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「5ー4 帰還」

 林の奥へ奥へと進んでいくと徐々に臭気が強くなっていく。間違いない、この炎天下に放置した獣肉の匂いのような激臭は、《オーク》が近くにいることを暗示している。



 そしてさらに進むこと10分。陽の完全に沈み切って周囲は暗くなり、足下すら見えなくなりかけた頃、円形に開けた広場のような場所にたどり着いた。





「約束通り、一人で来たようだな」





 手入れのされていない歯車が軋む音のように不愉快な心地にさせるその声は、広場の中央にそびえ立つ大樹の裏側から響きわたった。





「パメラはどこだ! 《オークマスター》! 」





 俺の叫び声がスイッチになったかのように、広場の周囲からゆっくりと炎が灯されて暗闇を照らす。ゆらゆらとなびく炎の光に照らされ現れたのは、松明を持った無数の《オーク》達。



 そして大樹の陰からゆっくりと姿を現したのは、ドス黒いコートを羽織った《オークマスター》。その傍らにはボディガードのようにそびえる《オークキング》の巨漢。そしてそいつがワイン樽のように肩に担いでるモノを目にした時、俺は再び平静を保てなくなった。



「パメラ! 」



 《オークキング》の肩に担がれたパメラはグッタリとして力がなく、俺の呼びかけにも一切反応しなかった。



「パメラに何をした! 」



「わめくな雷刃鬼。こいつは術で眠らせているだけだ。こいつは怪我した子供の正体が、僕だと気が付かずに甲斐甲斐しく世話をしてくれていたぞ。お前が惚れ込む理由がよくわかったよ。お人好しで肝心な時に頭が回らないバカ女だ」



「今すぐその口を閉じろ……そしてパメラを解放しろ! 」



「自分の立場ってものをまだ理解していないようだな……こっちにはパメラというカードが手中にあるのだぞ。こっちがその気になればこの女の首を、リンゴをもぎ取るように引っこ抜くことだって簡単なんだ」



「何が目的だ……」



「目的か、そんなのは分かり切ったこと。僕の野望の障壁となる邪魔者を消したい。それだけのことだ」



 《オークマスター》が指を鳴らして合図をした瞬間、俺の膝裏に丸太がぶつかってきたかと思うほどの衝撃が走った。



「うぅッ! 」



 たまらず膝から崩れ落ちてうつ伏せに倒れてしまう。背後に視線を向けると、そこには棍棒を握りしめた《オーク》の姿。



 迂闊……背後から忍び寄る《オーク》に気が付かず、棍棒の一撃で足の骨を砕かれてしまったようだ……



「うむ、いい姿だ。あれほど僕達を苦しめた雷刃鬼が、今はこうして地面に股間をすり付けている姿を拝めるのは痛快だぞ。酒があればいい肴になっていたろうに」



「くそ……」



 這い蹲りながらも俺は《でんでん虫》を握りしめて雷刃技を放とうとしたが、それは《オークキング》がパメラの首に手を掛けようとする仕草を目の当たりにして、中止せざるを得なかった。



「う~ん、その通りだよ雷人鬼。賢明、賢明。もしもその雷刃を使って1ボルトでも電気を発生させてみろ。お前の妻はデュラハンに転生することになる」



「クズ野郎……」



「なんとでも言え。今のお前はそれしかできないもんな」



 《オークマスター》は早朝を散歩するようにゆっくりと近づいて来て、高圧な態度を絵に描いたような表情で俺を見下ろした。



「知っているか? 雷刃鬼。《オーク》ってのはな、元々は僕やキミの妻と同じように、《エルフ族》だったことを」



「……初耳だ。けどそれがどうした? 」



「まぁ聞け。かつてこの《ライトイニング》に邪悪の王が降り立った時、そいつは何人もの《エルフ》を監禁してな、ゲロを催してしまうような拷問で苦痛と陵辱を与えたらしいんだ。その結果、怒りと苦しみで堕落した《エルフ》は、美しく聡明な姿とは一転、醜悪で残忍な変貌を遂げて《オーク》となった…………」



「…………」



「オスの《オーク》が《エルフ》の女ばかりを襲う理由が分かっただろ? 根本的な部分では同じ種族なんだよ、《オーク》も《エルフ》も……」



「なるほどな……《オーク》達が悲しい過去を背負っていることは十分に分かった……だが、それがパメラを傷つけていい理由にはならない」



「確かにその通りだ。そのこと自体は僕だって興味の無い話だ。興味があるのは……怒りと苦痛が、どれほどまでに人を狂わせるか……だ」



 《オークマスター》が周りの《オーク》達に何か指示を送ると、俺の両手足が万力のような強い力で拘束された感覚を覚える。うつ伏せでよくわからないが、複数の《オーク》によって動きを封じ込まれてしまったらしい。



「さて、これからキミにはちょっと実験に付き合ってもらおうかな? 」



「何をする気だ……? 」



「さっきも言っただろう、怒りと……苦しみの観察だ! 」



 次の瞬間、頭が大きく揺れて意識が飛びかけた。そして遅れて痛みがじんわりと現れ、たき火のような熱が顔全体に広がり、脳内で真っ赤なスクリーンのイメージが映し出される。



「う……ううううッ!? 」



 涙が溢れ、鼻血が流れる。そしてなにやら頭部が少し“軽くなった”感覚すらあった。



 涙でぼやけた視界を凝らし、自分の身に何が起こったのかを確かめると、そこには塔のてっぺんから地上を見下ろした時のように、心臓がギュッと締め付けられるような光景を目の当たりにすることとなった。



「嘘だ……《畜雷石》が……」



 そこにはパメラがでんでん虫の角と形容した俺の二本の角、《畜雷石》が粉々になって地面に散らばっていた。おそらく《オーク》の棍棒によるフルスイングで破壊されたのだろう。



「その石がお前の厄介な電気攻撃のキモだということは知っている。さてさて……石を失ったお前が今からどうなるか見物だな」



 《畜雷石》は雷刃(でんでん虫)から流れる電流を吸収して、俺自身が感電することを防いでくれている。



 しかし、それがオークマスターの手によって失ったとなると、導き出される悲劇は一つ。



「うああああああああッッッッ!! 」



 全身の筋肉が締め付けられるような感覚。自分は今、でんでん虫から発せられる電撃で感電してしまっている。まだ脳内に残っている《畜雷石》の破片がかろうじて機能していることで即死は免れたが時間の問題だ。



「ははッ! これは笑えるな。さんざん僕達を苦しめていた雷刃鬼が、自分自身の武器によって苦しみ、痙攣ダンスを踊っているとは滑稽だ、面白すぎるぞ! 」



「うううう……ああああッッ!! 」



 無力だ……俺は一人になるとここまでアッサリと戦えなくなってしまうのか? 



「そろそろ気が付いたか? お前の力は本来そこまで恐ろしくないのだ。周りのサポートがあって初めて脅威となりえたのだ。今のお前は……そう……ただの男だ」



「う……うおおおおッ!! 」



「いや、額の石を失ったお前は……それどころかザコと呼ぶに相応しいほど弱小だよ……情けない」



 その通りだ……その通りだった……



 俺は今まで勘違いしていたんだ。いざとなれば雷刃技でパメラを助けられる……



 違う……俺は助けられていた。パメラ・ロゼ・シャロン……三人がいたから俺は力が発揮できた……いつの間にかそんな基本的なことすら頭から離れていたんだ。



 慚愧に堪えない……中学生の頃に読んでいたラノベで覚えたその言葉。今の自分に最も相応しい言葉だ。



 ロゼとシャロンの言うとおり、落ち着いて三人でどうにか切り抜ける方法を考えるべきだったんだ……



「雷刃鬼。お前は今ビリビリしながら“やっぱり仲間と一緒に来ればよかった”だとか考えているんだろ? そうすれば妻を助けることが出来た……とかな。でもどっちにしろそれは叶わぬ観測だ。なぜならね……」



 《オークマスター》が目配せをしてパメラを担いでいた《オーク》に合図を送った。すると……あろうことかその《オーク》はゴミを扱うかのようにパメラを地面に放り投げた。



 くそッ! 何してやがる! パメラを乱暴に扱うんじゃねえ! と、頭に血を昇らせてしまったが……俺は感電しながらも、彼女の様子がおかしいことに気が付いた……



「パメラ……? パメラ! 首が……」



 変わり果てたパメラの姿に、翔人は感情のやり場に混乱して「ハハ……」と掠れた笑い声をこぼしてしまった。



 翔人はずっと勘違いしていた。



 パメラの背中だと思っていた部分は、実は腹である。それを意味することは彼女の首が横に180度曲がってしまっているということ。人間の身体の構造上、不可能な状態になっていたということ。



「すまないな雷刃鬼……術で眠らせたってのは嘘だ。ホントのところは……もう殺しちゃったんだよな」





 冗談だよな……





「拉致して捕虜にしようかと思ってこの林に連れ込んだはいいが、実に激しく暴れて抵抗してくれたんでね、欲求不満の《オーク》達にこの女を好きにさせたんだ」





 嘘だ……嘘だ……





「あいつら加減ってモノを知らなくてな。正直見るに堪えない光景だったが……5分ももたない内に一人の《オーク》が力加減を間違えて女の首の骨をへし折っちまったんだよ……悲しいもんだね、必死扱いて鍛錬して磨いた技も、圧倒敵な力と暴力の前ではここまで無力とは。」





 もういい……





「雷刃鬼、夫婦揃って無力さに嘆き、涙と鼻水を噛みしめてあの世に行くがいいさ。それからゆっくりと《オーク》達と共にこの世を蹂躙する。」





 俺にとっての“ホーム”はもう……いくら探しても見つからない……諦めたよ……





 全てを……全部を……真っ黒に破壊してやる……





 阿修羅のように……全てを……





「ウオオオオオオオオオオオオォォォォッッッッ!!!! 」





 天空に穴を開けるかと思うほどの翔人の咆哮。そして広場には雨が降り注ぐように雷電の柱が繚乱する。



「なんだ!? ど、どどどうしたコレは!? 」



「ハァ……ハァ……」



 激しい息づかいのまま立ち上がる翔人、右手には《でんでん虫》。そして額には、先ほど《畜雷石》がめり込んでいた傷跡から、うねる電流が噴水のように溢れ出ている。その姿はさながら、角を飛び出させたカタツムリのようだった。



「バカな! 額の石がない状態で雷刃の技を使う気か? 死ぬぞ! 」



 翔人の迫真の姿に気圧された《オークマスター》はさすがに危機感を覚えて魔術で対抗するべく、愛用の杖を取り出したものの時すでに遅し……



「もういい……全てをおしまいにしよう、オークマスター……俺と一緒に地獄に行こうぜ」



「そんな……マジかよ! よせ! 」



 全身に雷を纏い、皮膚が焼け焦げてもはやその人型が翔人と認識出来ない。周囲の《オーク》達も雷の一撃であっけなく絶命し、残るは大樹を背にして失禁する《オークマスター》の醜態のみ。



「やめろ! 禁術を使ってこの女を蘇らせてやる! お前の身体も元に戻す! どうだ? 考え直せ! 」



「そんな言葉、信用すると思っているのか? ……俺の頭にあるのは、お前を殲滅すること……ただそれだけだ!! 」



「よせェェェェッ!! 」



 林を全て包み込むような極大の雷が、雨雲を蒸発させる勢いで轟音を奏でた。



 翔人は薄れゆく意識の中でパメラの死体を眺め、ただひたすらに心の中で歌を口ずさんだ。







 でんでん虫……







 俺の角は……どこにある? 







 角を出せ……角を出せ……







 俺の角は……俺の角は……







 ■ ■ ■ ■ ■







「俺の角は…………ここにある!! 」







 夢音(ろまね)の決死の呼びかけに応えた翔人は、全身を真っ白に発光させてゆっくり立ち上がった。



「な……マジかよ……」

「ジジイが生き返った……!? 」



 増田と奥那須はまさかの光景に目を見開き、翔人の姿に釘付けになってしまっていた。



「脳内に残った《畜雷石》は、ゆっくり50年掛けて体内電気を溜めこんでいた……そして今……全てを解放する時が来た! 」



「翔爺……翔爺! 」



 夢音(ろまね)は勇者の帰還を涙をこぼしながら歓迎した。



「ありがとう、よく頑張ってくれたな夢音(ろまね)……後は俺に任せろ」

「翔爺……ホントに翔爺なんだね! 」



 自分の為に傷だらけになりながらAEDを作動し続けた夢音(ろまね)を笑顔で労る翔人。その顔には今まで少し虚ろだった陰が消え去り、10代のような若々しい眼光が蘇っていた。



「さあ……覚悟しとけ悪党ども! お前らの前に立ちはだかるのは雷刃鬼……雷門翔人だ! 」



 翔人の額から電撃の帯が二本飛び出して、角となった。全身に電流を纏った彼の身体はさながら人間発電所。スタンガンなど子供のおもちゃに等しい。



「なんだかよくわからんが……しゃらくせえ! どんなトリックを使ってるのかはわからんが、しょせんはジジイだ! 何も怖くねえ! 」



 奥那須は復活した翔人に一瞬だけひるんだもののすぐに余裕を取り戻して踏み込み、絶縁体のグローブを装着した右手を思いっきり振り上げた。



「そんなグローブで防げると思ったのか? 」



 翔人は奥那須の攻撃に対しても一切動じず。グッと相手の視線を見据えて手のひらをスッと前にいかざした。



「放たれよ! 電刃技・雷電束エレキパーム!! 」



 次の瞬間、バチッ! と空気が弾ける音が鳴り響くと、奥那須は青白い光に包まれて全身を痙攣させる。



「うおおおおおッ!? 」



 2mはあろう巨体が一瞬で人形のように動かなくなってしまった。それほどまでに翔人の雷刃技は強力無双。動く高圧電線。



「奥那須ゥーッ! 」



 最も信頼を寄せている相方を失い、平静さを失う増田。彼は今日、10数年ぶりに孤立する。



「“増田道奥”次はお前だ……! 」



「来るなッ! この耄碌(もうろく)ジジイ! 」



 圧倒的危機を感じた増田は愛用のネイルガンで釘を翔人に向けて発射させる。



「フン! 」



 翔人は瞬速で発射された釘を難なく回避したが、増田の表情はニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。



「捕まえたぜこの露出狂が! 」



「うッ! やめて! 」



 増田の狙いは翔人への攻撃にあらず。彼の注意を一瞬だけそらし、夢音(ろまね)を捕まえて人質にする為の布石だった。



「よく見ろジジイ! あと一歩でも俺に近づいてみろ! この女のド(たま)に釘をブチこんでやるからな! 」



「翔爺! かまわないで! アタシと一緒にこの粗チン野郎をブッ飛ばしちゃってよ! 」



 ネイルガンをゴリッと夢音(ろまね)のこめかみに押しつける増田。狂気の笑みで翔人を脅すも、それは数秒の時間稼ぎにしかならない。



「さぁどうするジジイ! 今すぐ両手を後ろに回してうつ伏せになれ! でなければこの女がサボテンになるぞ! 」



「ふう……変わらないな……《ライトイニング》でも“こっち”でも……汚い野郎は身体の芯まで汚れている」



「負け惜しみか? 僕は本気だぞ! まずは手始めに目ン玉にぶち込んでやろうか? 八宝菜のウズラに割り箸をブッ刺すにみてえにブチュっといくぞ! 」



「お前が《オークマスター》の生まれ変わりかどうかは分からんが、言っておこう……今の俺はあの時とは違う……! 」



「なんだと? 」



 翔人の言葉に疑問符を浮かべる増田だったが、次の瞬間に彼はそれどころではなくなってしまう。





「肉屋をナメると血をみるネ」





「お前!? 」



 奥那須との戦いによって失神していたブッチャーが、いつの間にか復活を遂げて増田の背後に回り込んでいた。



「ううッ!? 」



 そして増田は突然膝を崩してうずくまってしまう。ブッチャーの全力の蹴りによって、全ほ乳類共通の急所“睾丸”を強撃されてしまったからだ。



「ブッチャーさん! 」



「さぁ! こっちだ! 」



 夢音(ろまね)はブッチャーによって救出されて避難。翔人はアイコンタクトでブッチャーに賞賛を送った。



「このクソ……肉を焼くことしかロクに出来ない底辺野郎が……」



 増田はとうとう正真正銘、翔人と一騎打ち状態となってしまう。武器はネイルガン一つ。右手は夢音(ろまね)によって釘で穴を開けられ、股間はブッチャーによって海底火山のような熱い痛みが続いている。



「言っただろう……今のオレはあの時とは違う。共に九死を乗り越えられる仲間を信頼し、助け合うことができる……もう、一人でヘマはしない……誰が相手だろうと絶対に負けない! 」



「黙れクソジジイ! なんだよお前……なんたってお前みてえなクズに《ORK》がメチャクチャにされなきゃならねえんだよぉぉぉぉ! 」



 増田は一心不乱にネイルガンを乱射。放たれた釘はクルーザーの火事の炎を反射してキラキラ煌めきながら翔人の身体に吸い込まれる。



「翔爺! 」



 その数本が翔人の大腿部や前腕に突き刺さるが、それを意に介さずに彼はゆっくりと増田との距離を縮めていく。



「旦那ァァァァ! 」



 翔人の手足は釘だらけになってしまっていたが、それでも痛みを感じていないかのように、苦痛の表情すら浮かべない。



「来るな! 来るなァァァァ! 」



 とうとう増田はネイルガンに装填された釘を全て打ち尽くしてしまい、一切の武器を失ってしまう。



「増田……、ホントは怖いんだろ? 」



「な……なにが怖いってんだ! 」



 装甲車のような威圧感の翔人に睨みつけられて、失禁をしてしまいそうなほどに身体を震えさせる増田。その姿には裏社会のボスだった頃の威厳は一切なかった。



「お前、人を殺したことないだろ? 」



「あ……当たり前だ! 僕は司令塔だ、自ら手を汚すようなことなんてしない! 」



「イヤ、違うね……それなら自らそんなオモチャを使って意地汚く他人を痛めつけているのはなぜだ? 」



「ただの趣味だ! それがどうした! 」



「いいや。本当は臆病だから……自分がいじめられるのが怖いから、そして自分の手で他人の人生を終わらせる重責に堪えられないからそんなコトをしているんだろう」



「違う! 僕は臆病なんかじゃない! 」



「さっきの釘攻撃も、俺の頭や心臓に撃ち込まなかったのはなぜだ? 」



「黙れ! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ! 黙りやがれぇぇぇぇ! 」



「俺にはできているぞ……そいつが路地裏の壁にこびり付いた粘土のような汚物以下の最低野郎なら……一切躊躇なくその心臓を止める程度の覚悟はな……」



「やめろ……! やめてくれよ……! 」



「安心しろ……地獄というものがあるのなら、お前と仲良く出来そうなクズがもう一人いる。今すぐそこに送ってやろう」



「助けて! なんでもする! 金ならいくらでも……」



「タイムオーバーだ……バイバイ増田」





 バチィッ! 





 その音は、人の命を終わらせるにはあまりにも一瞬で、あまりにあっけなく、あまりにも安直だった。



 翔人は増田の心臓に向けて電光を一閃。そのままライフルに撃ち抜かれたかのように、増田は白目を剥いて力なく甲板に倒れてピクリとも動かなくなってしまった。



「地獄で《オーク》と戯れてろ」



 金と権力で裏の世界を牛耳っていた巨大組織《ORK》。それが今、たった一人の老人によって終焉を迎えることとなった。



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