隠されたものたち、スピンアウト版(つつかれた右肩)
僕は、何想うこと無く、一人で歩いている。
頭が、ボーっとして、目的がはっきりとしない。ただのジョギング中なのだろうか。道幅は3,4メートル程、左右をブロック壁に挟まれ、真っ直ぐな路地だ。
灯りが途中で途絶え、暗闇へと向かっていることに気が付いた。そこに引き込まれそうだ。
次第に遠近感も消え失せ、ついに何も見えなくなった。自分の足下、腕さえもわからない。急に道に迷ったかなと考えた。怖くて、もと来た道を戻りたいとも思った。
そんな時、
〈つんつん〉
ふと、後ろから右の肩をつつかれる感じを受けた。一本の指先で押されては引かれる感触だ。それが、2,3度続いた。
「誰だよ!」
と、声を出して振り返ると、ベッドの上で目を覚ました。
(あぁ、夢だった)
そこから見えるリビングの床は、ダウンライトの明かりで、オレンジ色に照らされていた。壁掛け時計が垣間見えた。朝の4時。
しばらく、寝れなかった。
7時を過ぎ、朝食中の娘、理沙に訊いても、
『知らない』、『「もう朝!」って起こす時間じゃないわ』と、素っ気ない返事だ。
確かに、もう1,2時間は寝れる時間帯だった。
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その夜、おばの麗子さんが亡くなった。母のお姉さんだ。
携帯電話番号のSNSメールで、従妹から連絡があった。体の調子が悪いと聞いていたが、こんな急とは。
息を引き取ったのは午後の5時頃、夕方だと。
(自分の最後、『あの世に向かう直前に、尋ねたら何でも答えてやる!』と、豪語していたのに)
と、幼児みたいに、ぐずった矢先、身震いが起きた。
ハッ。
(あの夢。もしや、虫の知らせ?)
だが、夢は早朝だ。夕方5時との間は、短針が一回りの12時間以上も。
時間差がありすぎる。
(もしかして、危篤であることを、僕に知らせようと)
実のところ、娘の悪戯だったのかもしれない。僕は、確か左肩を下に、右を上にして横になっていた。後ろから指先で突こうとしたら、簡単にできる格好だ。
いや、違う。おばが、この状態に気が付いてくれと、つついてきたのかもしれない。
麗子おばさん、他界した母以上に、僕を褒めたり怒ったりする時も。
『あんたは、私が腹を痛めて産んだ子だよ!』
そう伝えたかったのだろうか。
そんな風に考えると、涙がこぼれ落ちそうに。
了。