたが、何かを思い出したらしく、再び夢音の元へとUターンし、彼女の耳打ちをする。
「一つ言い忘れてコトがあった……夢音ちゃん、夜道には気をつけるコトだネ」
「夜道……? どういうコト? 」
「《ORK》の残党が各地にうろついてるって話を聞いた。その中にはクルーザーを強襲した犯人を探してるヤツらもいるらしい……」
「要するに……アタシや淵山さんを? 」
「そういうコトだネ……まぁ、キミは激しくイメチェンして風貌も変わったから、突然襲われるようなコトは無いと思うネ。ただ、念の為だネ」
「……わかった……」
「それじゃ、元気でネ」
「うん、淵山さんも」
淵山は夢音に警告を残して今度こそ喫茶店を後にした。彼が連絡先を彼女に一切伝えなかったのは、万が一《ORK》の残党に目を付けれられた時に繋がりを悟られないようにする為の配慮だった。
「《ORK》……か……」
つい一年前までは、露出の多い衣装に身を包んで人前でポールダンスを披露していたことが嘘のように思えるほどに、夢音は夜の世界とは一切関わらないようにしていた。
肩まで伸びていた髪はばっさりとショートに切り落とし、染めていた髪も黒く戻した。メイクも地味に変え、コンタクトも眼鏡に変えたのでポールダンサー時代とは別人と言っても過言ではない変化を遂げたと本人は自負している。
それに加え、今夢音は都内を離れて実家のある地方の街に引っ越している為、万が一にも《ORK》の残党に目を付けられることは無いだろうと安心していた。
「それじゃあ、お疲れさまです」
今日も講師としての勤めを終えて帰路につく夢音。時刻は夜10時を過ぎた頃、曇天で月明かりすら落ちない闇夜は、街灯の光がなければ真っ黒に染まってしまうほどに深い。
「ちょっと長話しすぎちゃったかな……」
普段であれば、こんなにも夜遅くまで職場に残ることはなかったが、今日は彼女が熱中しているアプリゲーム《ドラゴンキングファンタジー(ドラキン)》について意気投合した同僚と長話をしてしまったことで、こんなに夜遅くまで残ることとなってしまった。
『夜道には気をつけるコトだネ』
昼間に会ったブッチャーこと淵山の言葉が頭の中でリフレインする。
淵山さんはああ言ってたけど、自動車がなければロクにコンビニすら行けないような田舎街にまで元《ORK》の残党が追っかけて来るだなんて、そんなことないよね……?
同じ趣味を持つ仲間が増えたことで気分が高揚していたのだろうか? 今の夢音はとにかく楽観的だった。夜の世界に身を置いていた頃の緊張感は真夏の水たまりのように、キレイさっぱり消え去っていた。
さっさと帰って風呂入って寝よう。
夢音は心地よい足取りで夜道を一人で歩き出した。職場から少し離れた場所にある駐車場に、彼女の愛車が停めてある。
時間も時間だけに、周囲には夢音以外の人間の姿は無い。どこか遠くで犬の吠える鳴き声がハッキリ聞こえるほどに静かだ。
駐車場に辿りついた夢音は、いつも通りに愛車の鍵を開け、ドアを開こうと手を掛けた。
「あら?」
その時、何かの“違和感”が彼女の目を引き、身体の動きを停止させる。
「なにコレ? 」
それは、ドアの隙間に差し込まれた一枚の紙切れ。真っ白で四角いクレジットカードほどのサイズ。
やだなぁ……たまにあるんだよね、あなたの愛車、高く売れます! みたいな広告を人の車に勝手に貼り付けていく営業……
悪質なセールスかと思い、その紙切れを手に取って書き記された内容を確認した夢音だったが、その瞬間に今の今まで楽観的な考えで四日を歩いていた自分自身に叱りつけたくなっていた。
「嘘……! なんで!? 」
それは彼女がかつて籍を置いていたガールズバー《GUILD》で使っていた名刺だった。
「久しぶりだな……夢音」
その声は夢音の背中に悪寒を走らせた。何度も何度も聞いた覚えのある男の声だった。
「て……店長!? 」
脳内でリプレイされる忌まわしき記憶。翔人に助けられた後、自室に現れて自分を無理矢理押し倒して《ELF》に移籍させようとした張本人……《GUILD》の店長が、今自分の目の前にいる!
「ちょっと付き合ってくれや」
店長の無慈悲で安直な一言を聞いた夢音は、その直後に「バチッ! 」と硬い物が裂けたような音を聞き、意識を失ってしまった……




