カイリ生誕
うっ、産まれるっ!(by母上)
産道狭いんだなぁ(by唯一)
出産される経験をしました。
母上は私を産み出すのにお腹を裂かれるような痛みを覚えているでしょう。
赤子は多少の圧迫感で済むあたり、感覚器官の未発達が原因でしょう。
せっかく自意識を持って産まれたのです、一生懸命親孝行をしましょう。
産まれてから、数日が経過した。
やれることは依然として思考だけである。
これからについて考えながら数日を過ごしていた。
相も変わらず取りとめのないことだらけだが。
この世界における自分について考えてみた。
思考は昔のくせでこの口調なのだが、言葉に関しては喋れるようになったら丁寧にしようと思っている。
思考を丁寧にする必要は無いだろうから、変える必要は無いと思っている。
基本的には元の無難な性格は引き継ぎ、角が立たないように他人と接していくつもりだ。
事前の自由記述欄の希望通りならば殺伐とした世界のはずなので、敵には苛烈にいくつもりである。
仲間内には優しく、敵には苛烈、正しく自己中心的である。
物語の主人公達と違う点は······仲間すら敵となりうる所だ。
親しき仲にも礼儀あり。
これを忘れるやつに未練はない。
仲間は慎重に選びたいものだ。
生後3ヶ月までの間は、産まれたての赤子らしく、適度に泣き叫び、両親に甘えた。
親孝行という意味だけではなく、こちらに意識を向けることで、多くの声掛けをしてもらうためだった。
この世界は言語すらスキルで表すことができるらしく、何度か話しかけられているうちにスキルとして獲得した。
【ギニラ大陸言語】というらしい。
大陸言語とつくならば、この言語が大陸では共通言語となっているとみていいだろう。
ということでさっさとスキルレベルを上げるため、このような小さな努力をしていた。
現状、スキルレベルは2で止まっており、別のアプローチが必要なのだと考えている。
言語なのだから聞く・話す・書くの3種ができなければならないとかだろう。
聞くことしかできない今は上げることは難しそうである。
そう言えば、今生における私の新しい名前が決まった。
特におかしなことも無い、至って普通の農村に産まれた私には家名がなく、ただの"カイリ"となった。
村には病院のようなものはなく、薬草の知識がある者が、医者の真似事をしているそうだ。
そのため出産に関しては村の女衆一人一人が産婆さんのようなものであり、私の時には祖母が付いてくれたそうだ。
時折様子を見に来たついでに話していたから間違いないだろう。
異世界特有の美形ばかりという訳ではなく、どこにでもいるようなおばさんだった。
ちなみにこの世界では結婚・出産がとても早い。
日本で学んだことだが、命の危険を感じると、生存本能が刺激されるという話がある。
この世界全体でその傾向があるのだろう。
村の周辺にも森があり、時折魔物が出るらしい。
命の危険はすぐ身近にあるということだ。
なので母上はおそらく10代後半で、お祖母様は30代後半だろう。
先程おばさんといった意味が伝わっただろうか?
まだまだ若いお祖母様の元に産まれたのだ。
ちなみに父上、お爺様も若い。
年齢は母上達より数年上であろうが、狩猟もこなすためか、肉体は引き締まり、実年齢よりも若く見えることだろう。
例に漏れず特に美形ということも無い。
ここまで来ると自由記述に書いたイケメンに産まれたいと書いたのは叶わなかったのかもしれない。
強い欲求ではなかったので良しとしよう。
退屈な期間は長く感じるもので、赤子のように振る舞いつつも、一人の時間にスキルの訓練を行う。
こればかりを繰り返し、魔法も早々に習得してしまった。
習得したのは全ての属性の初級である。
日本のサブカルチャーに触れていた人間がイメージに事欠くことはなく、基本属性・光闇・重力や空間、時といった、特殊属性を含めた全てを一通り試し、すぐにできるようになった。
初級止まりなのは破壊力と規模に問題があり、発動ができないからだ。
発動できるギリギリの魔力ですら中級になれば隠し通すことはできないだろう。
隠蔽のレベルが上がるか、それに変わる隠蔽手段を手に入れるまでは大人しくしていよう。
一人になる時間が増えたら、転移でもして遠くで練習できるのだが、それまではスキルに頼らないスキルの発動の練習をしておこう。
手始めに【魔力操作】のスキルを無効にした状態でも魔力を自在に動かせるように訓練だ。
私は言葉の意味通り、私だけの力で最強になってみせる。
ついに産まれました。
名は唯一改めカイリ君です。
さっさと大人にしてヒャッハーさせたいもんですが、自力の修行って結構好きなんですよね。
無茶で無謀と笑われようと!
意地が支えの······あ、これ以上はダメですか、すいませんでした。