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SERIAL KILL GHOST HACK  作者: 伊福部ゴラス
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 日中に降っていた雨がつくった水たまりに新宿区役所通りのネオンが映る。夜には雨が止んで通りを歩く人影も増えていった。

 すれ違った男の目つきが気に食わないという理由だけでAはその男を殺すことに決めた。

 AはUターンをして男のあとを追う。すぐに電脳への侵入を試みた。するとなんと驚いたことに23番ポートが開き放しになっていた。「こいつは相当な間抜けだな」Aは嘲った。しかしまあ、おかげで穴を探す手間が省けた。Aはあっさりと男の電脳に侵入し、さっそく管理者権限を乗っ取った。ここまでの工程およそ500ミリ秒。

 個人情報ファイルを開き、ざっと身元を洗うルーチンを流す。男は日雇いを転々として日当を稼ぐごく平均的な50代の男だった。男がもし政府関係者や国家公務員だった場合、若干リスクが上がるため一応行っている確認作業だ。評価はグリーン(もっとも安全)だった。900ミリ秒。

 電脳内の適当なファイルにシグナル・モードにセットした「遠隔操作爆弾(R.C.B.)」を置く。その後いくつかのログファイルを書き換えて足跡を消し男の電脳から離脱する。全工程で1800ミリ秒弱。Aは小さな満足感を得た。

 男は新宿の区役所通りを歌舞伎町方面に歩いていった。歓楽街に近づくにつれネオンはさらにけばけばしい色彩を放ち、通りも人で溢れてきた。Aは男を見失わないようしつつ、10メートル以内には近づかないように気をつけた。監視カメラに一緒に映りたくなかったからだ(Aのスキルなら監視カメラシステムをハックし対処できるが今回はその手間を省きたかった)。

 男の姿が人影で見えなくなるくらい人通りがはげしくなってきた。Aは頃合いを見計らってトリガーとなる信号を発信した。

 「遠隔操作爆弾(R.C.B.)」はAがプログラミングしたマルウェアだ。特定の信号か時限装置をトリガーにして指定のサーバにハッキングをしかけるだけの単純な構造だが、そのハッキング先が軍や公安といった最高レベルのセキュリティで守られているデータベースというところがキモだった。 軍や公安のデータベースの深部にハッキングした場合、破壊的ファイアウォールが起動しハッキング元を逆探知、反撃をしかける。具体的には、ハッカーの電脳は焼かれ、生身の脳味噌は沸騰することになる。

 R.C.B.は、Aがデザインしたハッキング・スクリプトを対象者の電脳内で流し、あたかもその人間がハッキングを仕掛けたようにみせかける。そして対象者の電脳とともにR.C.B.も焼かれ証拠は一切残らない。

 もちろん、軍や公安のデータベースに侵入すること自体容易なことではない。Aはそれらのハイレベル・セキュリティを突破できるスキルと経験値を持つハッカーだった。Aはいままで相当な人数をこの手口で殺害してきたが、足がつくどころか殺人事件として認識すらされなかったことがその証左でもある。

 トリガーを発信してしばらくたっても変化がみられなかった。しかししばらく進んでみると人波がなにかの障害物をよけるように左右に割れていった。人の流れを邪魔していたのは、R.C.B.をしかけた先程の男だった。男は地面にうつ伏せで倒れていた。その顔は苦悶の表情に固まっていた。男が死んでいるのが誰の目にも明らかだったが、誰一人として気にとめる者はいない。A自身、死体に一瞥をくれただけでとくに感慨もなく、無感動に通りすぎていった。

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